VS.怪人イーグルアイ1
怪人イーグルアイが石田ミカのスキャンダル激写宣言をした日から、早くも七日。
期限は迫っているものの、怪人は動画チャンネルを更新していない。完璧なアイドルたる石田ミカがゲス不倫に手を染めているはずがないので当然だ。火がなければ炎上しようがない。
……とはいえ、このまま怪人が大人しくしてくれる、と考えている者は少なかった。
スキャンダルという取れ高がなかった場合、代わりにアイドルの着替え写真を公開するという宣言を実行してくれるのを期待……ごほん、悲観している。
注目度の高さを示すように、期限直前に開催される石田ミカの新曲コンサートは当日券も含めて完売した。
会場となっているスタジアムの観客席は人で埋め尽くされており、衆人環視という意味ではこれ以上ない場所となっている。が、怪人ならば人の目を気にせず、むしろ喜んで登場するだろう。
怪人イーグルアイは確実に現れる。
「あー、テステス。先輩、無線通信はできていますか?」
『会場内は人が多いだけあって騒がしいね。骨伝導マイクにしておいてよかった』
怪人の出現が想定されているのならば、第二ヒーローはチーム全員で出動だ。
会場入りできたのは俺一人であるが、近場のカラオケ屋に仮拠点を設けて眼鏡先輩と春都にはバックアップを頼んである。
「金属探知機はスルーできました。手荷物検査でも蜻蛉切は取られていません」
『こちらも準備は整っているよ。春都君、宅配ドローンのマニュアル操作はどうだい?』
『この日のためにみっちり練習したので、本番でも問題ありません』
怪人が現れるのを虎視眈々と待つ事、約一時間。真ん中のないスタジアムの天井に夜が満ちてきた。
怪人が現れるよりも先にコンサートの開始時刻が近づき、会場を眩く照らしていたライトがすべて落とされる。
暗闇に慣れていない視界が黒く染まって何も見えなくなったが……会場中央にスポットライトが灯り、一人のアイドルを浮かび上がらせる。
「今日は皆、集まってくれてありがとう! さっそく、始めちゃうねっ」
今夜の主役、石田ミカの登場だ。スタジアム据え付けの大型スクリーンのみならず、各所に増設された大型モニター内でも、お辞儀をする彼女の姿が映っている。
「ミカー、フゥウウ!!」
「キャーっ、ミカちゃーんっ!」
「こっち向いてぇぇぇ」
観客席は一気に沸き立つ。
俺も拍手で石田ミカの登場を賛美する。
石田ミカを中心に光の円が広がって、さっそく一曲目の歌が始まった。プロローグに相応しい、石田ミカのデビューシングルであるとイントロ開始一秒で把握する。
モニターと実物両方を目で追い、細心の注意を払う俺に対して、春都から通信が入る。
『それで、怪人がいつ現れるのか予測できているのか、二郎?』
「コンサート中に狙えるタイミングは一つだけ、早着替えだ。急ぐために着替え室の鍵は開いたままとなる。セキュリティ的には手薄だ」
『そんな事まで予測できるなんて、さすがは二郎だな』
着替えるタイミングは三曲目が終わった後だろう。ピアノも弾けるミカが、ラ・カンパネラを生演奏するためにドレスに着替えるはずである。
ミカが舞台裏に入るタイミングで席を立ち、怪人来襲に備える。姿を消せる怪人技を有する怪人イーグルアイを発見するのは困難であるが、響くシャッター音だけは隠せていなかった。
つまり、ミカの着替えの傍にいる怪人イーグルアイを取り押さえるため、俺もミカの傍にいなければならないのだ。
美声を聞きながらも、今か今かとその瞬間を待つ。緊張が高まっていく――。
「――うわぁぁアァっ!? か、怪人だァ!!」
――おい、どこのどいつだ。怪人を発見してしまった馬鹿は。
悲鳴が上がったのはスタジアムの最上階だった。最もステージから遠いD席ごときがうるさいと思いながら目線を向けたが、S席からは遠過ぎてよく見えない。
スタジアムのスクリーンにD席の映像が投影される。
……確かに、怪人イーグルアイの奴が席に座っている。
「うーん、やっぱり当日券では遠い席しか買えないワシ。ここからスクープを狙うのは難しい」
怪人イーグルアイは図太いスコープを装備したカメラを所持しているが、それでもステージは遠いらしく文句を言い、嘴を動かしている。
てっきり、天井の穴から侵入してくるものと思っていたのに、予想外にもほどがある。一般人と同様にチケットを購入してスタジアムに侵入したというのか。
『怪しい人と書いて怪人だというのに、どうして普通に入場できているんだよ……。入口の検査、ザル過ぎるだろ』
怪人を発見してしまったのであれば仕方がない。トイレへと走って、個室内で第二ヒーローの仮面を装着する。
変身中も、会場のザワめきが大きくなっているのが分かる。怪人に怯える人々の声に混じり、怪人通報アプリの警報も輪唱し始めた。
「まだ早着替え前なのに、怪人が現れたぞ!?」
「いやァ、せっかくミカが歌っているのに、怪人が邪魔したっ」
「おいッ、早く個室から出てこいよ! もう、も、もたない?!」
怪人を倒すべくトイレから出撃する。
スタジアムの中空を飛んでいる怪人イーグルアイの姿が見えてきた。ステージの上にはまだミカが残っており、彼女を中心に旋回しているようだ。
タイミングを見計らいながら観客席の縁から跳躍する。拳を振り上げて怪人イーグルアイの胴体を狙ったものの、羽一枚をもぎ取れただけだった。
「スカったかっ!」
「第二ヒーローかワシ! ノコノコ現れるとはいい度胸。雷獣太様よりお前を標的にするように言われていた。直接対決は望むところだ!」
「怪人雷獣太が、スケーリーフットではなく俺を?」
「あんな怖い方に標的にされるなんて、どんな悪い事をしたんだワシ?」
トラックの上に着地して、上空で一時停止中の怪人イーグルアイと対峙する。
石田ミカのみを中継していた映像の半分が、俺と怪人を映し出した。
「第二ヒーロー……さん?」
「石田ミカ。安心しろ、この怪人には指一つ触れさせない!」
守るべきアイドルを背にした第二ヒーローに、負けは許されない。




