VS.秘密結社の裏に潜む宇宙人
「先輩。本物ですか、これ?」
「宇宙人か、地獄の使者か、ムー大陸の生き残りなのか。出身地は分からないけれど本物の生物ではあるらしい。会話もできたようだよ」
とても日本語を話すようには見えないのだが、調査機関の人間が数度のコミュニケーションに成功しているようだ。
「人類が絶滅する理由はこのタイプOKが暴れるからです?」
「タイプOKが直接手を下すかは分からない。ただ、タイプOKから技術提供を受けた調査機関が、大都会政府に対して反乱を起こしているのは間違いない」
未知なる知的生命の調査を行っていた調査機関。タイプOKが悪い宇宙人なのであれば、その危険性を判断、知らしめる役割を持つ重要な組織だったはずである。ただ、直接対話する以上、タイプOKによって思想的な汚染を受け易い危険な組織でもあったのだろう。物理的に脳が寄生されてしまったのかもしれない。
ただし、大都会政府の下部組織に過ぎない調査機関が反乱を起こしたところで、より大きな組織である政府軍に鎮圧されるはずなのだが。
「反乱って、まさか。クーデターが起きたなんてニュース、聞いた事がありませんよ」
生粋の大都会人たる春都に言わせれば、反乱自体が発生していないらしい。非常事態宣言や厳戒令が発令され、政府軍が出動した事はかつてない。
大都会政府はタイプOKの発見を隠しているぐらいなので、その調査機関の反乱も隠しているとは考えられる。逆に言うと、隠せる程度の規模の反乱でしかなかったのかもしれない。
「いいや、反乱は今も続いている。そして、僕達はその反乱組織と敵対しているんだよ」
だが、眼鏡先輩は真っ向より俺と春都の一般常識を否定した。
「調査機関は自らの呼称をエヴォルン・コールと変えて、人間を怪人に改造して大都会に反乱し続けている」
言われて気付くのは遅過ぎるのだが、公然と大都会政府に反乱している組織なら存在した。違和感を持てない程に普通の出来事として受け入れてしまっていた。
第二ヒーローチームが戦っている悪の秘密結社、エヴォルン・コールは人類と敵対しているではないか。
「エヴォルン・コールの奴等、元々は大都会政府の組織だったのですね」
「僕は常々、疑問に思っていたんだよ。技術というものは線のように繋がって生み出されていくものであって、何の脈絡もなく湧き出るものではない。それなのに、どうしてエヴォルン・コールは人間を怪人にするような未知の超技術を有してしまっているのだろうってね」
人類のスキルツリーに人間の怪人化は存在しない。エヴォルン・コールが特許出願していない企業秘密であると言い張るには、あまりにも既存の常識からかけ離れてしまっている。
鉄の鋳造や火薬の発明をすっ飛ばして、銃を製造できるはずがないというのに、エヴォルン・コールはレーザーガンを量産しているようなものなのだ。
「怪人化技術の出所が宇宙人、というのもあまり納得できるものではないのだけどね。それぐらいの技術革新が必要という事さ」
エヴォルン・コールの成り立ちは分かった。
エヴォルン・コールが人類と敵対している理由も、謎の宇宙人の意向に従ったものとは予想できた。悪の秘密結社に技術提供しているぐらいだから、宇宙人が人類を敵視しているのは疑いようがない。
では、そもそも、タイプOKなる宇宙人が人類を敵視している理由は何なのだろうか。
「それは分からない。エヴォルン・コールが怪人を新人類と見なして現人類を排斥しようとしている事から、単純な支配目的ではないとは思われるのだけど」
「タイプOKが人類よりも優れているのなら、エヴォルン・コールに委託せず直接人類を攻撃すればよさそうなものですけど」
「それも分からない。人類以上の存在だからこその規約があるのかもしれない」
文明レベルの低い惑星を直接攻撃してはならない、という宇宙条約でもあるというのだろうか。
タイプOKの沈黙は不気味だが、エヴォルン・コールにさえ手を焼いている現状ではありがたいと思う他ない。荒い写真を見ただけでも、既知の怪人以上の戦闘力を有していると感じられる。正直に言って戦いたくはない。
「怪人だけでも何体いるのか分からないのに、宇宙人一体を追加というのは困ります」
「……残念だけど、二郎君。宇宙人は他にもタイプOA、タイプORがいるらしくて、合計三体いるらしいんだ」
なるほど。最後は俺と春都と眼鏡先輩VS宇宙人三体で決戦か。
「……クソ、よくも春都をっ」
「勝手に参戦させて、勝手に殺すなよ」
エヴォルン・コールのバックには謎の宇宙人がいるという重大情報。
秘密結社の秘密を一つ暴いたという意味では有益なのだが、具体性ある効果は得られないだろう。むしろ、秘密結社を倒しただけでは大都会の問題は解決しないなんて、負担が増えただけである。
「けれども、僕達は知るべきだった。知らないままに戦っていたなら、エヴォルン・コールを打倒できたとしても、そこで第二ヒーローは終わっていた。ゴールテープの向こう側に地雷が埋まっていると知っているといないでは、大違いだ」
眼鏡先輩の言う事は正しい。
問題は、第二ヒーローはゴールテープの向こう側に地雷が埋まっていると知っていても、全力で走り切らなければならない事にある。
誰にも予定を告げず怪人アーミーアリが訪れた先は、広大な地下空洞である。神殿のごとく柱が何本も続く異質な空間が、真っ直ぐに続いていて終わりが見えない。
ここも大都会の一部ではあるが、人の気配が一切しない。
「……他派閥の怪人が、何用だ?」
「怪人雷獣太ですねアリ。折り入ってお願いがございます」
しかし、人はいなくとも、人ではない者はいる。
光が瞬いた後、怪人アーミーアリの眼前には四つ腕の怪人が現れていた。この地下空間を拠点とし、活動する獣系怪人派閥の長、怪人雷獣太が自ら来訪者を出迎えたらしい。
「マヨをではなく、俺を当てにするか」
「マヨ様は少しでも利益あるものを活かすお方ですアリ。けれども、私は元政府軍の軍人。軍人は少しでも危険あるものを野放しにしません」
「手短く言え」
「怪人雷獣太様の勢力に、第二ヒーローを始末していただきたいアリ」
怪人アーミーアリは持参した土産の箱を、両手で怪人雷獣太に手渡す。
高級なワインボトルでも入っていそうな箱の中には、黄金に輝く高価な品が収まっていた。第二ヒーローの始末を願うにあたり、雷獣太の好きなものを事前に用意していたらしい。
箱の蓋を無造作に捨てて、中身を取り出す怪人雷獣太。
四つ腕の一本が握り締める黄金の……濃厚な甘みを感じさせるトウモロコシの匂いを確かめる。九月に入り、そろそろ旬が過ぎる頃であるが、今年採れたトウモロコシの中では最高傑作と言える一本だ。末端価格で六千円は下らない。
「手土産は悪くない。だが、第二ヒーローの始末はドクトル・Gも考えている。お前に乞われて動くだけの理由が足りんな」
「第二ヒーローの始末を引き受けていただければ、代わりに、スケーリーフットの居場所をお教えいたしますアリ。先の戦闘で、奴には目印を付けました」
「……ほう」
毛皮を青く帯電させて、怪人雷獣太は怪人アーミーアリの懇願に興味を示す。




