星霜を超えて
「私、星が好き」
夏も折り返し終わりへ駆け出した頃の夜。微かにそよぐ風が服の裾から迷い込み、肌をくすぐるのが僅かに火照る僕の身体には心地好い。君と僕は、草花の揺れる土手の上で、星空を見上げていた。穏やかで緩やかなこのそよ風に似た時の流れ。ただ僕たちは黙したまま、散りばめられた光を見つめていた。
どれくらいの間、そうしていたのだろう。不意に彼女がそう呟いた。
「特に小さい星が好き。目立つ綺麗さなんて二の次。ただ、こんな遠くまで光を届けてくる、そんな星が好き」
君は寝転んだまま空に、星を掴まんと手を伸ばす。小さい手、その細い指先は彼女の目に映る星空を覆う。指の隙間から洩れる遥か彼方からの光を、その澄んだ瞳は捉える。
「星は生き物だ、っていう話があるけど私もそう思うの。あの星たちにも私たちみたいに寿命がある。私たちから見ればそれはとても、とても長い時間。でも星たちの感覚からすれば私たちが感じる命みたいに、星の命も短いものなんだと思う。だからあんなに頑張って、短い命を削って輝いているんだと思うんだ。死ぬ前に誰かに自分を見てもらいたい、自分がいた事を覚えていてほしい、暗い宇宙で必死に輝いて誰かに自分がいる事を認めてもらいたいから」
静かに、訥々と君は語る。星の事を言ったのが、途中からは君の気持ちを星に代弁させたものなのだろうと僕は思う。どう答えたものか、と君の方を見て喋ろうとするが上手く言葉は紡げず声は出ない。
「私、星になりたい」
星にぐっと伸ばしていた両手を降ろして、君はお腹の上で手を組み、君はすうっと瞳を閉じた。その目に星の光を大事にしまい込むように。
「私は星みたいに、生きたい……」
座って見上げていた僕も彼女に倣い、寝転がった。すぐ傍の草の匂いが僕の鼻腔をくすぐる。君は確かに言った、生きたいと。その言葉、どれほどの想いで声にしたのだろう。
僕は君に言った。ちょっと照れながらだったけど。
「じゃあ、僕が君を見ているよ。僕が君を覚えている。僕が君がここにいた事を証明する。……僕じゃ、駄目かな?」
恥ずかしさやら何やらで照れ臭くて、目だけ動かして君を見る。君は僕の方に体を傾けて、クスリ、と照れる僕を見て。
「ありがとう」
とても安心したように、幸せそうに君は僕に微笑んだ。その時確かに僕は星を君に見た。君の輝きは僕に届いていた。
あれから幾年過ぎただろう。
僕の隣に君はいない。
君は望み通りに星になれただろうか。あの晩と同じ土手で星空を見上げる。あの中の何処かに君はいるのだろうか。
「僕は君がいた事を知っている。覚えている。あとは君を見つけるだけだ」
あの日届いた輝きを手掛かりに、この生涯を懸けて君を想い、君を探そう。
再び、君と在る為に。瞬く星天に腕を突き伸ばし、全てをさらうつもりで掌を握る。
「君の輝きを僕は忘れない」
前に書いたものの手直し、というか文字数増やしただけのものであります。夏も終わってがっつり秋な今頃に投稿するなんて季節感のない人間と、私も思います。
まー作品について、と語る程もなかったり。勢いに任せて書いたので。二人について記述が少ないというか皆無な感じですが、皆さん想像で頑張って下さいと投げてみんとす(笑)