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16.修学旅行から始まった恋の行方は……?

「おはよっ! 3年も柚子と同じクラスになれてよかったぁ」


 桜の花びらがチラチラと舞い散る4月。

 あれから私は他の誰かを好きになる事もなく、結局一歩も前に進めないでいる。


「おっはよ! マイハニー!!」

「その呼び方やめてよ、恥ずかしいから!」


 こんな風に私の肩に絡みついては何度も跳ね返され、強すぎる押しに負けて今コイツと不覚にも『恋人ごっこ』中だ。

 そしてまた今年も同じクラス。


「もう本当に付き合っちゃえよー」

 他人事のように康太は言う。


「優はそんな勢いとかで簡単に相手を決める人じゃないの!」

 そう言ってくれる柚子は、きっと私の気持ちを全部理解してくれているんだと思う。

 斎藤は二人の時は確かに優しい。

 一番に自分の事を考えてくれているのもちゃんと分かってる。


 それでも……ごっこから先にはなかなか進めないのには理由がある。




 修学旅行の最終日、帰るためにバスに乗り込もうとした時だった。


「新道!!」

 息を切らせながら走り寄ってきた人の顔を見上げて驚いた。


「花房先生……?」

(もしかして、追いかけて来てくれたの……?)

 一瞬そんな風に期待してしまっている自分がいた。

 だって、もう先生から会ってくれることはないだろうって、完全に諦めなきゃって、そう思ってたから。


 バスの中から『嘘? あれ花房先生? なんで? 私服めっちゃかっこいい!』と黄色い声が上がった。


「……これ、忘れ物……」

 相当急いで来たのか、上がる息を抑えながら小さな紙袋を手渡された。


「忘れ物……?」

 なんだろう?

 全く心当たりがない。

 そんな表情で先生を見た。


「家帰ってから……確認して」

「……? はい」

 受け取る瞬間指と指が触れ合った。


 離れたくない……

 また逢いたいよ……


「……また……」

 先生がゴクリと喉を鳴らした。

「……また……?」


 スーッと息を吐いて呼吸を整えた後、『いつか……』そう言って微笑むと私に背を向けまた走り出した。


「せ、先生……!」


『また逢おう』じゃなくて、『またいつか』……。

 嫌だ、最後なんて嫌だよ……!


「ほら新道早く乗れっ!! お前が最後だぞ!」

 修ちゃんが私の背中をバスにねじ込む様に押し入れる。


「そんな、待って!」

「いいから、相談なら後でいくらでも乗ってやるから、さぁさぁ!」


 バスの中は何事かとざわつき始める。


「優! 落ち着いて、とりあえず座ろ?」

 柚子に席まで誘導されてやっとの思いで腰を下ろした。


「俺は斎藤の隣に行くわ」

 康太が珍しく気を利かせて後ろの席に座る。


「なんでお前なんだよっ!」

「うっせー! それはこっちのセリフだ!」

 そんなやりとりが聞こえながらも私は窓側の席に座って必死で花房先生の姿を探す。


「優……」

 柚子はそんな私を黙って見守っていてくれた。


 ゆっくりとバスが走り出して……

 私はもう、完全に諦めなきゃいけない時が来たんだって思っていたのに……



 私は先生が渡してくれた小さな紙袋を大切に持ち帰った。

 途中開けたい衝動にも駆られたが、たとえ忘れ物であっても先生が私の事を少しでも思いながらこの袋に詰めてくれたんだって思ったら、誰も居ない自分だけの空間で大切に開けたい、そう思った。


「忘れ物って……なんだろう?」

 しっかりと封がされていて覗く事もできなかった紙袋を開けてみると、さらに小さな白い袋が入っていた。

「………?」

 ひっくり返してみるとコロリと出てきた重量のあるそれは、南京錠……?


「なに……これ?」

 もちろん忘れ物でもないし、全く理解できない代物。

 あんなにギリギリで、息を切らせて走ってきて、渡されたものがコレ??

