VS.mtH解体プログラム起動
――また、白い装甲を踏みつけて高らかに笑う。
もう何度もホワイト・ナイトを倒した気がするし、何度も勝利宣言を叫んだ気がする。
同じ相手を何度も抹殺できるはずがないので不気味ではあるものの、繰り返し味わえる高揚感を否定したくはない。
『幼馴染:気持ち悪い笑い』
ただし、LIFEの誤通知だけは勘弁ならない。
ユヅルハは五体満足で目の前に立っている。蝋人形のように不気味な無表情で突っ立っているだけだが、無傷でいるのならそれで満足だ。
復讐を果たせて、ユヅルハも救えた。
まるで夢のような世界だ。
『幼馴染:我が幼馴染ながら、ここまで歪んだか。私が死んでしまったのが悔やまれる』
これは現実だが、仮に夢だとしても一切気にしない。
幼馴染が殺されてしまった俺が復讐を果たす。人間としては正常と言える行動だ。法律で規制してしまうぐらいに、当たり前に行われていた普遍的な夢だ。
罪ある者に罰を与える。立派な行動ではないのか。
『幼馴染:まぁ、本心からそう思っているなら、私は私の魂をかけて応えるけどね。こんな端な力じゃない。蛾ごときでは吸いきれない力を授けてあげる』
人間として当たり前の行動を取っているのに、何度も問いかけてくるな。
俺の夢は、ホワイト・ナイトに復讐を果たす事だ。
『幼馴染:自分の夢を語る癖に、当たり前とか立派だとか、理屈っぽいのよ。アンタ……』
第二.五ヒーローの戦闘力は怪人マヨイガへと追い縋った。
地力に差があるので百近い開きはあるものの、四百と三百であれば決定的な差とはなりえない。怪人マヨイガが戦闘の玄人であったのなら話は違ったかもしれないが、組織を統率する側である怪人マヨイガの戦闘センスは皆無だ。
第二.五ヒーローも素人であるのが悩ましいところであったが。
「戦えるぞ。ぐっ。戦えているぞ。げふぉ」
「あうっ。何がどうしてマヨ。かはっ。こんなパチモンに。うげふォ」
二人の戦いは戦闘力を持て余した者同士の泥仕合となっていた。
ターン制のステゴロとギリギリ言えるだろうか。恐ろしい速度で単調な攻撃を繰り返して、両人ともダメージを負い続けている。戦闘力が均衡している所為で回避もままならない。
切った口内から血が流れているが、まだまだ戦いは終わりそうになかった。
「このッ、怪人アーミーアリ!! スケーリーフットを仕留めなさいなマヨ」
だから怪人マヨイガが部下を使い、ヒーローへとトドメを刺そうとするのは当然の一手だ。
ビルの物陰で機会を伺っていた怪人アーミーアリが姿を現す。筒状の武器を肩に担いでおり、道路に横たわるスケーリーフットに向けて弾頭を発射する。
「させません。怪人技“クモの糸”!」
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“怪人技:クモの糸
救助専用の怪人技。攻撃に転用するとすぐに切れてしまうが、要救助者をけん引する分には決して切れない。
なお、要救助者が糸の細さを不安に思うと、その分、強度が落ちる”
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安田の手から伸びる糸がスケーリーフットと繋がった。か細い糸でありながらたった一本で黄色いパワードスーツを引きずって殺傷範囲から救出する。
ロケットランチャーの爆発で大気が渦巻く中、怪人アーミーアリは鋭利な形状のナイフを構えてスケーリーフットを追う。
ただ、跳躍してきた安田に組み付かれて思うようにいかない。怪人アーミーアリは苛立ちで牙を鳴らした。
「怪人ミシェル・スパイダー。よくも我々を裏切ったアント!」
「もう止めてください、怪人アーミーアリさん。皆で一緒に話し合いましょう!」
