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10.不毛な感情。

 久々に見覚えのある顔を見て、……固まった。


 俺には教師は向いていない。

 勉強は子供の頃から、まぁまぁ好きだったが教師となるとまた別だ。

 まず小さい頃から勉強ばっかで一人の時間が殆どだったからか、人のあしらい方ってものがいまだによく分からない。


 祖父に強く勧められて教員免許は取ったものの……

 案の定、生徒たちに囲まれた生活ってものに馴染める事は、結局最後までなかった。


 何せ女子生徒たちが厄介で。

 一歩歩けば囲まれて、『彼女いるんですか?』とか、『好きなタイプはどんな娘?』とか、そう言った類の質問責めが猛烈にストレスで。

 高校の時に一度だけ付き合った彼女がいたが、『晴翔は女の子の事全然分かってない!』なんて謎の捨て台詞を吐かれて一方的にフラれた事が何気にトラウマになってるのかもしれない。

 俺は俺なりに、彼女の事が好きだったのに。


 今の生活は結構気に入っている。

 空き時間にコーヒーを飲みながら静かな空間で読書して。

 キャーキャー騒ぎ立てる女子高生もいない。


 それなのに。

 懐かしい顔ぶれが目の前に現れて……驚いた。

 特にその中の新道優は個人的に特別視してた自覚があったからだ。


 学校では他の女子生徒と対して変わりないキャピキャピした子……そう思ってた。



 いつもなら講師の俺は残業なんてまずないし、部活の顧問をやっているわけでもないし大体そんなに暗くならないうちに家に辿り着のだが……

 あの日はプリントなどを作成していて帰りが遅くなった。


 帰り道、明らかに男がしつこく女の子に言い寄ってるのが分かって、思わず声をかけてしまった。

 それが新道だなんて、その時は全く気がつかなかったんだ。


 男が逃げ出してあまりにも彼女が震えてたから、心配になってほんの少し自分の方に引き寄せた。

 彼女はその時俺の方を見ていた様だったが、俺にはちょうど影になって女の子の顔は見えなかったんだ。

 あまりにも不安気に立ち尽くしているその娘の心許ない様子を見て、単純に安心させようと抱き寄せた。


『ありがとう、先生』

 その一言で、全身血の気が引いた。

『まずい、生徒だったのか?!』と。


 慌てて事情を話したが、もう明日には彼女を抱き寄せた事とか、『俺の女に何してんだよ?』なんて言ってしまった事とか、きっとあっという間に広まって、俺は言い訳も虚しく犯罪者紛いの汚名を着せられてクビになるんだろう……なんて一気によからぬ想像が膨らんだのを覚えてる。


 でもまぁ、教師なんて向いていないって、もう俺はその時思っていたし、辞める口実にするにはちょうどいいか……とも思った。


 だから全てを受け入れて、彼女に口止めもしなかった。


 でも、予想外にも新道は誰にもこの出来事を話さなかったみたいだ。

 むしろ何事もなかったかのような顔をして翌朝『おはようございます』ってサラッとすれ違った。


『こんな女子生徒もいるんだな』そう思って、俺は新道の事を段々とチラチラ意識して見るようになっていった。

 そして少しずつ好意に変わっていく自分の不毛な感情に気づき始めた時、これはマズイと思った。

 そりゃそうだろう?

 彼女はまだ高校一年生だぞ?

 それこそ犯罪だ。


 俺は自分の感情に深入りする前に教師を辞める事を決意した。



 ……それなのに、彼女は突然俺の前に現れた。

 新道の顔を見た途端、ずっと蓋をしていた本音が少しづつ顔を出し始めている事を一生懸命否定しようとしている自分……

 そしてまた、彼女が周りの空気を読んで俺からスッと離れようとして……自分でも理解不能な変な虚無感に襲われた。


 もっと自分を求めて欲しい……?

 必要として欲しい……?


 分からない。

 この気持ちは……なんなんだ?


 謎に蠢く感情をコントロール出来ず、おじさんと香奈さんの仲睦まじい姿を口実に、『俺が生徒たちの付き添いをするから、おじさん店頼む』なんて都合のいい事を言って、母さんのカフェを飛び出していた。




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