 しかも鍵がないから使えないし。

 あまりにも予想外のものすぎてなんだか笑いが込み上げてくる。


 でもきっと、何か意味があるのかもしれない。

 先生の何かメッセージが込められているのかも……

 そう思ったら急に体温が上がる。


「ありがと……センセ」

 わたしは先生の手の中にあったであろう南京錠をそっと握りしめた。





「なぁ、まだ花房の事忘れらんねぇのか?」

 目の前で貧乏ゆすりをしながら斎藤がまた先生の事で突っかかってくる。


「忘れるも何も、もう逢えないし、逢ってないし、古傷に触れる様な事いわないでよ。ホントしつこい!」

 優しいところもあるのに、こういうところがウザいのよ。

 クラス分けの掲示を確認し終わって私はフンと斎藤に背を向ける。

「んだよっ。今お前の彼氏は俺なんだからな! ごっこだけど……」


 私の鞄の取っ手にぶら下がりひっそりと揺れるペンギンのぬいぐるみ。


「見てろよ? お前は絶対俺を好きになる。間違いない!」

「ハイハイ」




 斎藤には修学旅行の帰りのバスの中で、そろそろ学校が見えてきた頃に突然肩を叩かれた。


「俺、やっぱお前のこと好きみたい」

「はい?」


 みんなぐったりと疲れて静まり返っているバスの中で、ひそひそ声も無駄に大きい斎藤の声が響き渡る。


「え? なんか今聞こえんかった?」

「告白?! 俺しっかり聞こえたぜ?」

「誰々? ねぇ、今言ったの誰?」

「斎藤だよ! すげぇな、公開告白!」


 一気に色めき立ったバスの中。

 休み明けの学校は一日中私と斎藤の話題で持ちきりになったのは間違いない。


 そうしてあっという間にクラス中から夫婦認定を受けてしまった私たち。

 正直面倒くさくて、クラスメイトも、斎藤もずっと適当にあしらってきた。

 でもそうしているうちに『なぁ、好きになってくれなくてもいいから試しに俺と恋人ごっこしてくんない?』そう突然提案されて……自分の未練がましい気持ちを振り切りたいって思いもあって小さく頷いたのだ。


