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VS.怪人イーグルアイ2


「どうした、怪人イーグルアイ。さあ、来いよっ。第二ヒーローが怖いのか」

「強がりだなワシ、第二ヒーロー」


 凶悪なる盗撮怪人へと真っ直ぐに手を向けて、五指をクイっと曲げて挑発する。

 ニヒルに笑って見せる唇は、……思いっきり擦り切れて血を流している。



「……というか、本当に強がっているだけではないか。弱い者イジメをしているみたいで、こっちが悪いみたいだぞ」



 悪の秘密結社の怪人が悪でなくて、誰が悪というのだろうか。こう、ふらつく体を気合で立たせながら思う。


 ただいま絶賛、苦戦中。


 上空からヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けてくる怪人イーグルアイに対して、普通に歯が立っていない。メイド喫茶で複数体の怪人相手に立ち回れたので多少の自信を持っていたのだが、そんな試行回数にとぼしい自信は、戦闘開始一分で粉々にくずれ落ちたのである。


「怪人イーグルアイ。飛んでいると俺が殴れない。翼なんて捨てて下りてこいよ」

「正直に言ったところで、なさけないヒーローに情けをかける怪人はいないワシ」


 高所の有利を活かして、一方的に攻撃され続ける。怪人レッド・ドラゴン戦のように相手が地上付近まで下りてくれない。

 スタジアムの楕円の空を急速旋回されて姿を見失う。直後に、背中を蹴られて人工芝と頬を密着させながらすべる。だいたい、この繰り返しだ。

 飛行可能な怪人に正面から挑むのは、戦闘機と歩兵が戦うぐらいに無謀だった。


「鳥目の癖に夜空を飛べるなんて」

「合成生物の特性をすべて受け継いでいる訳ではないワシ。より進化した人類に相応ふさわしい強さと適応能力を持つのが怪人だ」


 痛む体で立ち上がって、飛び回る怪人イーグルアイに背中を見せないように移動を繰り返す。

 怪人とて無限に飛行できる訳ではない。翼を休めるタイミングがあるはずなので、地上に下りてきたタイミングを狙って反撃するしかないだろう。


「ふう、疲れたワシ。ちょっと休憩するか」

「よし、戦闘を中断してブレイクタイムにしようか。あっちのベンチで一緒に休もうぜ。イベント価格の無駄に高いジャンクフードを買ってあるから、五分の一も分けてやる」

「ワシ、菜食主義者なんでジャンクフードは遠慮するワシ」


 怪人イーグルアイは俺の魅力的な提案を断って、スタジアムの天井まで上昇してへりに着地する。唯一の反撃機会が失われた。


「卑怯者! 怪人! 悪魔! 審査官!」

「何とでも言うがいい、第二ヒーロー。負け犬の遠吠えだワシ」

「天井付近にいて、良いのかっ。石田ミカがステージ上で早着替えをするのに、脳天しか撮影できないぞ!」

「……えっ、私?! 私は着替えないって」


 このままでは怪人に勝てそうにないので、石田ミカを使うしかない。石田ミカを守るために、石田ミカを使おう。

 ステージに駆け上がって、中央でマイクを握っているアイドルに助力を求める。


「怪人を倒すためだ、一肌脱いでくれ。なんなら、諸肌もろはだを脱いでくれても構わない」

「アナタ、自称なりともヒーローでありながら、そういう事言っちゃう?? 守るべき人をおとりにするのはどうかと思う!」

「ただ守られるだけの民衆は腐っていく。安全とは与えられるものではなく勝ち取るものなのだという常識を忘れて、親鳥を待つ雛のごとく、馬鹿みたいに口を開けるだけの愚民と化していく。……それが、大都会一と言われるアイドルの目指すところか?」

「服を脱げって言ってくる馬鹿みたいなヒーローよりもマシッ!!」


 俺の誠意ある願いを全力拒否するとは、ミカはアイドルなのに恥ずかしがり屋だ。ちょっと観客の目がある中、早着替えして欲しいだけだというのに。

 芸人の嫌よ嫌よムーブをアイドルも兼ね備えているのかと思い、マイクを振る手を握ってみたのだが――、



『――第二ヒーローは私の敵っ!』



 ――と本気で嫌がるミカの声が聞こえてきた。地に両手をついて慟哭どうこくする。


==========

“怪人技:海馬握手ヒッポカンポス(無自覚)”


“怪人ブレイン・モンスターの遺品たるアイドルの握手券を所持している状態で、他人と手を握る事で発動する怪人技。相手の思考を読み取る事ができる”

==========


 とはいえ、ミカの協力がなければ怪人イーグルアイが地上に下りてこない。このままでは怪人を倒せなくなってしまう。どうすればいい。


「第二ヒーローがアイドルに卑猥な行為を強要したワシ。うーん、スクープ」

「お、勝手に下りてきたぞ」


 何故か分からないが怪人イーグルアイは地上一メートル付近で羽ばたいている。これを逃せば、二度目のチャンスはないだろう。

 用意しておいた奥の手を使うのは今しかない。


「今だッ、ドローン突入!」

『了解だ。うまく受け取れよ、第二ヒーロー!』


 春都が遠隔操作するドローンが天井の穴を通じ、スタジアムに侵入してくる。

 大手通販会社が開発したという歴史を持つ宅配ドローンだ。宅配先は俺。衝突寸前ですべての回転翼を逆回転させると、体まで数センチの場所で制止する。


『合体シーケンスに移行するよ。第二ヒーロー、両腕を水平に』


 眼鏡先輩の指示に従って両腕を水平に伸ばす。すると、ドローンの運搬ブロックが開かれていき、中から現れたフレームが戦闘服の上から体に張り付いていく。骨格に沿い、筋肉の動きを補強する位置取りだ。