「黙れアント! 旧人類の愚行は政府軍に属していた自分が一番知っている。多数を守るためならば、少数を切り捨ててしまえる非道な種族。それが旧人類だ。いまさら話し合いで解決できるものか!」
「それは決めつけです。私達も旧人類だったのですから、旧人類を信じてあげてください!」
「大都会ディスイズニーランドの空襲に巻き込まれて生死を彷徨ったお前が、よくもそんな空論を言えるアントッ」
安田に押さえ込まれていた怪人アーミーアリであるが、体術で拘束をすり抜ける。
脇下のホルスターから抜いたハンドガンで倒れるスケーリーフットを射撃。多くは装甲に弾かれたが、一発が亀裂から侵入して中の五十鈴へと直撃する。
「うッ!」
「止めてください。怪人アーミーアリさん!」
「種族間戦争を起こしたのは狂気にかられた旧人類のヒーローだアント。ヒーローは危険! ヒーローであれば新人類であっても危険度は変わらない。来るべき新時代を理性的なマヨ様に統治していただくためにも、ヒーロー・スケーリーフットには犠牲になってもらう!!」
「それでは、怪人アーミーアリさんの言う旧人類のやり方と何も変わらないですよ!!」
更なる銃撃を安田は手を広げて防ぐ。銃弾を握って潰す。旧人類のような外見のままであろうとも中身は怪人という事なのだろう。
安田は戦闘力で怪人アーミーアリを上回っているが、怪人アーミーアリを倒すのではなく止めようとしている。負けはしないが勝つ事もない。戦いは長引くと予想された。
「ならば、怪人アゲハ。あの豆腐屋の車を狙えアント!」
怪人アーミーアリは戦場に残り続ける豆腐屋の自家用車を怪しいと睨んだ。
外見を無害な豆腐屋に装っているものの、やけにタイヤが沈んでいる。外見通りの車ではないと看破して、怪人アゲハに攻撃を指示した。
空を飛んで現れた怪人アゲハが急速落下してくる。
豆腐屋の車の天井を貫いて、怪人アゲハは荷台の中へと侵入する。
中にいた上杉は破片を浴びながらも手を止めず、ノートパソコンをタイプし続けていた。
「そこの眼鏡、何をしているパピ」
「……mtHの基礎理論は修教授の発展型。いや、機能限定版に過ぎない。正しく理解できていないんだ。穴だらけでハッキングには助かるけれど、美しくない実装方法だね」
「おい、訊いているのかパピ!」
「内部の人間には、干渉できる。夢を見せているのは怪人技だとしても、維持しているのはmtHのシステムだ」
「こっちを見ろパピ、旧人類!」
怪人アゲハが肩を掴んで無理やり上杉を振り向かせた時、彼の指は既にエンターキーを押していた。
黒いウィンドウが一瞬だけ表示されたのは、mtH解体ソフトウェアが起動した証だ。
「お前、何をしていたパピ。答えろ!」
「悪いね、僕は眼鏡なんて名前ではないんだ」
「しらばっくれるなパピ、旧人類!」
怪人アゲハはノートパソコンを踏みつけて破壊したが、プログラムが起動しているのはクラウド上に存在するサーバーだ。上杉を取り押さえてももう遅い。
「二郎君が夢に違和感を覚えるようにしただけさ。あまり時間がなかったから、些細な違和感に過ぎないけれども、それで十分。僕達の第二ヒーローがヒーローであろうとするのなら、きっと目覚めてくれる」
――また、ホワイト・ナイトを踏みつけている。
どういう戦闘で勝利したのか分からないが、とりあえず勝利して足蹴にしていた。
喜ばしい。
……喜ばしいはずだ。
…………喜ばしいのだろうか。
「………………えっと。なんか、急に飽きた」
『幼馴染:ちょっとぉーっ。ソイツは私の仇だったんでしょ。連続で繰り返しみたドラマみたいな反応をみせないでよ!!』
「これが俺の夢だったのか。妙に虚しい」




