ログイン-3
カプセルの中を、機械的な女性のアナウンスが響き渡ると、再び目の前のディスプレイが点灯し、名前や性別などのプレイヤー情報を入力する画面が映し出される。
タッチ入力で全てを打ち込み終えると、次のアナウンスが流れた。
『容姿情報を登録します。体を楽にしてください』
次の瞬間、強烈な緑色の閃光が足元を照らし、光線が俺の全身を舐め回すように目まぐるしく往復する。
「うわっ!?」
『スキャン完了。声帯登録完了。アバター作成中…………作成完了。最後に職業を選択してください』
突然の色々でしばし呆気にとられたものの、職業についての話は事前に説明を受けていたから、すんなり飲み込むことができた。
俺たちがこれから暮らすのは、元々VRのMMORPGとして売り出す予定だった仮想世界。つまりファンタジー溢れる異世界だ。これから第二の地球となる場所とはいえ、世界観や仕様まで変更する余裕は流石のアルカディアにもなかったに違いない。
選べる職業は、【ファイター】【ローグ】【メイジ】の三種類。
このシェルターに来てから今日までの間に、予習は完璧だ。このジョブは一度選ぶと変更が効かないので、ここでの選択がかなり重要になる。
あくまで、俺のように、向こうの世界で真剣にゲーム攻略をしようだなんて考えている変わり者にとっては、だが。
『初期登録完了。アバター情報を更新しました。両手をももの横につけ、ゆっくり呼吸を繰り返してください。………………バイタル正常。目を閉じてください』
いよいよその瞬間が迫り、ふと湧いた、焦りにも似た感情に戸惑った。これを最後に、俺はもう二度とここで目を覚ますことはできない。このゲームに、ログアウト機能は外されている。
これから出会う未知への好奇心と、この世界への未練が、綱引きをしているみたいだった。
父の言葉。これから同じ場所へ向かう家族の存在。この、奇跡のような技術に携わった人々。そして、地球と共に滅びることしか許されない、途方もない数の命。俺の背中を押したのは、その全てだった。
ありがとう――涙が流れるのと同じくらい自然に、口にしたその言葉が、ログインの合言葉だったのだろうか。瞼の奥で、色とりどりの光が爆発した。
麻酔を吸ったように意識が遠退く。七色の閃光が、躍り、弾けて、混ざり、全てがかき消えるほどの鮮烈な白色となって、俺を塗りつぶした。