VS.映画館
やってきましたゴールデンウィーク。
合コン再び。まるで大学生が合コン以外の活動を行っていないような頭悪そうなスケジューリングであるが、そんな事はない。たぶん。
眼鏡先輩のサポート役、刺身のバランみたいな配役での参加とはいえ、年頃の男子大学生は女子に弱い。ウキウキ気分で出陣したのは街中にある映画館。近場に映画館があるってだけで素敵に思えてしまうので更にテンションが上がる――映画館があるというのが俺の中の都会イメージ。
「映画館に徒歩で行けるなんて!」
「二郎の実家だって徒歩で畑に行けるんだろ?」
「一次産業舐めるなっ。グジュグジュに腐ったミカンぶつけてやんぞ?」
育てたミカンが甘いって知らないだろ。
『幼馴染:秋には贈ってあげるから、住所プリーズ』
LIFEでも幼馴染がそう言っている。都会生まれの春都には一度農作業を手伝わせたい。
「そんな事よりも眼鏡先輩と合流しよう。待ち合わせ場所は映画館の中だっけ」
映画館の入口でばったり春都と出会って、二人で自動ドアを潜り抜ける。
大都会はどこ行っても人が多いので、館内も人が多くて困る。まあ、背の高い眼鏡のハンサムがランドマークなので合流は難しくないだろうが。クソ、身長も頭も容姿さえも恵まれているなんて羨ましい。大学の先輩で合コン誘ってくれるような気さくな人でなければ呪っているところだ。
首尾良く、眼鏡先輩をパンフレット棚の前で発見する。
「やあ、二郎君に春都君」
「先輩、こんにちは」
「どうも、先輩」
ちなみに、前回の合コンでは四対四の対戦であったが、今回はメンバーが減って三対三となる。男性陣からはチャラ男先輩が離脱している。同じメンバーならパスとの事らしい。
女性側の陣容は――、
「十河菜々美です。眼鏡先輩、付き合ってください!」
「百井直美でーす。これで皆揃ったー?」
「五十鈴響子……」
――となります。
会話らしい会話がなかった彼女達。名前に数字が含まれるとしか記憶がない人達でしかないのだが、ふと、一人と視線が交じり合う。
「その節はどうも」
「退院されたようで何よりです」
五十鈴は入院中、一度だけ俺の見舞いに現れた人物だ。逆に言うとそれ以上の関係はないのであるが、何でこの人、わざわざ見舞いに現れたのだろう。合コンで顔を見合わせただけの縁で、怪我人の病室を訪れるのは普通じゃないと思うのだが。
微妙な空気を醸しているのは俺だけで、五十鈴は特に気にした様子はないから不可思議だ。
五十鈴は親しい友人らしき百井と話し込んでいる。じっと眺めて観察してみたが、五十鈴の心の内は読めない。
「五十鈴さんと何かあったのか、二郎?」
「目聡いな、春都。残念ながら俺にも分からん」
シャープな体付きで、女性にしては身長が高い五十鈴ばかりに注目していたからか、春都に余計な気遣いをさせてしまった。
目線を映画ポスターへと逸らす。
えーと、上映している作品はオペラ座の常識人、ギャラクシーウォーズ、E.T.C.に――。
「カンブリア・パークの上映が近い。DX4の席がまだ空いてるからそれで良いかな?」
主役なのに幹事役を率先して行う眼鏡先輩が、手堅くハリウッド大作の視聴を提案。全会一致を経て券売機へと向かっていく。
皆で並ぶのも効率が悪い。俺は飲み物の購入に行こうか。
「では、飲み物買っ――」
「あ、私が飲み物を――」
五十鈴と声が被ってしまって微妙に気まずい。愛想笑いを向け合う。
本日の映画はアメリカお得意の怪物パニックもの。当初は崇高な目的を掲げていたにもかかわらず、悪い研究員の手により怪物が野に放たれて人々を襲い始める。主人公とヒロインは現れる怪物の魔の手から逃げ惑ってどうにか脱出、生還。が大筋だ。
ありきたりであるが、個人の映画趣味を心配せずに観られる大衆映画である。
「全米を震撼させた話題作。映画館では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない(本当に悲鳴を上げないでください)がキャッチコピー?」
