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地獄に唄えば

作者: 物部がたり

 ヒトラーに取材したこともある、ガレス・ジョーンズは世界恐慌の中、繁栄を続けるソビエト連邦に疑問を抱き、真実を知るため単身モスクワへ向かう。

 ガレスはソ連、成長の一因がウクライナにあることを知るも、監視の目が厳しく、それ以上の取材はできなかった。

 だが、ガレスの真実を知ろうとする気持ちはソ連に勝り、監視の目をかいくぐり、当時のウクライナへ侵入する。

 

 そこでガレスが見たのは、現在ホロドモールと呼ばれるウクライナでの大飢饉であった。ソ連のスターリンは五ヵ年計画を推し進め、集団農業(コルホーズ)により、プロレタリアたちに強制労働を強い社会主義を経て共産主義へ至ろうと画策していた。

 計画経済という名の下、プロレタリアたちの労働で得た食料をソ連は搾取した。

 様々な原因が複雑に絡み合い、各地で大飢饉が起こり、現在わかっている限りでホロドモールによる犠牲者数は一千万人を優に超え、少なくとも二千万人近くの人々が強制労働や飢え、寒さ、口減らしにより命を落とした。


 正に、ガレスはその大飢饉中のウクライナの現状を目の当たりにしたのである。

 その現状を一言で表すならば「人為の地獄」であった。

 子供たちは地獄に唄う。


〈飢えと寒さが――〉

〈家の中を満たしている――〉

〈食べるものはなく――〉

〈寝る場所はない――〉

〈私たちの隣人は――〉

〈もう 正気を失ってしまった――〉

〈そして ついに 自分の子供を食べた――〉


 食糧はすべてソ連に没収され飢えに苦しむ人々、食べるものはなく木の皮、あるいは我が子まで食った。

 ガレスはウクライナを彷徨った末、荷物を盗まれ、更には吹雪に遭い空腹と寒さで今にも死にそうだった。心身ともに衰弱したガレスは寒さをしのげる場所を求めて見つけた一軒の小屋に迷い込んだ。

 その小屋には子供たちがいて、衰弱したガレスに食料を分けてくれた。

(自分たちが食べるのすらままならないのに、食べ物を恵んでくれるなんて……)と、ガレスは言葉では表せない感謝を感じたことだろう。


 だが、ガレスはこんな飢饉の状況で、どうして肉があるのかを不思議に思わずにはいられなかった。

「この肉はどこで?」

 ガレスが問うと、肉を恵んでくれた少女は「コーリャ」と答えた。

「それは誰?」

「兄さんよ」と少女は答えた。

「お兄さんか」

 少女は肉を食べながらゆっくりうなずいた。

「猟師なの」

 子供たちはガレスの目を見なかった。

「どこにいるの」


 得体の知れない胸騒ぎに、ガレスの全身の細胞という細胞が萎縮するのを感じた。

 家には子供たちが言うお兄さんの姿はなかった。

 猟に出ている? とも子供たちの反応を見る限り思えなかった。

 ガレスは家の中を奥へ奥へと進んでゆき、裏口から外を見た。

 そこには、死んだ何者かの死体が雪の上に寝かされていた。

 

  *             *


 そういう映画を観た――。

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