VS.ヒーローの分類
スケーリーフットとは方向性というか、世界観の異なるヒーローだった。怪人が許される大都会だからといって、オカルトが許されるという訳ではないと思うのだが。
『幼馴染:本当にねぇ』
「お前は俺の精神病であって、オカルトではない」
『幼馴染:その強情こそが精神的に病んでいる証拠よね』
陰陽師系ヒーローが存在したというのは初耳である。使役していた赤い太腕については見覚えがなくもないので、水面下では活動していたのかもしれない。
そんな恥ずかしがり屋が俺の前に現れたからには理由があるのだろう。本人が言っていた、エヴォルン・コールの最終作戦とやらが大いに関係していそうだ。
「幻想的で、悪くない演出でしたね」
「撫子か。どこに行っていたんだ?」
「ずっと近くにいましたよ、お兄さん」
霧が晴れた途端に、ひょっこりと姿を見せた京極撫子。彼女も人類最後のヒーローを目撃していたようだ。俺以外にも見ていた人物がいるのなら、ヒーローがここにいた証拠としては十分だろう。
謎多き人物だった。
思い返しても、人類最後のヒーローについてはやや背が低かった事ぐらいしか分からない。丁度、撫子ぐらいの身長である。キツネの仮面に隠れていない口が少女のように小さかったかもしれない。
じぃーっと撫子を眺めてみるが、にっこりと笑顔を返されてしまった。紫袴ではなく白いワンピースを着ているので、体格が似ているだけなのだろう。
「何者かを調べたいな。撫子、写真か動画を撮っていれば譲って欲しい」
「残念ですが、霧しか写っていないです」
現代人らしく、人類最後のヒーローの姿をスマートフォンで撮影していたのだが、記録されている写真はすべて真っ白だ。益々、オカルト感が強まる。
陰陽師がいるのなら、幽霊も実在するというのか。そう思いながら左手へと視線を落とすが……頭を振って常識に思い留まる。現実は非情なので、縁深い人間の魂が憑依……いや、祟り……いや、寄生……まぁ、そんな死後も対面できるような機会はありえない。
頭を冷やしたくて、冷房の効いた研究室のサーバー室に戻りたくなった。
「ほら、これをやろう」
「何ですか、このふりかけでも入っていそうな袋は?」
「お茶漬けの粉袋だ。これを持って家に帰れ」
「……関西なら、もう少しまともな方法で帰宅を促しますよ、お兄さん」
お茶漬けの袋は俺の夜食だ。怪人イーグルアイは退散しているが、夜に少女を一人で帰宅させるのは不親切だ。きちんと送る。
「私の心配はいりません。迎えの車がそろそろ……来ました」
撫子の迎えは漆でコーティングしているかのような色合いの、車体の長い車だった。いわゆるリムジンと呼ばれる車種である。お抱え運転手とシャンパンがセットで入っていそうだ。
「もしかして、お金持ち?」
「実家に歴史があるので、それなりに蓄えがあるだけですよ。それでは、お先に失礼しますね」
たった一人を輸送するには贅沢過ぎる車に乗車する撫子。長細い車は道路を直進して夜道に消えていく。
あんな車があるというのに、どうして道を歩いていたのやら。
研究室に戻って、目撃した出来事を春都と眼鏡先輩に伝える。
「怪人、宇宙人の次は陰陽師か。もう、何でもありだな」
「大都会にとって日常となっていたヒーローも、よく考えてみれば謎が多い。重要性はエヴォルン・コールと同様か、それ以上なのかもしれない」
呆れる春都と、深刻に捉える眼鏡先輩。どちらも反応としては正しい。
できれば、二人を更に驚かせるために写真も欲しかった。ヒーローと自称していても、明らかにスケーリーフットと性質が異なる事が姿から分かったというのに。
『幼馴染:今、LIFEにアップしたから、皆見て』
「お、二郎と違って気が利く」
「外見は人間か……」
「……ちょっと待てや、どうしてお前は写真撮影に成功している?」
『幼馴染:ハっ、少しは日頃の扱いを改める事ね!』
左手が勝手に幼馴染の遺品のスマートフォンで人類最後のヒーローを撮影していた。やや霧がかっているものの、全身をしっかりと写している。納得がいかない。
まあ、撮っていたものは仕方がない。二人にじっくり見てもらおうではないか。
