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7.最悪のタイミング

「柚子達遅いね。どうしたんだろう」

 新道はさっきから何度も自分のスマホを覗いている。


「全く何やってんだろうな」

 俺は彼女の背後にチラッと見える店内の掛け時計を見るフリをしながら、目の前で風に揺らめきながら艶々とした黒髪を密かに愛でていた。

 いつもなら待ち合わせ時間15分も遅れて来るなんて許すまじ行為、貧乏ゆすりが止まらなくなるくらいイライラするのに。

 もういっそのこと、康太も川嶋もここで待ち合わせしている事を忘れてしまえ、なんて思ってしまう。


「ねぇ、探しに行く? もしかしたら何かあったかもしれないし」

 新道が立ち上がる。


「いや、ここ離れたら行き違いになるかもよ?」

 待て待て、早まるなって!

 アイツらのことなんて、もうどうだっていいじゃん。


「じゃ、斎藤、ここで待っててよ。私様子見に行ってくるから」

「え? ちょ、待って? もう一人はイヤ!」

 俺も急いで立ち上がる。


「何女子みたいなこと言ってんのよ、キモいなぁ!」

「キモいとか……言うなよ!」


 俺でだって背も高し、泳ぎ早いし、細マッチョだし、自分で言うのもなんだけど結構イケてると思ってんだぜ?

 キモいって、何がだよ。

 どこがだよ!!


 俺はガラスに映った自分の全身を、くまなくチェックする。


「自分の姿に見惚れてんじゃないわよ。そう言うとこがキモいっての!!」

「じゃ、新道はどういう奴がかっこいいって思うんだよ」


 俺だって頑張ればきっと……


「どういう奴っていうか……花房先生みたいな人かな……」


 頬を赤らめて……

 あそこまでイケメンじゃないと俺はお前の視界にも入れないのか?

 だったら……


「康太の方が顔はいいだろ?」

「康太は何ていうか……もう柚子とセットだったし。そういう目で見たことないよ」


「花房は……顔の他にどこがいいんだよ」

「なんであんたにそんなこと話さなきゃなんないのよ?」

 ツンとソッポを向いた。


「……気になる……からだよ」

「あたしの趣味聞いたって、あんたがモテる参考にはなんないわよ」

「いいから教えろって!」


 新道の驚いた顔。

 やべ、しつこすぎたかな……


「まぁ、一人で悶々としてるより、吐き出した方がまだマシか」

 すうっと大きく息を吸った。

「あたしさ、花房先生が学校にいた時、実は学校外でばったり先生に会ったことがあって」

「うん」


「その時、塾に通ってたんだけど、他校の男の子にしつこく言い寄られててさ。毎日毎日誘ってきて、ついに断りきれなくてその日、一緒に帰ることになって」

 俺はじっと新道の話に耳を傾けた。


「最初は普通に優しい感じで会話してくれてたんだけど、別れ際に突然抱きつかれて……。すごい嫌だったの。好きじゃなかったし」

 少し声が震えているのに気がついて、立ち上がった彼女を座らせた。

 俺もまた座り直して彼女が口を開くのをじっと待つ。


「……キスされそうになって。『やめて!』って叫んだんだ。でも帰り道もう時間も遅かったし誰も近くにいなくて」

「……それで?」

 まさか……キスされたんじゃねぇだろうな……


「そしたらさ、『俺の女に何してんだよ?』って後ろから声がして。私の身体に触れてた手をその男がつかみ上げて『二度と近づくんじゃねぇぞ、コラ』って怒鳴りつけてさ」


 顔が……赤くなってる……


「その私にしつこかったヤツ、チッて舌打ちしてその場からダッシュで逃げってったの。あたし、誰が助けてくれたんだろうって急いで振り返ったら……それが花房先生だった」

「えぇ?!」


 嘘だろ……?

 そんな偶然あるのか……?!


「後から聞いたら、先生は私が自分の学校の生徒だなんて全く思ってなかったらしくて。たまたま私たちの後ろ歩いてて、明らかに私に気がないのに彼がしつこく言い寄ってきてるって分かったから、『彼氏』のフリしてしめた方が効き目あるだろうってその時は思ったんだって。生徒だって分かってたら先生だって名乗ってちゃんと注意できたのにって、なんか異様に恥ずかしがってたけど」

 クスクスと思い出し笑いをしている。


 俺の知らない、新道と花房……

 久しぶりに再開した、ただの教師と生徒ってわけじゃなかったのか……


「その後、なんか……あった?」

「え? 私と花房先生?」

「あ、あぁ……」


 そりゃ聞くだろ。

 このままじゃ夜も眠れない。


「あるわけないでしょ? それっきり。学校で会っても話題にもなんなかったよ」

 ふふふと笑って見せる。


「私は一瞬、王子様が来たって思ったけどね」

「王子様……ね」

 ホントそういう類、女は好きだよな。

 そんな事を思いながらも何もなくってホッとしている、他人のような自分がいたりする。


「でもさ、きっとずっと心の中のどこかで、先生の事忘れられなかったんだと思う。あたしさ、いつもかっこいいって思う人が現れても、どうしても先生と比べちゃう。先生とこんな形で再会することになって……やっぱり好きなのかなって、ここでずっと考えてた」


「……え?」


 なんだよ……

 そんな恋する乙女みたいな顔してんじゃねーよ……



 すっげー可愛いのに、なんか……悲しくなるじゃねぇか。



「斎藤はさ、好きな子いないの?」

 今の俺にその質問は酷すぎるだろ?

 まだ、俺はお前の事……好きになったかも……なんてまさかな事態で、頭の中がぐちゃぐちゃになっているところなのに。


「……いねぇよ。いるわけねぇだろがっ! 俺の周りは芋みたいな女ばっかだからな」

 俺は立ち上がって新道に背を向けた。


「だよね。斎藤もちょっとはモテる努力でもしたら? あたしも人のこと言えないけどね」

 俺の後ろでそう言いながら、ドンと背中を押してくる。


「柚子にも心配かけちゃ悪いし、わざわざ言う事でもないかなって思ってたから……言葉にして、誰かに聞いてもらったらなんかスッキリした。ありがとね」

 振り返れば、今まで俺が見た新道……一番のスマイル。


 なんで今なんだよ……

 なんで……


 タイミング、悪すぎだろ……

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