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9.俺には分かるんだ!

「なんでお前がここにいんだよ?!」

 俺は鼻の穴にティッシュを詰め込みながら背後に仁王立ちしている花房に問う。


「お前らの先生に頼まれたんだよ。様子見てこいって」

「はい?」

「おじさんが俺の代わりに店手伝ってんだ、香奈さんとな」

「なっ……?!」


 吉岡のヤツ、さっきっから教師としての自覚ちゃんとあんのか?

 お前の生徒らがこんな昼間っから人目を盗んでイチャコラしてんだぞ?


「ええと、そっちの二人、名前なんだっけ?」

「咲田と川嶋です」

 康太が気まずそうに自己申告する。


「ごめんな、教師をやってたの数ヶ月間だったから、名前がうすら覚えで……」

「その割には新道の名前はちゃんと覚えてんだな」

「……あぁ、まぁ。たまたま」

 そう言って俺から目を逸らす。


 コイツ、絶対普通に覚えてだだろ。

 俺はさっき聞いたんだからな。

 お前と新道にあったこと……


「で、君は?」

「斎藤だ!」

「あぁ、ごめん」


 ナメやがって。

 俺は一年の時も新道と同じクラスだったぞ?


「でも嬉しいや。先生来てくれるなんて思ってなかったから」


 新道……

 お前も川嶋みたいにそんな顔するのか……

 やっぱりお前、花房のこと……好きなんだな。


「おじさんの頼みだし、お世話になってるしな」


 歯切れの悪い言い方しすんじゃねぇよ。

 本当に新道に会いに来たんじゃないだろうな?

 ……俺はどこまでもお前を疑うぞ!



「とにかく、咲田くんと川嶋さんはもう少し自制すること! 気持ちは分からなくもないけどな」

 ハハハと笑ってポリポリ頭をかく。


 気持ち分からなくもないんかい!!

 元教師の言うセリフか?!


「せっかくの修学旅行なんだし俺が案内するよ。まだ集合時間まで少しあるだろ」

「やったぁ!! 修ちゃんたまには役に立つなぁ!」

 新道がはしゃぎながら花房の腕に絡みつく。

 花房はすぐに手を振りほどいていたが……


 お前、絶対新道の事普通の生徒だと思ってねぇな。

 俺には分かる。

 分かるようになったんだ。

 気になっている娘を目の前にして顔がニヤけてしまう事。

 それを必死に隠して顔が引き攣ってしまう事。

 本当は触れたいのにわざと振り解いてしまう事。


 お前は新道に好意を持っている!

 そうだな?

 絶対にそうだな?!


 俺は誰も割って入れない距離で並んで歩く二人の後ろ姿を睨みつけながら、渋々後を追った。



 ◇◆◇◆


「なんか逆効果になっちゃったみたいだね」

「……だな。恥ずかしいところも見られちゃったし……」

 康太の顔がまた赤くなる。


 私たちは優と斎藤くんがどうも仲悪そうだったから、ほんの少し二人だけの時間を作ってあげたら距離も縮まるかなぁ、なんて余計な気を利かせて見たんだけど……

 結局見事に墓穴を掘る結果になってしまった。


「アイツすげープリプリしてるもんな。なんかあったのかな」

「……さぁ」


 私たちの前を一人鼻息を荒くしてガニ股で歩く斎藤くん。


「おい、斎藤! 何そんな怒ってんだよ?」

「あ? 怒ってねぇよ!」

 振り返って私たちを親の仇と言わんばかりに睨みつける。


「怒ってんじゃん! 優と何かあったの?」

「ねぇよ、何にも」

 むぅっと不貞腐れながらまた優と花房先生背後をピッタリと追う。


「なによ、感じ悪い! まあいいや、そんな事より康太、優と花房先生って何気にお似合いだよねー」

「ん? そうかぁ??」

「だってこうして後ろ姿見てると恋人同士みたいじゃん?」

「まぁ……先生と生徒ならあんなに距離近くないか」


 またピタっと斎藤くんの足が止まる。


「……どこがお似合いなんだよ? 女子高生に手を出す元教師なんて最低中の最低だろうがっ!」

「別にいいじゃん。もう先生辞めてんだし、年上だっていいじゃない? カッコイイし、優しいし」


 いちいち突っかかってくるんだから。

 ただ親友の幸せを願ってるだけじゃない。


「……柚子、やめとけ。斎藤、今日はなんか殺気立ってるし、俺、後でちゃんと話聞いとくからさ」

「……? うん、分かった」


 康太は何か知ってるんだろうか?

 私は優の幸せそうな顔が自分のことのように嬉しいけど。

 男と女じゃ受け止め方が違うのかな。


 康太をフッと見上げると目が合った。

『大丈夫、俺に任しといて』

 そんな瞳の奥のメッセージを拾いながら、相変わらず私はさっきのキスを思い出しては康太にまたドキドキしているのだった。



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