6.か、可愛い?
「あーもう限界!」
時計を見ればまだ30分しか経っていない。
(今からどこか喫茶店にでも入って30分足らずで出るのもしんどいし、新道のいるカフェに戻ってゲームでもやってるか……)
キーホルダーの入った袋をぶら下げて待ち合わせのカフェへ向かう。
こんなに早く行ったらまたウザがられんだろうな……とも思ったけど、俺からしたら新道と話している時間はそんなに苦ではない。
店が見えると海が一望できるデッキのテーブルに一人座っている新道が目に入る。
柔らかい午後の日差しが彼女の頬に当たり、キラキラと光っている……?
(……泣いてる?)
遠くをじってと見ている彼女を、俺はその場に立ち止まって目が離せなくなった。
いっつもあんなに威勢がいいのに、泣くこともあるんだな……
何か映画でも見ているようなその光景にのまれ、俺の心臓が変に誤作動を起こし始める。
(なんだ……? なんなんだ……??)
ドックドックと荒々しく暴れ出した左胸は今まで水泳などで息が上るのとは全く違う、感じたことのない切ないキュンと鳴く感じ……
店に入ろうと足を踏み出したくても前に進めない。
金縛り……?!
なわけないか……
(動かなきゃ、とにかく……)
そう思っていたらふと彼女がこっちを向いた。
(ヤバイ、気付かれる!!)
俺の心臓はかつてないほどの高速な動きを見せる。
ここから逃げ出したい、見られたくない……
理由がよく自分でも理解できないまま、額から汗がじっとり滲み出た。
「ちょっと、そこで何突っ立ってんの?!」
慌てて涙らしきものを拭っているように見えたが、いつもの新道の威勢のいい声が飛んできてハッと我に帰る。
「い、いや、海が綺麗だなって……さ」
いつもならもっと通る声が軽々出るのに。
何かが喉に詰まってうまく届かない。
「綺麗だよね、ホント」
そう言って微笑んだ。
また睨まれるって思ってたのに。
また大声で『あっち行けっ!!』って怒鳴られると思っていたのに。
可愛いじゃん……
すっげー可愛いじゃねーか……
そう思った自分に気がついて、かぁっと全身血が巡る。
なんだ?
なに可愛いとか思っちゃってんだ?
新道だぞ?
中身ほぼ男のあの新道だぞ?!
「こっちおいでよ。もう14時になるし」
あろう事か俺は20分近くここに突っ立っていたらしい。
時が止まるってのはこういう事か……?!
「あ、あぁ」
上擦った声が隠しきれない俺を見て、新道が笑いながら首を傾げる。
なんだ、その角度?!
ヤバイくらいキュートじゃねーか!!
震えながら大きく深呼吸をする。
(抑えろ……抑えろ……!!)
俺はロボットのように右手右足を同時に前に出していた。
なんだか息苦しすぎて視界がクラクラする。
急に襲ってきた俺の第二形態……?
もうコントロール不能……!!