眼鏡先輩のチョイスは若干無難が過ぎる気がしないでもない。まあ、ほぼ同じ時間帯の上映は血みどろな任侠ものと、少女が猟兵を目指すガールズ・アンド・イェーガーなるアニメ作品しかない。どちらも女子と観に行くものではない。
「あ、ガルガーやっていたんですね。深夜放送見てたけど私好き」
「女の子達が可愛いよねぇ」
「私も少し見た事がある。大隊から孤立した主人公が孤軍奮闘するところが共感できた」
うん。アニメでも良かったですね。今更、払い戻しできないので今日はお預けだ。
「そろそろ入口に向かおう」
上演時間十分前となって入場が許可された。
六人で縦に並び、各々がチケットを入口の係員へと手渡す。
「イィー」
「ん?」
低姿勢で顔を見せない係員が何か喋った気がする。どこかで聞き覚えのあるような。
「Eだろ。Eホール」
「ああ、映画の上映場所か」
「い、イィー」
春都が半券に書かれたEの字を見せてくる。それなら納得できるので、入口で止まっていないでそのまま進んだ。
ぞろぞろと六人が揃ってEホールへ入っていく。
早めにチケットを買ったとはいえゴールデンウィークにぶつけてきた大作映画である。観客は多く、ホールは満席に近い。横に六人並べられる席の確保は無理だったので、二列に分かれて三人ずつ座った。
なお、俺達のパーティーは男女各三名。男同士で固まるのは論外、というかこの映画は眼鏡先輩と某女性の仲を取り持つ目的で開催されている。眼鏡先輩の隣にその女性を配置するのは必定だ――そういえば一体誰が眼鏡先輩に首ったけなのだろうか。
異性を隣にするなら男女男、女男女の二種類の列が誕生する。
「歌詞かな?」
「現実逃避するな、二郎」
結果は想像と異なった。
後列に百井、眼鏡先輩、十河が並び、前列に五十鈴、春都、俺が並んだ。何故、五十鈴の席はそこなんだ。見舞いに意味はなかったという表明か。
「ほら、予告編に注目するんだ。夏にスタジオジヴリの新作をするらしいぞ」
春都の言う通り、スクリーンに集中してしまえば気が紛れる。俺一人だけ女性と隣接していない理不尽さえも忘れられる程に予告編は楽しいぞ。
予告編が終われば、きっとパントマイムを行うカメラが現れるだろう。若干、怪人に似ていなくもないが、アイツはフィクション。本物の怪人は先週現れたばかりで、怪人の出現間隔はおよそ一か月ごと。だから、今日は安心して映画を楽しめる。
ホールが暗くなっていき、映画がそろそろ始まる。
「計画は順調ニャー。我輩は賢いゆえ、ヒーローに気取られずに仕事を継続しているニャー」
観客席の背後。
業務用のプロジェクターが配備された小部屋に居座る怪しい影。
人間の影にしては違和感が強く、頭部上方に三角形の耳が存在する。率直に言って、怪人の姿形そのものだ。
「怪人コピーキャットによる華麗なる犯罪は完全犯罪でもあるニャー。気付かれない犯罪は犯罪じゃニャいんだニャー」
予告編の暗闇の中、細く絞られた瞳孔が怪しく光った。プロジェクターから照射される光と混じって客席を越えていく。
「怪人技“模倣するは猫”を喰らうだニャー」
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▼怪人コピーキャット
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“戦闘力:11”
“怪人技:模倣するは猫
幻惑、催眠効果のある光を目からビームで発射する”
“黒猫と人間(前職は宅配業者)を融合して完成した猫型怪人。
直接戦闘よりも工作活動に適性のある怪人。暗い所でも目が利くので夜間、洞窟、映画館が主な活動範囲となる”
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