失ったもの
初めての作品なので問題点はたくさんあると思いますが、読んでいただけると幸いです。
「先に上がります」
「おう お疲れ」
今日は2月16日、妻の誕生日だ。
ケーキは昨日買ったし、後は帰って8才の娘と一緒にお祝いするだけ。
『おむかえにいくね』
娘からメールがきた時には気分は最高潮だった。普段は何のモチベーションもない仕事も、この後のことを考えれば有り得ないほど手が進んだ。
帰りの電車でもニヤニヤがたまに漏れてしまって周りの人から変なものを見る目で見られてしまった。
しかしそんなことどうでもいい、そう思えるほどの幸せを噛み締めていた。なんだかこの時間がずっと続けばいいのにな、と年甲斐もなく思ったりしてしまった。
最寄りの駅を出てしばらく歩いていると、辺りがやけに騒がしいことに気がついた。何かあったのだろうか?
しばらくすると、数台の救急車がすごい音をたてて私を追い抜いていった。しかし、それも100m行ったくらいのところでその音を止めた。あわただしく動き回る救急隊員、騒ぎたてる周囲の人が目に入り、気になって、ちょうどこちらに向かってきた女性に聞いてみた。
「何があったんですか?」
「親子に車が突っ込んだらしいわよ!お子さんなんて小学生っぽかったし、奥さんもお若くて 無事だといいわねぇ」
ドキッとなにか嫌な予感がした。
ドクンドクンと早くなっていく心臓の音。
気がつけば話していた女性にお礼も言わずに走り出していた。
周囲の人の声なんてもう聞こえていなかった。
息も絶え絶えになってやっと入り込めた中心地には見たことのある小さな靴があった。
そしてその奥には、先ほどまで一番会いたかった人達が倒れていた…
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「あの時から五年目かぁ」
考えてみると一瞬だった、妻と娘がいなくなってからの五年間。あのあと、葬儀や裁判の準備ができないほど落ち込んだ。
そんな様子を心配してだろうか。親族達は新しい相手を次々に勧めてきたが、私は全て断った。そんなことで二人のことが忘れられるわけがないから、と。
あれから私は転職して交通安全に関するボランティアを転々とした。せめてこのような悲しい思いをする人が少しでも減るように。
「そろそろ昼飯でも食うか」
そこそこ名の通った団体に所属できた私は時折小学校の交通安全教室にお呼ばれすることがある。
今日も子供達が安全に過ごせることを祈って活動を行ってきた。
丁度、時計の針も昼飯に良い頃合を指していたので、近くにあった公園にコンビニで買った弁当を持って食べようかとしていると、
「まじでー」
「やばくなーい?」
何を言っているのか、そもそも意味なんてあるのか分からない、でも確かに勢いと若さだけは私でも感じられるような高校生っぽい女子の会話が聞こえてくる。あと2年もすれば娘も高校生だったのか。そんなことを思いながら弁当の蓋を開けていると、ふいに大きな音がした。
嫌な予感がしながらその音の出処を見てみると、クラクションを鳴らしながら車が走ってきていたのだ、ちょうど車道を渡ろうとしていた先程の高校生の元に…
『プーーー』
女子高生はまだ気がつかない。自分たちに鳴らされていることに気づいていないのだろうか。
車自体も何かしらの事情があるのか、全く止まる気配がない。
「くそッ」
気づいたときにはもう走り出していた。
1人はもう大丈夫であろう位置にいたため、もう1人との間に、出来るだけ車とのクッションになるように、と。
バンッ、という音に続いて長い浮遊感があった。
「ここまでなのか…」
だんだんと小さくなっていく周囲の音。
そこで私の意識は途切れた。
指摘する場所があったらどんどんいってください。
より良いものになるように頑張ります。