第2話 禁忌
「何、欲求不満なのお前?」
「あーどうかな。いやそうかも、超不満」
「身近に男いねーの?」
「いるじゃんここに」
「カウントするな」
「丁度いい竿が」
「竿とか言うな」
不覚にも笑ってしまった。つられて言った本人も笑っている。
「マジの話、兄妹でのセックスなんて絶対タブーじゃん?」
「まあな、遺伝子的にも近すぎると色々不味いらしいし」
「でもさ、これって凄くない!?」
「……何が?」
急にテンションを上げた千紗に若干驚く。
「他に絶対やっちゃダメな事って何がある!?」
質問に質問で返されたことに少し躓きつつ、お題を出されたからにはそれに沿って考えていく。
「人殺したり?銀行強盗とか、森に火つけたり?よぼよぼの老人ボコボコにしたり?」
「えぐっ、まぁ絶対やっちゃダメじゃん?」
引くなよふっといて……
「おん」
「でもセックスは誰も傷つかないし違法でもないの!」
「違法……ではないのか?」
「超合意の上だし!お互い未成年だし!おいおい、法律がばがばすぎだろざっこぉ」
「お前の頭がな」
「わふっ」
調子に乗んなと千紗の頭に手を乗せる。
「何が不満なのお兄ちゃんは!?面白い事って得てしてルールのギリギリ攻めるもんじゃん!」
「つってもやっぱ兄妹だし」
「そのモラルは誰の為のものなんだい?自分の首を絞めてないかい?」
「……それもそっか」
もにゅ
おっぱいやわらか……ちっちぇけど。
…………
……
寒すぎるくらいの部屋だというのに、興味がそそるがままに気が乗るがままに一枚また一枚と衣服が肌を離れていった。
肌が粟立ってしまわないように抱きしめる手に力を込めたし、気づけば流れた汗がぐちゃぐちゃに混じり合っていた。
あと少し、もう少しで、熱く奥で果てることが出来そうだ。あと少し、もう少し……
ドピュガチャ……
「え……」
作業用にも見えるけど普段使いにも見えるポロシャツと褪せたジーパン。キャップを被った見ず知らずのおっさんが酷く驚いた顔でこちらを見ていた。がっつり目が合った。
「誰……」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
おっさんは気が動転しているのか奇声を上げながら部屋中を走り回りだした。
「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
千紗が悲鳴を上げ、俺も悲鳴を上げ、おっさんも悲鳴を上げた。
パニックはパニックを呼び、
「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「助けてお兄ちゃん!!お兄ちゃん助けて!!殺してええええええええええ!!」
ゆさゆさと揺さぶられる脳で咄嗟に思いついた、目の端に移った小さな花瓶を思いっきり投げた。
ガシャーーン!
ぽたっぽたっ
おっさんの頭に見事に直撃し、割れた破片が飛び散った。中に水は入っていなかったはずだが水滴の滴る音がする。
「はぁ……はぁ……」
浅い呼吸を繰り返しながら片腕で千紗をギュッと抱きしめつつ、倒れて動かなくなったおっさんの様子を伺う。
「……死んでる」