「春休み俺に逢えなくて寂しくなかった?」

「んなわけないでしょ!」

「おいおい、彼氏に言うセリフじゃないでしょ、それ」


 金魚の糞の様に私の後を追ってきて、一緒に教室に入る。


「今日も仲良いですね、お二人さん」

「あぁ、噂のなんちゃってオシドリ夫婦か!」


 クラスメイトの顔ぶれが変わっても噂は収まる事はない。

 言われた私も特に否定はしない。

 まぁ、一応嘘でも恋人だし。

 私だってコイツの魅力的なところ……そう日々一生懸命探してはいるのだ。

 でもなかなか『好き』に変わるほどの決定的なモノは未だ見つけられずにいる。


「ハイハイおはようー」

 だるそうにドアを開けて入ってきた担任はというと、またまた修ちゃん。

 あれから香奈さんとは一気に距離が縮まってスピード入籍したそうだ。

 歳も歳だし大々的に式を挙げることもなく、受験生の担任だという事で入籍した事も公表もしてないらしい。


「先生! 康太と柚子には一報あって私と斎藤に報告がないってどういう事よっ!?」

「あいつら俺の口実に色々協力してもらっちゃったからな」

 こそっと私に耳打ちする。


「あたしだって協力者でしょ?」

「新道はまぁ、色々突っ込んできそうでなぁ……」

 そう都合悪そうに言葉を濁す。


「別に先生の恋愛話なんてツッコまないよ!」

「……うーん、そういうんじゃないんだけどな」

 何か歯に物が挟まった様な言い方。


「ま、すぐ分かるよ、お前にプライベートな事で絡みたくない理由」

「何それ? 意味不明だし! もういいですぅ」

 べーっと舌を出した時だった。


「失礼します」

 そう言って入ってきたのは……


「きゃあ! 花房先生!!」

 女子生徒が一斉に目を輝かせる。


「ほら煩いぞ! 前にウチで講師やってた花房先生が今年のうちのクラスの副担だ」

「花房晴翔です。よろしくお願いします」

 教室の角で軽く頭を下げる。


 女の子たちの歓喜の声が立ち上る中、私は驚きすぎてハニワの様になっていた。

 HRのあと、我に返った私は女子を振り切って職員室に向かう花房先生を必死で呼び止めた。


「……なんでまた学校に……?」

「久しぶりだな」

 生徒たちの前では険しいのに、今フッと笑ったその穏やかな表情は、きっと他の女子たちは見たことがないだろう。


「斎藤が危なっかしいからな」

「斎藤……?」


 私の頭にポンと手を置いた。


「1年間よろしく」

「……はい」


 何も聞けなかった。

 もうただひたすら、嬉しくて。


 聞きたいことがいっぱいあったのに。

 なんかもうどうでもよくなって。


「アレ、ちゃんと持ってる?」

「……? あぁ、もしかしてこれ?」

私は胸ポケットにいつもしまってある南京錠を取り出した。


「そう」

 照れ臭そうな顔して……


「コレ何……?」

「あ、気づいてない?」


 ビックリした顔をしたと思ったらクスクスと笑い出した。


「なに? なんなの?」

「それちょっと貸して」


私は自分の体温で温まった南京錠を先生の大きな掌にちょこんと置いた。


「あったかいな」

ハハと笑いながらサラサラとペンで何かを書いていた。


「おっけー」

そう言って私の手の中に戻ってくる。

見ると上半分にローマ字で先生の名前が刻まれていた。


「サイン?」

「まぁ、そんなもん。でも持っててくれてありがとう」

「……?」

「無事卒業できたら、記念に教えてやるよ」


 窓から吹き込んだ温かい春の風に包まれながら、先生の声が心地よく耳を擽っていく。

 後一年……一緒にいられるんだ、そう思ったら嬉しくて泣けてきた。


「ごめんなさい、私たぶん……また先生の事好きになっちゃう」

「好きな様にしろ。俺はずっと今までと変わらずにいるから……」


 渡されたハンカチからは先生の匂い。

 いいんだ、今は匂いだけでも。


「卒業する頃には、きっと先生も私の事好きになっちゃうくらい、頑張っちゃうから」

「お、そのやる気、しっかりと見届けてやるよ」



 私は南京錠の本当の意味を片想いをし続けた高校生最後の日までずっと知らぬままでいた。

 結局は柚子の口からその意味を知らされる事になるんだけど。


 今の私には想像すら出来ない一年後の自分の姿。

 私は精一杯の『大好き』を込めた南京錠を掌の中にしっかりと握りしめていた。


 まだ見えぬ恋の行先を夢見ながら……




更新結局不定期になってしまったのに、最後までお付き合いいただきましてありがとうございます!

続きを書きたかったんですが、タイトルが修学旅行って文言入っちゃってたのでここで区切りました。

先がハッキリしない終わり方もたまにはいいかなとw

需要が有れば続きを何らかの形で書こうかとも思ってますが……今のところは未定です。

ちょっとでも楽しんで頂けてたら嬉しいですm(_ _)m

ありがとうございました!


あ、南京錠は恋人の丘で二人の名前を書いてフェンスにつけると永遠の愛が叶うらしいですね(笑)


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― 新着の感想 ―
[良い点] 完結おめでとうございます! 連載お疲れ様でした! 優ちゃん……この際、斎藤はキッチリ振ろう! 何故なら男はフラれてナンボだから! 若い内はそれがいい経験に……なると信じよう(T▽T) 柚…
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