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VS.mtHの元ネタ

 キツネの仮面をつけた陰陽師服が、指で挟んだ札に対して語りかける。


「狙うはただ一人。――悪業罰示式神“前鬼”、おこしやす」

「侵入者アント?! マヨ様を狙っているのかッ」


 落下中だった陰陽師服に先行して、実体化を果たす赤い鬼の上半身。プロレスラーの肉体を上回る重量級。正しく鬼面の化け物が野太い腕を振りかぶって、下方にいるマヨに狙いを定めた。

 A級怪人に相応しい戦闘力を有するマヨではあるが、純粋な肉弾戦には弱い。そうでなくても、架空上の存在でしかなかったはずの鬼の一撃は重い。一打であっても致命傷となるだろう。

 陰陽師服を着た人類最後のヒーロー。彼女の奇襲は成功している。マヨに対抗策はなかった。



『――やはり、人類最後のヒーローは現れていたか。タイプORめ、新人類側の三人目も早く選べというものだ。……怪人中堅ハマチ、やれ』

「CEOの命令とあれば、この中堅ハマチにお任せをっ!!」



 ドクトル・Gの合図を待っていたのだろう。

 これまで姿を現していなかった魚型怪人が、弾丸のごとき速度で空中を泳いで戦場に割り込む。マヨを殴り飛ばす直前だった赤鬼を迎撃した。

 分厚い胸板の中央に衝角のごとき頭をぶつける。そのまま空中を泳いで旋回し、仰向けに倒れていく赤鬼の頭に第二撃を加える。


「前鬼がっ?!」

「ふーははッ。新卒モジャコから卒業した中堅ハマチ! CEO直々に改造いただいた僕は怪物相手であろうと負けはしない!」


==========

 ▼怪人中堅ハマチ

==========

“戦闘力:55”


“怪人技:出世意欲

 改造手術に耐えるたび、確実に怪人としてのパワーが増す”


“遊園地に遊びに来ていた新卒サラリーマンが怪人化した新卒モジャコ、が更なる改造手術によりパワーアップした怪人。魚特有の流線形の顔立ちと、魚の尾を持つ怪人が背広を羽織っている。

 パワーアップの影響か、何故か空中を泳いでる”

==========


 水族館にいる回遊魚のごとく、室内でありながら機動攻撃を仕掛ける怪人中堅ハマチ。

 赤鬼も一方的にやられてばかりではなく、通り過ぎる魚影にカウンターを加えている。怪人中堅ハマチは鬼の打撃に耐えて、尾で鬼の顎を跳ね上げた。


「魚介系怪人の残党ですか、ドクトル・G」

『第二ヒーローへの復讐心があったゆえ、ワシが再改造した。まだ完成形とは言い難いが、アレをお前に貸し出そう。マヨイガ』

「……ご厚意、ありがたく受け取りますわ」


 マヨはくやし気に奥歯を噛んでいたものの、素直に承諾する。ドクトル・Gが怪人中堅ハマチを派遣していなければ命が危なかった。助けられた事実を作られた後ではもう拒否できない。

 しぶしふと、マヨは手勢の怪人アーミーアリに守られるように後ろに下がる。


「マヨ様を狙ったお前は許せんアント! 怪人技“フェロモン誘導”」


==========

“怪人技:フェロモン誘導

 特定人物のみが気付く臭いを場に残せる”

==========


 執務机の上に立った怪人アーミーアリが、口から体液を発射する。

 回避したものの、人類最後のヒーローは服の袖口に液体を浴びてしまう。赤鬼を使役する奇怪な技を使う代わりに、本人の運動能力はそこまで高くはないらしい。

 怪人アーミーアリは、ホルダーから取り出したハンドガンを構える。


「――悪業罰示式神“大蛤オオハマグリ”。もっと霧を!」


 新たな札を持ち出して、室内に霧を発生させる人類最後のヒーロー。霧にひそんで銃の射線から逃れるつもりらしかったが……怪人アーミーアリは霧に隔たれた先にいるヒーローを正確に照準する。


「効果は地味だが、対象ににおいをつける怪人技は実戦的だアント!」

「くっ、怪人との実戦は思いもよらない事が起きますね。前鬼、私の盾になりなさい」


 人類最後のヒーローはマヨを狙わせていた赤鬼を下がらせて、怪人アーミーアリが撃った銃弾を合金のような体ではじかせた。


「中堅ハマチの出世のいしずえとなれ、ヒーロー」

「じきに他の怪人も現れる。ヒーロー、諦めろアント」

「怪人三体だけなら、まだどうにかなります。けれども……」


 キツネ面で隠れる顔の裏側ではあせりが強まっている。

 既に奇襲は失敗している。関西政府や大都会のヒーロー二人をすべておとりにして、自ら敵の拠点に攻め込む。拠点の場所は予測通りであり、侵入するところまではうまくいったが、詰めが甘かった。


