VS.現場からの中継です
キャンパスを歩きながら周囲を見渡す。学生の数が少なく感じるのは、夏休みだからだろうか。
ただの気のせいなのは間違いないのだ。一千万人に迫る人口を有する大都会と比較すれば、一万人が行方不明となっただけで目に見える程に変化は現れない。深夜未明にワールドサッカーの決勝戦がある方が、より多く通行人を減らせるだろう。
相対的に考えた場合の実感は薄い。それでも、人が消えているのは確かだ。
真実を掴み、事件を解決するべく第二ヒーローチームは即時行動しなければならない。そのために、俺はスーパーで糧食を揃えた。
「さて、買い出しはこれぐらいか。白菜も買ったな」
悠長だとヒーローをやった事のない人間には言われてしまうかもしれないが、どこに行方不明者が囚われているのかも知らずに突撃する事はできない。大都会は広いのだ。政府機関の敷地に限定しても、十を軽く超えてしまう。省庁の数を考えて欲しい。
事件を追及する関西政府。その手勢たる関西軍は、東西境界線をまだ超えていない。時間的な余裕はあるだろう。
「こんにちは、二郎さん」
肩掛けしたマイバックを揺らしていると、久しぶりに五十鈴響子と遭遇した。
統計を取っていないのであくまで感覚的なのだが、五十鈴から俺に話しかけてくるパターンが多くなかろうか。もしかして、俺に気があるのか。
「二郎さん。まだ夏休み中なのに、大学で会うのは奇遇ですね」
「夏休みでもキャンパスにいる学生は普通にいますよ」
「何かの部活動ですか?」
「自分は先輩の研究室で手伝いをしています」
対外的に用意してあった台詞を五十鈴に伝える。眼鏡先輩を手伝っているというよりは、眼鏡先輩に手伝ってもらっているのだが。真実とは、知っている者にしか分からない。
五十鈴はじっとマイバックを見詰めてきた後、俺の目を真っ直ぐに見てくる。品定めでもされている気分だ。
「……危ない事を、していないですよね」
「まさか、白菜でどうやって。いたって普通の大学生ですよ、俺」
買い物帰りの俺に不審な点は一切ないので、愛想笑いをしながら五十鈴の傍を通り過ぎる。いちおう、誘拐されないように気を付けてください、とは言い残しておく。
「…………嘘つき」
何か呟かれたが、振り返った時にはもう五十鈴の背中は遠くにあった。
大手通販サイトの集積場のダンボールよろしく人間は積み上げられない。一万人の人間を収容するならそれなりの容積を必要とする。日々の食事だけでも相当量だ。
「まあ、行方不明になった人達が全員無事なら、だけど」
「嫌な想像をするなよ、二郎……」
大都会に〇イレントなグリーン工場が建築されたという事実はない。怪人は普通に料理を食べていたので心配はないと思われる。
まあ、だからこそどこに一万人もいるのか分からないのだが。
「エヴォルン・コールの奴等め。人間を誘拐する目的は何だ? 目的が分からないと場所の特定も難しい」
「過去の事例で言うと、怪人化手術の実験台だったという噂がある」
「……やっぱり、もう被害者達の命運、尽きていないか?」
言葉にするだけなら気楽なものだが、人々の安否を諦めているはずがない。第二ヒーローチームの全力をもって捜索を行っている――眼鏡先輩の力が九割九分五厘。
人間で実験するにしても数が多過ぎる。実験以外の目的があると考えて行動するしかない。
『――同じ方角にいる癖に、お好み焼きで内紛している奴等に負けてはいられません。上からの圧力がありましたが屈する事なく、我々、大都会テレビは行方不明者の足取りを追いかけました。そしてついにっ、最終地点へと辿り着いたのです。そこがこの低価格衣料品店となります!』
「……で、足取りを追う手段がテレビっていうのは古典的過ぎないか? 二郎。せめてネットを使わないか?」
「同時並行で複数のチャンネルを監視しているんだぞ。聖徳太子並みのスキルが必要となる重要な役割だ」
人手が足りない第二ヒーローに代わって、勝手に現地へと向かってくれるマスコミを使わない理由はない。マスコミが解決した事件がかつてあったか、という疑念は大きいが、今回に限っては大都会の各社が後れを取り戻すべく張り切っている。
『――こちらの試着室で人が消えるとネット掲示板に投稿されていました。その真実を調べたいと思います!』
「……で、マスコミがネットを使っているのなら、俺達も直接ネットを検索した方が早くないか? 二郎」
「中間業者にだって役割はあるんだぞ。何でも直結させればよい訳ではないんだ、春都」
生放送番組らしく、スタジオを中継しながら女性レポーターが秋物の服を片手に試着室に突入する。
カーテンが閉められてしばらく――、
『――鏡に映る体型が細く!? ウエストが、いつもよりも五センチもマイナスにっ!! 定額で使える社員だからって食レポばかりやらされて、最近太っていたのに。すごい、私の体にクビレが――』
――女性レポーターの歓喜が聞こえたと思うと、カーテンの向こう側から気配が消失した。
スタジオからの呼びかけに一切返事がなく、生放送番組に動揺が走る。
現地に出向いていたADが何度も声をかけてからカーテンを開くと……女性レポーターの姿は忽然と消えていた。
「……お、おぃ。二郎。消えちゃったぞ」
「マジかよ」
悲鳴が上がるスタジオは、強制的なCMへと突入した。
行方不明事件の現場を早くも特定してしまったので、第二ヒーローはさっそく出動しなければならない。
「――待って欲しい。スーパー銭湯でも行方不明者が続出している! 瞑想体験を行える寺も怪しい。次点では美術館も疑い濃厚だ!」
大都会中のライブカメラの映像を総探索するという、常人には不可能な力技で現場の特定に乗り出していた眼鏡先輩が声を上げる。特定方向ばかりに車が集まって数日間にわたって戻ってくる事がないブラックホールが大都会に複数存在するらしい。
万も行方不明者が出ているのなら、複数個所で事件が起きていても不思議ではない。
だが、複数個所同時というのはマズい。第二ヒーローはたった一人しかいないのだ。
「どこを優先するんだ、二郎!?」
「くっ、今事件が起きたばかりの場所からだ。衣料品店に行くぞ!」
「分かった。一番難易度が低そうな場所に急行だなっ」
戦闘服に着替えて出撃準備を行う。春都はスマートフォンで無人タクシーの手配だ。
今回、隠密活動は不要なので、強化フレームは最初から装着する。眼鏡先輩が手伝ってくれるので失敗はない。
『幼馴染:えーと、衣料品店が目的地っと』
「……おい、左手の病症。LIFEで文字を打っていると着替えの邪魔だ」
『幼馴染:ごめんごめん。はい、お着替えしてくださいねー』
仮面を装着して準備は完了した。研究室から直接出撃して、大学の正門に呼んだ無人タクシーで現地に向かうのだ。目立ってしまうが緊急事態なので仕方がない。
「おい、誰かが物凄い勢いで走っていったぞ。危ないなぁ」
「仮面を被っていなかったか? 第二ヒーローに似ていたが……気のせいか」
「おーい、廊下を走るな!」
無人タクシーに滑り込むと、自動で発車してくれる。
衣料品店までは二十分とかからない。
「……あの航空法違反なブースターの軌跡は、スケーリーフットか??」
無人タクシーを追い越していくアフターバーナーが、タクシーの到着地点らしき場所へと飛んで行った。




