VS.次時代のエネルギー革命
『幼馴染:――という訳で、ピンチなのよ。ヒーローなら早く二郎を救出。ハリーハリー』
「左手だけ動かせる気絶というのは何なの?!」
『幼馴染:私の事はどうでもいい。来るの、来ないの?』
「五分で追いつく。スマートフォンを起動したまま位置情報を通知し続けていて!」
怪人ウィッシュ・クリケットを無事に倒したというのに、しばらく考え込んでいた五十鈴響子。
彼女は受信したLIFE通知により第二ヒーローの窮地を知る。近頃やり取りする頻度の高い謎の幼馴染、享年十九歳からの連絡だ。
黄色い甲殻の内壁に埋まったスマートフォン――五十鈴の怪人技で取り込んでいる――に、第二ヒーローの位置情報を表示する。建物を無視した激しい位置ズレ的な高速移動。飛行する怪人に運ばれているのだろう。
背面にブースター――こちらも怪人技で取り込んだもの――を展開しながら、半壊した衣料品店の外へと向かう。
「イィーッ!」
出口を塞ぐため、外から勇敢な戦闘員が現れた。
「足止めのつもりか。いまさら戦闘員がたった一人で!」
怪人さえあっという間に倒してしまう五十鈴である。たかが戦闘員ごときで止められるはずもなく、覆面をはたいて植木に突っ込ませる。
改めて外に出ようとした五十鈴であったが――、
「イィーッ!」
「イィーッ!」
「イィーッ!」
「ティーッ!」
「ETィ!!」
「イィー?!」
――自動ドアの向こう側を埋め尽くす、おびただしい数の戦闘員を目撃してしまい、半歩下がってしまった。
戦闘員が七分に駐車場が三分。目算でも軽く千人に達するか。スクラムを組んで離陸に必要な駐車場を封鎖している。また、組体操のサボテンをしながら五十鈴を威嚇している。
ブースターの位置を変更すれば垂直離陸も可能だっただろうが、多数の歩くサボテンの入店を許してしまった。枝担当の戦闘員に次々と体を掴まれて、もう飛行どころではない。
「人海戦術ドクトリンのつもりか?! 怪人ではなく戦闘員の大量動員、何を考えているっ!」
「C級怪人も戦闘員も、倒されるまでの時間は変わりませんもの。でしたら、数を用意できる戦闘員の方が足止めに向いている。当然の戦力配置ね」
遠隔地にいるスケーリーフットの疑問に、マヨは律儀に答えていた。
いつもの暗く広い空間の執務室で仕事をこなしながら、怪人アーミーアリを近くに立たせている。なお、中継映像越しに答えたので、当然ながらスケーリーフットに声は届いていない。
映像内では、最前線と思しき群衆の中央より、戦闘員がピンボールのごとく次々と飛んでいる。mtH接続で多少耐久性を上げているのが効いているのか、三人に一人は転がった先で立ち上がって戦線に復帰していた。
「力自慢のヒーローも常に全力とはいかないでしょう。第二ヒーロー様のお仲間への襲撃はどうなっていまして、怪人アーミーアリ?」
「ぬかりありませんアント。怪人ミシェル・スパイダーを差し向けました」
「これで万が一の救援も阻止しました。第二ヒーロー様は確実に私の元へと届けられるでしょう」
ライオンはウサギを狩るのにも全力を尽くすというものの、A級怪人が普通の人間相手にまで配下を差し向けるのは大人気ない。これでは逆転のしようがない。
ヒーローの関係者を封殺した今、大都会はマヨの思うがままだ。
「さて、そろそろ非常事態宣言を発令しましょうか。大都会中で怪人が暴れているという真実を会見で流して、都民に避難誘導を求めるの」
「そして、避難先に待機させているC級怪人に採取させると。ここまで徹底されているとは、マヨ様の作戦は恐ろしくありますアント」
そのすべては、マヨの目的を確実に達成するための布石である。
「これでより多くの旧人類を救えるでしょう。すべての旧人類を救う事はできないけれども、私の手で掬えるのであれば最大数を掬いたいもの」
そのすべては、マヨの欲望を確実に達成するための布石である。
「対価に、私の繭の中で永遠に夢に没し、mtHユニットとして新時代における主力エネルギー源になってもらうのだけど。ふふ、夢を見るだけのお仕事なんて、とってもホワイト。私の髪の色と同じ」
怪人を新人類とする新しい時代では、もう旧人類という資源は手に入らない。そんな時代に多数の希少資源を確保、利用するマヨが新時代の覇者となるのは当然だ。
石油やレアメタルを産出する国が豊かであるように、mtHを所持するマヨが豊かになる。
怪人や戦闘員の戦闘力を向上させる。そんなものは副次的な利用法に過ぎない。生物、機械に関わらず動力を電線要らずで提供する。それがmtHという革新装置である。
