5.俺に彼女はまだ早い?
「新道、あのペンギンなんかお前に似てね?」
俺達は今江ノ島水族館に来ている。
「あのさぁ、気のない女の子にだって、もうちょっと気の遣いかたってもんがあるでしょ?」
「だって強そうじゃん、ほら、子分あんなに従えてさ」
「だからいちいち失礼だっつーのっ!」
俺は今コイツのちょっとした事ですぐプンスカ怒るところにツボっている。
「ねぇ、康太! 斎藤の相手ちゃんとしてよ。コイツさっきっから嫌な事しか言わないし!」
ほらな、また怒ってる。
「おい、斎藤。新道だって色々あんだからもっと気の利いた言葉かけてやれよ。一応女の子なんだから」
「何一応って?! あんたも大概ね!!」
今日は中々ヒートアップしてるな。
やっぱりさっきの花房先生の事が効いてるんだろうか?
「ホント男みたいだよな、実は外見女のフリしてるだけなんじゃね?」
中身も女っぽかったらもっとモテんだろうに。
「ちょっと、それは酷いでしょ! 優は私よりずっと中身も女の子らしいんだから」
「お前は中も外も女らしくないもんな」
「斎藤、黙れ! 俺の彼女侮辱すんな!」
康太が守るように川嶋を引き寄せる。
おいおい、なにマジギレしてんだよ。
冗談に決まってんだろうが。
「いいよね、柚子は。そうやって守ってくれる相手がいてさ」
「優……」
なんだよ、珍しく落ち込んだ顔して。
そんな反応期待してたんじゃねーんだけど。
「斎藤くんはさ、そんな事ばっかり言ってると女の子全員近寄ってくれなくなるからね!」
「結構結構!! 俺は美人拝んでるだけでも十分満足なの!」
っていうのは嘘で。
本当は彼女めっちゃ欲しい!!
でも、よくわかんねー。
好きになるってどんなんだろう?
康太が川嶋にあんなに入れ込んでるのも俺は今だに謎だし、あの二人がただずーっと一緒にいて楽しそうにしているのも全く理解できない。
康太はココ来て魚よりも川嶋の事ばっかり見てるし……正直、アイツよりイルカの方が愛嬌あってよっぽど可愛いだろ?
「なんかさ、あたしちょっと一人で考えたい事あるんだ」
新道が突然神妙な面持ちで話し出した。
「柚子と康太も二人きりになりたいでしょ? 恋人の丘だっけ? 行きたいって言ってたじゃん」
「言ってたけど、優も一緒に行こうよ」
「あんなとこ、私が行ってもお邪魔虫になるだけだし、斎藤とセットになりたくないし」
はぁとため息をつきながら俺を睨む。
「あたし行きたいカフェあるからさ、そこでゆっくり海の景色でも堪能してるから二人で行っておいで」
「ちょっと、俺はどうすんだよ??」
何、一人で観光しろっての?!
「あんたはギャルでもナンパしときゃいいでしょ!」
新道が俺と激しく距離を置いた。
「……なんだよそれ」
「空気読めって言ってんの!」
なんの空気だよ。
面倒くせぇな。
「とにかく、解散解散!! みんな14時にここに来て。斎藤も一時間位時間潰せんでしょ、色々見るところあるんだから」
「おい、一人とか辛すぎでしょ? 新道一緒に行こうよ」
「断るっ! 私はこれからについてちょっと頭の中を一人で整理したいの!」
プイとそっぽを向いてあからさまに俺を避けた。
「だー! 分かったよ! 一時間だけだぞ? ったく!!」
なんなんだよ、勝手だな!
そもそも元々計画立てた通りに鎌倉観光してりゃこんな事にならなかったのに。
ホント全部吉岡のせいだ!
いい歳こいて浮かれやがって、フラれちまえってんだ!!
結局俺の抵抗も虚しく、各々解散し一人虚しく土産物屋を回る。
何が悲しくて一人まんじゅうを手に取ってんだ? 俺は。
周りを見渡せはカップルばっかり。
手を繋いだり腕組んだり、腰に手を回したり……
女の子に興味があるのはもう素直に認める。
自分に惚れてくれる可愛い女の子が側にいてくれたらいいなと憧れる。
でもいつもその彼女に優しくしてやれるかって言ったら自信がないし、一人でゲームを楽しむ時間も欲しい。
その前に、ゲームを超えるくらい好きになれる女が俺の前に現れるなんて、想像すらできん。
「あー、やっぱり理想と現実はかけ離れとるな。みんな付き合ってる奴はすげーわ」
自分のプライベート潰してまで彼女はやっぱりいらんな。
そう結論に達した時だ。
「このペンギン、アイツに似てんな」
ちょうど目の高さにどっさりと盛られていた小さなペンギンのぬいぐるみのキーホルダー。
笑ったと思ったら顔赤くして、顔赤くしたと思ったら怒り出して。
「ホント忙しいヤツ」
クククと思い出し笑いが止まらない。
「さっき怒らせちゃったしな」
俺はお詫びに買っていってやろうとそのキーホルダーを手に取った。