「手札を出し渋りました。たかがA級怪人が随分とやるようで」


 出し渋ったと言っても、陰陽師服の袖の中に隠している札は残り二枚。使用している札も二枚。戦力の半分をつぎ込んではいるのだ。

 たかが一支部、たかがA級怪人を倒すのにこれ以上は使えない。人類側のヒーローは彼女一人だけなのに対して、現人類が倒すべき新人類側のヒーローはまだ三人・・も残っている。



「……たかがA級? 聞き捨てならない言葉」



 静かな怒気をはらんだマヨのつぶやきに反応したのか、壁に貼りつけられているmtHがあわく発光する。

 発光は青く不気味に、連鎖していく。

 照明が落とされ、ただ暗く広い空間としか分からなかったマヨの執務室の全容が浮かび上がっていく。

 歴史を感じさせる木造りの空間だ。オーケストラのコンサートでも行えそうであるが、残念ながらステージは存在しない。マヨが仕事場としてリフォームする前には議員席が多数並んでいたため、演劇には向いていない。


「大都会の中枢に巣食うこのマヨイガを、たかがと言った、小娘?」


 この四百人の議員が出席可能な議会場は左右対称の建物の中にある。マヨが主に使っているのは入口から入って左側の方。

 建物全体の名前は、大都会議事堂と呼ばれている。


「旧人類のヒーローごときが、どう私を倒してくれると?」

「この、繭玉は……えっ、式神札と同質の気配が……まさかっ、ありえないッ?!」


 人類最後のヒーローが困惑するのは仕方がなかった。

 mtHの製法には、過去の大陰陽師が生み出した式神札の技術が応用されている。

 敵対人類を封じて式神として使役する式神札。千年前のいにしえの技術のため、現代ではもう廃れてしまい製造法が伝わっていない。使用後の札が三枚、未使用品が七枚残されているだけだ。

 ……だというのに、議事堂の中だけでも万に近い人間を格納したmtHが存在する。目を疑う光景だろう。


「現代科学で再現された……式神札ッ?! 現人間を封じて使役しているのですか!」

「そういえば、プロフェッサー・IはタイプOKと接触後、関西に一時期滞在されていた。mtHの根幹技術はその後に生み出されたものだったわね」

「度し難いエヴォルン・コールッ!! ここの怪人だけでも確実に削ります!!」


 本気を出さなければ追い込まれる。そう直観した人類最後のヒーローは、隠し持っていた先祖伝来の式神札二枚を取り出した。

 ……その瞬間を狙ったかのごとく、雷撃と銃撃が襲いかかる。



「旧人類最後のヒーローか。狩り甲斐がいがある」

「ドクトル・G。ヒーローは始末してもよろしいので?」



 議会を見下ろす二階に、四つ腕の内の二本で腕組みしている怪人雷獣太と、アサルトライフルを腕から生やしたホワイト・ナイトが立っていた。ドクトル・Gの命令で現れたのは確実だ。

 エヴォルン・コールの二大強戦士の投入。種族間戦争において、ヒーロー討伐にはそれだけの価値がある。


 タイプOK。

 タイプOA。

 タイプOR。

 三体の上位存在が新旧両方の人類から一人ずつ選定するヒーローは、種族の代表選手だ。三対三の種族間戦争に勝利した人類は生存を許されて、敗北種族は絶滅させられる。


 集中砲火を受けた箇所にヒーローの亡骸は転がっていない。

 はるか後方で、重機に等しい大きさの鎧武者の腕に腰かけている。

 鎧武者は亡霊のごとくうつろであるが、強者の気配を一切隠せていない。体格に相応しい大剣を肩でかついでいるのも目を引くが、兜から突き出している二本のつのも印象的だった。


「――悪業罰示式神“温羅ウラ”、おこしやす」


 現人類の存続のために人類最後のヒーローは逃走を選んだ。彼女が敗退しない限り現人類の死滅は決定しないのだから、正しい行動だった。


『雷獣太、ホワイト・ナイト。追撃しろ。最終作戦を始動するよりも先に勝利を決定づけてしまうのだ!』


 ドクトル・Gの命令に応じた二体が人類最後のヒーローを追って大都会議事堂を離れた。

 まねいていない客が一斉に去っていった直後、残ったマヨの元へと第二ヒーローが届けられる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] これまで仄めかされていた設定の詳細が明かされましたね ミスリードを考えなければ現在判明しているヒーローは現人類側の幼馴染みと京極さん、新人類側のスケーリーフットとホワイトナイトの四名でしょ…
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