原始の地球でミトコンドリアは真核生物に吸収されたが、mtHは次の時代のエネルギー発生装置として吸収される。
白く長い髪を散らしながら、マヨは頬杖をつく。
「とっても素晴らしい眺め。これ等が私を支配者へと導いてくれる」
マヨの視線の先には白い繭玉が壁一面に並んでいる。mtHに加工された人間達の末路である。
繭の中に囚われた人間達は死んでいる訳ではない。生命反応はほぼフラットとなっているものの、きちんと生きている。彼等彼女等は今、自分がどういう状態になっているのかを理解しないまま、覚めない夢を見続けているのである。
当人が望む夢を飽きる事なく見せ続ける手段。そのような不可解な手段は一つしかない。マヨ、怪人マヨイガの怪人技だ。
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▼怪人マヨイガ
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“戦闘力:100”
“怪人技:養蚕末路
対象を極度のリラックス状態に落として、深い夢に捕える怪人技。
見る夢の内容は様々とされるが、見る者が望む最高級の願望を体験できるとされ、現実世界では到底味わえない夢の世界に埋没できる。その甘ったるい至福から覚めるのを夢見る本人が拒絶する程である。
マヨイガ本人が対象を指定して怪人技を放つのが最も効率的であるが、温泉等のリラックス空間で彼女の鱗粉を空気中に漂わせるだけでも効果は発揮できると研究されている。
攻撃性能は皆無であるが、無害化性能は圧倒的”
“エヴォルン・コールが誇る三体のA級怪人の一体。
姿は巨大な白く美しい蛾の胴体と、女性の上半身を持つ異形。女とカイコを合成した怪人と推測される。
十メートルに達する翅はあるものの、飛ぶ事はできない”
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ただし、マヨの怪人技のみではmtHは完成しない。
理論の詳細は省くものの、人間の肉体を魂の入ったパッケージであると考え、パッケージ越しに魂から非物理的なエネルギーを抽出する謎技術が使われている。マヨの派閥は分野によっては本部を上回る。
「まぁ、根幹理論はすべてプロフェッサー・Iが生み出したものでしたが、実用レベルにしたのは私。よって、私のものと言っても過言ではない」
旧人類だった頃のマヨは、その道ではプロフェッサー・Iという尊称で呼ばれる有名教授の元で研究の手伝いをしていた。人間をリアクターにする特殊技術の出所もその教授らしい。
『――プロフェッサー・Iか。老衰しかけた老人であろうと、かつての門下生にとっては未だに教授であり続けるか』
「ッ!? ドクトル・G。相変わらず、女の部屋への連絡だというのに突然ですわね」
『性別など下らん。ワシが必要な時に必要な連絡を取る。それだけだ』
マヨが天井付近を見上げると、老人の顔が浮かび上がる。
エヴォルン・コールの重鎮。怪人の生みの親であるドクトル・Gが、ミスト式スクリーンの内部で義手の手をカチカチと鳴らしている。
ヒーローが相手でも余裕の笑みを浮かべていたマヨも、自分よりも賢いドクトル・Gという怪物が相手では頬杖を解いて姿勢を改めてしまう。
『派手に動いているな、マヨイガ』
「本部の最終作戦に影響はありませんわ」
『はっ。そうでなければ、お前が動くよりも前に雷獣太をけしかけている。ワシは戦力が足りているのかを訊いている』
「……お気遣いなく。私の派閥のみで十分です。スケーリーフットも第二ヒーローも敵ではありません」
マヨは本部の介入を恐れたのだろう。自派閥のみで作戦を遂行できる、こうドクトル・Gに対して自信を持って答える。特に誇張は必要とせず、真実をそのまま伝えた。
『スケーリーフットに第二ヒーローのみを想定か。……では、人類最後のヒーローについてはどうする?』
「タイプORが人類側の最後のヒーローを選定する。もちろん、その可能性も考えていますが、ぽっと出のヒーローごときに私が後れを――」
ドクトル・Gの懸念を否定していたマヨであったが、彼女の言葉は中断されてしまう。
突然、天井から投影されるドクトル・Gの顔が拡散して……投影用のミストを突き破ってくる謎の陰陽師服が現れたからである。
「――エヴォルン・コールの皆様。悪巧みをしているところをお邪魔します。大変恐縮ですが、そこの幹部の首をもらいますっ!」




