ただ大丈夫だっただけ
恋愛要素は薄い……。
我が国の王位継承権は特殊な状態で選ばれる。
王族の血を引く者は幼い時王に連れられてとある場所に向かう。
「ぎゃぁああああああああ!!」
「帰りたいよぉ~」
向かって行く途中で泣き出す子供、逃げる子供は王が持っている犬笛で迎えを呼び、呼んだ兵士が連れて帰ってよい、ただし、その時点で王位継承はない。
迎えに来る兵士たちは王の直属の中で特に優秀な者たちだが、この迎えに来る時の表情は青ざめていて、体調が悪そうな者ばかりだ。
それに不思議に思い首を傾げていたのは私と彼だけだ。
他の子供たちも目的地に進めば進むほど顔色が悪くなり、体調を崩していく。
最終的に目的地に辿り着いたのは私と彼だけで、その時になって、目的地がどんな場所であるかと継承の条件を知らされて……。
実は王の娘であった私と王族の傍流の彼がそれぞれ継承者になった。
そう。性別が違ったので私と彼はどちらかが王でどちらかが王配になると言う事が決定して、切磋琢磨する関係となったのだ。
「――これはどういう事ですか。お兄さま」
王太子としての教育。そして、学園での授業に合わせて、生徒会の副会長としての日々を送っていた矢先、
何故か、兄とその取り巻きに囲まれていた。
「いや、妹のお前にきちんと分を弁えてもらおうと思って待ち伏せしていただけだ」
「弁えて……ですか……」
兄の側近の手には剣。しかも剣先を潰してある練習用ではなく、しっかり相手を殺せる対人用のものだ。
兄の傍には一見可憐な少女が心配そうにくっついているのを目で捉えて、凝視する。
「きゃっ、怖い」
小さく悲鳴を上げて、兄によりくっつくと兄はそんな少女をまるで魔物から守るかのように抱き寄せて、剣を抜く。
「直系の男子である俺ではなく、女のお前や傍流の者が継承権を持っているのがおかしいのでな。きちんと説得しようと思ってな」
「よその国はよその国。我が国には我が国のやり方があるんですよ、どうせ、この国の継承権はおかしいと言われてその気になったんでしょう」
その横でくっついているお嬢さんにでも。
「煩い!! 兄を敬う事もしないで生意気な事ばかり言って!! 今日こそは我慢ならん!!」
と兄の手には奇妙なモノ。
何かの宝玉だが淀みが見えて呪いのアイテムだと一目で分かる。
「これを手に入れたからもうお前の好きにはさせんぞ!!」
「アルフォンス様格好いいです~~♪」
「リーシャ。危ないから離れていろよ」
といちゃいちゃとバカップルぶりを……いや、片方は完全に演技だが。見せられて、こっちがドン引きしているのにも気づいていない。
「やれっ!!」
兄の命令に取り巻き達が動き出す。その様にどこの家の者だったかを思い出して後で家長から注意してもらうように伝えないといけないなと思いつつ、兄の後ろでじっと控えている少女から目を離さない。
「エーテリオン」
手頃な物としてカバンの中に入れてあった万年筆を取り出し、召喚する。
万年筆が一瞬で流麗な一振りの剣に変化する。
「せっ、聖剣エーテリオン………」
動揺する兄の取り巻きには一瞥せずに兄を盾にしようとしていた少女に向かって剣を振り落とす。
ついでに呪いのアイテムだろう宝玉も一刀両断で消滅させる。
「なっ、なっ、なっ………」
兄が慌てる声と共にデレデレと鼻の下を伸ばしていた少女の安否を気にして近付こうとしたが、それに気づいて一瞬で後ずさりする。
少女の姿はぼやけ一匹の魔物に変わっていたのだ。
「な、なぜ、見破った……」
剣によって血を流した魔物が信じられないとこちらを見てくるので、
「魔物には歴史書はありませんか? 貴方のやり口は8代目国主が兄にされた手口とそっくりですよ」
と冥土の土産として教えると、
「そ、そんな……」
ショックな顔で魔物は消滅していく。
「さて、お兄さま」
私の元にこんな事をしに来たのだからあっちにも来ているだろうなと聖剣エーテリオンを万年筆に戻して、兄に詰め寄る。
兄は尻餅を搗き、取り巻きに守られている状態だが、明らかに自らの分が悪いのを悟って青ざめている。
「仮にも勇者の末裔があのような手段で利用されると言う意味分かっていらっしゃいますか」
「し…知らなかったんだ……」
知らなかったから仕方ないと自分の非を認めない様を見て。
「それもあるから王位は世襲制じゃないのですよ」
と身を以て実感してもらったのでこれ以上説明するつもりもない。首から下げていた犬笛で直属の部下を呼び兄と取り巻き達を回収してもらう。
兄に構っている場合じゃないと慌てて走り出そうとしたが。
「どこに行くの?」
とどこかのんびりした声と共に大量の魔物を倒して、消滅するのを見届けていた青年がそこにいる。
「クワイエット」
「ディアーナがタイミングいいところでエーテリオンを送ってくれたから無事だったよ。ありがとうね」
へにゃっ
気が抜けそうな笑みを浮かべているのは私の婚約者であり、切磋琢磨する関係の次期王候補。この学園の生徒会長だ。
「誰の手引きでここまで来たの?」
「兄が魔物の色仕掛けにあった」
「ああ。それは第八代目王の時のやり方と同じだね」
魔物は学ばないのかねと告げる様に。
「私たちが勇者の後継者候補だから学んだだけで兄のような王族は知らないだろう」
とフォローのようで兄を貶す発言をする。
「勇者の後継者を使えば魔王の封印が解けると思っているからな必死なんだろうな」
こっちはいい迷惑だけど。
と呟くと。
「まあ、それも勇者の末裔の使命と言えば仕方ないよね~」
その呟きには同意したので頷く。
私とクワイエットが辿り着いた場所は魔王が封じられている場所であった。
いまだ強い魔力を放つ魔王は、人間は当然として、同族の魔族すら近付く事が出来ない。
そこに近づけるのは勇者の血を引く、勇者の資質のある者だけだ。
古の昔、魔王が人々を襲い、勇者が封じた。
だが、勇者は封印はいつか破かれるもの。慢心して封印を忘れてはいけないと自分の子供に告げて、
初代王としての絶対的神との契約という形で王になれるのは魔王の魔力に耐えられる勇者の資質がある者だけと遺言を残した。
そのため代々の王は王族の…勇者の血を引く子供を魔王の封印の場所まで連れて行き資質を確かめて、勇者としていつでも戦えるように帝王学と共に勇者として必要な事も学ばせる。
魔王の魔力に耐えられない子供も出てくる恐れがあるので王は側室を持ち子だくさんになり、血が薄まらないように近親婚も行った。
で、今代は私とクワイエットが無事に辿り着けたので婚約者になったのは当然と言えるだろう。
「…………」
勇者の修業はきつく、辛かった。それでも耐えられたのは必ず傍にクワイエットが居て、共に慰め合い、高め合えたから。
吊り橋効果だと言われてもおかしくないが、そんな関係だったからこそ互いに相手を大切に思えた。
だからこそ――。
「今回の騒ぎの大元は私が倒したから私が王に一歩前進しただろう」
「えぇぇぇぇ~!! 数で言えば僕でしょ~!!」
魔王が復活したら王が魔王を倒しに行く。だからこそ、相手に危険な事をさせたくないので自分が王になると互いに努力をし続けるのであった。
候補ではない王族に教えないのは変な考えに陥って封印を解く恐れがあるから。