 白いフレームは炭素複合材、および、戦闘服と同一の繊維で作られている。

 戦闘服の上からとはいえ、変形しながら動く稼働部品が体を包むのは事故が怖いものだが、そこは眼鏡先輩の作品だ。最近は五回に一回しか失敗しない。まあ、持ち運びを優先して、後から装着する方法に仕様変更を求めたのは俺なので、仕方がない。


『――脊柱、鎖骨、肩甲骨、すべての強化外骨格ボーンが合体に成功だ。戦闘型V3として正常機能を確認。V2と同じくブースト薬を使用可能だよ。一気に倒すんだ!』


==========

 ▼第二ヒーロー(戦闘型V3)

==========

“戦闘力:15 → 18”

==========


 三分間限定で戦闘力を二倍に増強可能なブースト薬を、仮面のスマートグラス機能で選択する。

 薬剤入りのシリンダーが起動。戦闘服に針を打ち込んで投薬を開始した。


==========

“戦闘力:18 → 36”

==========


 沸き立つ戦闘服の筋繊維で一メートルを軽々と跳び上がり、怪人の体を掴んで地面に叩きつける。


「これが第二ヒーローのパワーだ。くらえっ、怪人!!」

「はっ、合体シーンを激写していたワシ。上空に逃げるのが間に合わな……グふぇッ!?」


 墜落させただけでは終わらせない。マウントを取るついでに、鳩尾みぞおちに一撃を叩き込む。人工芝の一部が舞い上がって、怪人の体が地面にめり込んだ。

 相当のダメージが入った感触はある。が、怪人イーグルアイの戦闘力が高いためか致命傷にはなっていない。


「馬鹿めワシ。ワシは気分的にカメラが本体だっ! ただのシャッターフラッシュッ!!」

「うおっ、まぶしいッ」


 マグネシウムが燃焼したかのごとき光に視界を失ってしまう。

 翼が発生させる風と共に、足の間に捕らえていたはずの怪人イーグルアイの気配が遠のく。カメラを構えたまま緊急離陸していったのだろう。

 カンを頼りに手を伸ばしても、そこに怪人はいない。



「姿なきワシにおびえるがいい。怪人技“空中盗撮ジャーナリズム”!!」



==========

“怪人技:空中盗撮ジャーナリズム


 空中を飛んでいる、かつ、カメラのファインダーを覗き込んでいる間のみ限定発動する怪人技。他人から姿が見えなくなり、音も届かなくなり、気配を一切感じ取れなくなる”

==========


 光に焼き付く視界が正常動作し始めた時にはもう、怪人イーグルアイの姿は消えていた。

 仮面を操作して赤外線映像で探査してみたものの、そんなありきたりな方法では怪人技を上回れない。


「終わりだワシ、第二ヒーローッ!!」


 姿も声も察知できない完全な隠形だ。殺気さえも一切感じ取れないが、怪人イーグルアイが俺を狙っているのは間違いなかった。

 こうなったら、致命傷を覚悟して相討ちを狙う他に方法がない。第二ヒーローチームには策がない。


 ……だから、ステージ全体で液体窒素のスモークが発生したのは別の誰かの意図である。


 演出効果の一つなので、コンサートスタッフが操作するしかないはずだ。アイドルを助ける素晴らしい第二ヒーローのピンチに居ても立っても居られなったのであれば気持ちはありがたい。とはいえ、スモークだけでは怪人は止まらない。


「とったワシッ、第二ヒーロー!!」





 カメラを首にぶら下げた怪人イーグルアイは、突如、第二ヒーローの真正面に現れる。

 鋭いくちばしで喉を正確に貫き、気管を潰し、文字通り息の根を止める。


「やったワシ。第二ヒーローとはいえ、ヒーローを倒し……ん、なんだこれは??」


 怪人イーグルアイの喜びは中断された。喉を貫かれた第二ヒーローが、霧のようにかすんで消えていったからである。

 第二ヒーローがヴァンパイアだったのかと言うと、そうではない。本物の第二ヒーローが一メートル後方にきちんといたので、消えた第二ヒーローが霧で作り上げた偽物だったのは間違いない。



「――悪業罰示式神“大蛤オオハマグリ”。……さて、興味のないアイドルのコンサートに来てあげたんですから、トドメは任せましたよ。第二ヒーローのお兄さん」



 第二ヒーローの偽物を作り上げた少女は、スタジアムの個室席の中で怪人戦を見守っている。





 霧の虚像に驚いたものの、怪人ほどに驚いてはいない。霧がからむ異常現象には覚えがある。

 ともあれ、怪人イーグルアイの顎をアッパーカットで叩き上げる。ラストチャンスにすべてをかけて体が浮くぐらいに勢いをつけたので、怪人の体は数十メートルを飛び上がった。

 天井の穴まで届いた怪人の体が、夜空に消えていく。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 負けは許されないと前話で言っていたので逆に負けてしまわないか心配していましたが、なんとか勝てたようで良かったです。爆発が見れてないのでまだ少し心配ではありますが……。 合体いいですね。し…
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