春都はともかく、眼鏡先輩ならば人類最後のヒーローについて分かる事があるかもしれない。
「専門分野ではないから服装については分からないけど、人類最後のヒーローという言い方が気になるかな」
眼鏡先輩は、刑事ドラマのようにホワイトボードに陰陽師が映った写真を貼る。写真の下には『人類最後のヒーロー』と書き込んだ。
「最後というからには最初もある。ヒーローという存在は単数ではなく、複数いると仮定できる」
写真の左隣に、点線で四角を書き加える。四角の下には『ヒーローX』。
その組み合わせを複数追加して、三点リーダーで省略した先には『ヒーロー1』。
「スケーリーフットがいるので、複数いるのは間違いないですね」
準備していたスケーリーフットの写真を眼鏡先輩に手渡す。人類最後のヒーローの隣の枠に張り付けるものと思っていたのだが……何故か離れた場所に配置した。
大都会のヒーローと言えばスケーリーフットが本家だというのに、ヒーローに含めないなんて酷い扱いである。
「人類最後のヒーローとスケーリーフットを同じグループに含めるだけの証拠がまだないんだ。姿が違うというのもあるし、姿が似ているホワイト・ナイトなる怪人がエヴォルン・コールに属している事実は見過ごせない」
眼鏡先輩は更にもう一枚、夜空を飛行する白いパワードスーツの写真をボードに追加する。ホワイト・ナイトという名称と、写真を丸い円で囲んでエヴォルン・コールという所属を書き上げた。
若干以上に早くなった鼓動を落ち着かせつつ、全体を眺めてみる。
三枚の写真は、それぞれが逆三角形の頂点を形成している。ヒーローとヒーローに近しい存在が、独立、敵対関係にある関連図が出来上がりだ。
「人類最後のヒーロー、という言い回しの人類の部分にも注目してみようか。幼馴染君の提供してくれた写真を見る限り、この人物は僕達と同じ姿をしている。このヒーローが示す人類は人間と考えるのが妥当だろう」
人類という定義についてはお偉い学者に任せるとして。
怪人共が殊更に俺達の事を旧人類と言い放って、自分達がこれまでの人類とは異なる存在であると強調している場面は何度も目撃している。進化の呼び声と呼称する秘密結社に属している自分達が、進化した新人類と言いたいらしい。
他生物と合成されたキメラを新人類とはなかなか認め難いが。そういう生物は生殖できなくて一世代限りとなるパターンも少なくない。
「人類最後のヒーローが、新人類を自称する怪人と敵対している事に注目すれば……境界線はここだ」
眼鏡先輩はマーカーを手に、人類最後のヒーローとホワイト・ナイトの間に線を引いた。怪人と怪異を操る人間なら、後者の方がまだ人間に近しいという判断だ。
特に異存はない仮定なのだが、問題は、人類最後のヒーローとスケーリーフットの間にまで線を伸ばすか否かだろう。
「姿のみに注目すれば、人類最後のヒーローと他は分類されるべきだ。けれども、エヴォルン・コールと敵対しているという共通項でいうと、人類最後のヒーローとスケーリーフットは同一グループになる。二郎君はどう思う?」
俺にとっては今更な問題提起だった。
ホワイト・ナイトの色違いたるスケーリーフットを疑わなかった日はない。共闘する機会があっても変わっていない。確定しているのは中身が汗臭いおっさんだという一点のみだ。
そろそろ、スケーリーフット本人に対して問うべきなのかもしれない。
スケーリーフット。お前は、人類のヒーローで間違いないのか?
カメラを新調した怪人イーグルアイは連日、アイドル石田ミカの行動を追跡したり、帰宅路での張り込みを行ったものの、成果は上がっていない。初日でスクープを逃した痛手は想像以上に深かった。
「妙に慎重で、尾行されるのに慣れたアイドルだワシ。ストーカーに苦労しているんだな」
怪人技で姿を消しているというのに、少なくない回数逃げられてしまっている。
宣言した七日のタイムリミットは迫っている。アイドルの交際という新曲売り上げに響く事実も、着替え中の際どい写真も撮れていない。
「……仕方がないワシ。チャンスは翼を使って取りにいくもの。新曲コンサートに乗り込んで密着取材だ!」




