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① 「私がモデルをやるから」

 2ヶ月ぶりの新作となります!

 1万5千程度の中編ですが、それでも楽しんで下されば幸いです!

 俺――大澤真也(おおざわしんや)は美術部員だ。


 目の前に置いた白磁の壺を見ながら、それをスケッチブックに絵描いている。

 いわゆるデッサンだ。


 中学の頃から美術部を入っていたので、自慢じゃないがそれなりに上手い方。

 

 陰影も悪くない、バランスも良し。

 このまま進めば満足のいく完成品になるはずだ。


「ねぇ、真也ぁ」


「…………」


「真也ったら!」


「ん? ああごめん何?」


 夢中になって描いていたら、隣の美咲に怒られてしまった。


 コイツは穂村美咲(ほむらみさき)


 中学の頃からの腐れ縁で、かつ俺と同じように美術部を中学から通っている。

 なのでコイツも隣に座りながら、壺のデッサンをしていた。


 やや明るい茶髪のセミロングが特徴的で、ふわっとした花のような可愛らしい顔つき。

 これまでに何人かに告白されているくらい、かなりモテている方だ。


「いやぁ、先輩達がいなくなってから静かになったねぇってさ。なんか寂しいね」


「言われてみればなぁ。というか今は俺達しかいないしな」


 この美術部。3年の先輩が卒業した事で、俺と美咲しかいなくなってしまった。

 一応、部活としては維持しているので気にしてなかったけど、確かに少し寂しいかもしれない。


 先輩達と一緒に絵の話をしたりとか、色々と楽しかったなぁ。


「美術部ってあんま人気ないらしいし、むしろ廃部にならなかっただけで御の字だよ」

 

「まぁ確かにねぇ。よく継続できたと思うよ」


 その美咲の言葉を最後に、俺達は無言になってデッサンを続けた。

 するとまた、美咲が声をかけてくる。


「ねぇ、真也。今のうちにやりたい事ってある?」


「やりたい事?」


 妙な質問に対して、俺は彼女へと顔を上げていた。

 何かそわそわしているみたいようだけど……気のせいかな?


「やりたい事……とりあえず、自分が描いた絵をコンクールに出す事かな」


「……他には?」


「えっ、他? 他って言われてもなぁ……」


「……じゃあ卒業式の前、先輩に言っていた()()は?」


「アレ? アレ……」


 一体何の話だ? 

 先輩に言っていたアレって……ん? もしかしてあの話か?



『実は俺、1回だけでもいいからヌード描きたいって思ってるんだ。大澤はどう? そういうの興味ある?』


『ちょっと恥ずかしいですけど……やりたくないというと嘘になりますね。といっても志願者が出てくると思えないんですけど』


『だよなぁ。まぁ、全裸を描かれるなんて恥ずかしいから当たり前だわな』



 部活の皆でデッサンする際、先輩が小声で話しかけた事があったのだ。


「……もしかして……」


「うん、ヌードとかどうとか。実はこっそり聞いちゃってさ」


 ……アレ、女子に聞こえないように喋っていたつもりだったんだけどな……。

 どんだけ地獄耳なんだ。


 というかこれ……ドン引きされているのかな。

 ヌードをやりたいなんて、普通は嫌な顔をされるはず。


「いや……あれは機会あったらやってみたいなぁってだけで……そんなやましい事じゃ……」


「そんなことくらい分かってるよ。真也は女子に対して奥手だしね」


「奥手って……そもそもお前はドン引きしないの? こういうのに関して?」


「ううん別に? 芸術家ならヌードくらい考えるだろうし。それに今ならさぁ、私達以外に誰もいないし、ヌードやるにはもってこいじゃん」


「……そんな事を言われても……」


 気軽に言ってくれるな、コイツ。


 大体ヌードをやるからには、女の子を文字通り裸にするという事だ。

 いや、ちゃんとタオルとかするだろうけどさ。


 そんな恥ずかしい事を進んでやる人なんていないだろうし、まして俺に裸の女の子を描く度胸があるかどうか……。


「やってみたくないの? ヌード」


「……別に」


「うん、やりたそうな顔してる。だったら今のうちにやるべきだよ」


「いやいや、勝手に言うなよ。第一、勝手にやったら怒られるだろうし、志願者だって出るはずもだろう」


「私の方から顧問の先生に話しておくよ。それに志願者を探す必要もないし」


「ハッ? それはどういう……」


「……私がモデルをやるから」


「……ん?」


「私がモデルをやるから」


 美咲が大事な事なので2回言いましたとばかりに復唱した。

 という事は聞き間違いじゃない……。


「私が裸になって、それで真也がデッサンする。それで完璧じゃない」


「ハハッ、美咲。エイプリルフールはとっくに過ぎているぞ。騙されないからな」


「私は本気で言っているんだけどなぁ」


「……いいのか美咲……それって相当の覚悟いるぞ? そもそも俺にお前を描く度胸なんて……」


 女性の裸なんて、それこそミロのヴィーナスくらいしか拝んだ事がない。

 そんな俺が急にヌードデッサンをするなんて、無茶にほどがある……。


「大丈夫だよ。真也は絵に対して熱意を持っている。ヌードだって真剣に描いてくれると信じているよ」


「買い被りすぎだろ……」


「事実だよ。それに真也には色んな事を挑戦させたいし、私はそんな真也に協力したいの。……あと真也に描かれた方が嬉しいというか……」


「へっ?」


「な、何でもない! とにかくさ、やってみようよ。私は覚悟しているからさ」


 そこまで俺を信頼しているという事かな、美咲の奴。

 ……こう言われている以上、断るに断りづらいな。


「お前が良いのなら……やらない事も……ないけど」


「よしっ! じゃあ先生に話したり準備したりするからさ、デッサンは明日って事で! 絶対に忘れないでね!」


「明日!? そんな急に!?」


「鉄は熱いうちに打てって言うじゃん! すぐやらないでいつやるって言うの!?」


「そう言われても……」


「とにかく決まり! ちゃんと上手く描いてね!」


 そう言ってニッコリ微笑む美咲。


 ……大丈夫なのかそれで。

 というか俺……上手く描けれるのかな……色んな意味で。

 ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

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