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VS.mtH接続強化怪人

 怪人アゲハは鱗粉を散布して視界と呼吸を阻害してくる。

 当てずっぽうで蹴りつけてみたが、怪人は既に移動を完了しており空振りに終わった。


「こっちだパピッ」


 天井近くまで翅で舞い上がっていた怪人アゲハ。鋭い形状の踵《かかと》が俺の背中を打つ。衝撃に耐えられず、メイド喫茶の板床に倒れ込んでしまう。

 突然、戦闘力を増した怪人アゲハ。今回は怪我なく勝てるかと思っていたのに、そう簡単にはいかないらしい。


「お前等、もたもたするなパピ。第二ヒーローを取り囲め」

「だから、鱗粉がビー。ケフォ、ぐげふぉ」

「味方の被害を考えろルキ!」


 まあ、戦闘力が増しても連携については相変わらずなのだが。場所も喫茶店という閉所である。翅で飛び回れる屋外にいたなら、戦いはもっと厳しさを増していただろう。

 テーブルクロス引きを成功させて、皿やコップを落とさず布だけを入手。布を三角巾にして、口を隠すように巻き即席のマスクにする。


「第二ヒーローの正体はMr.隠し芸かパピ!?」

「うおっ、皿が落ちたビー」

「コップの水でメイド服がルキっ」


 多少は鱗粉の影響を和《やわ》らげたが、翅で鱗粉をばら撒かれると視界は砂嵐状態だ。


「そういえば、サーモグラフィーも実装していたか」


 網膜投影にサーモグラフィーの画像を重ねて映し出す。完璧とは言えないが怪人のいる方向が赤く表示されている。これで、どうにか戦えるか。

 ただ、正面の赤い表示に注視していた所為で、左右から急速に近づく熱源への反応が遅れてしまう。



「怪人キラービー権限上限、mtHを100まで接続ビー」


==========

 ▼怪人キラービー

==========

“戦闘力:13 → 23(mtH100接続中)”

==========



「怪人プリンセスホタル権限上限、mtHを100まで接続ルキ」


==========

 ▼怪人プリンセスホタル

==========

“戦闘力:10 → 20(mtH100接続中)”

==========



 俺の真似をしてテーブルクロスで鱗粉対策をした怪人キラービーと怪人プリンセスホタルだ。片方の攻撃はどうにか腕でガードしたものの、もう片方は防げず横腹に衝撃を受ける。戦闘力で劣るはずの怪人の打撃で体が浮かされた事に、ダメージ量以上の衝撃を受けた。

 放物線に乗って店内を飛行して、背中から食器棚へとクラッシュ。

 周囲を見ると鍋や包丁が散乱しているので台所まで飛ばされてしまったのか。骨が軋《きし》む程度の痛みで済んでいるのは戦闘服のお陰に他ならない。


「突然、三体とも強くなった。どういうカラクリだ」

「mtHと接続していながら圧倒できないのは癪《しゃく》なパピ」

「エムティーエイチ?」

「教えるかよパピ。ウチの派閥の秘匿技術だ」


 何かの略称と推測されるが、それ以上は謎である。世の中、三文字英字の言葉が多過ぎて、いい加減パターン不足に陥《おちい》っていないだろうか。

 怪人三体を逆手に構えたプラスチック製フォークで制し、仮面のプロジェクターを稼働状態で保つ。

 不利な状況であっても、致命的な状況ではない。伊達にディスイズニーランドを生き延びてはいないのだ。


「いつでも来い、怪人!」

「洒落臭《しゃらくせ》ぇっ。一気に叩くぞパピ。お前等ッ」

「ひゃっはービー」

「うほほほルキ」


 こいつ等に敗因があったとすれば、それは中途半端に戦闘力を強化した事に他ならない。戦闘力が低いままであったなら怪人共はなし崩し的に協力していたはずであるが、そうはならなかった。

 戦闘力20が三体いても、戦闘力60となる事はない。戦闘力10の怪人三体が協力して戦闘力30相当となる方が厄介《やっかい》だっただろう。


「俺の怪人技。“攪乱鱗粉”は無敵だパピ!」


 ワンパターンに怪人アゲハが翅で喫茶店内の大気をかき乱し、鱗粉を振りまく。俺と怪人を繋ぐルートは最も鱗粉が濃くなる。結果、残る怪人は左右に分断されたまま動くしかない。


「戦闘力強化で半日に一度発動できるようになった怪人技“蜂のように刺す”をくらえビー」

「お前からだッ。“模倣するは猫”!」


 サメ映画に固執する無編集版ではない、瞬発的な催眠の繰り返しで動きを封じる編集版を怪人キラービーの複眼に照射する。鱗粉で射程が縮んでいたものの、手首から伸びる針を突き出せる距離まで近づいてくれていれば十分な効果を発揮する。


「サメ映画ごとき……ビーッ?!」


 “模倣するは猫”の効果を理解していない怪人キラービーは全身を硬直させた。

 止まった怪人キラービーの凶器である針の付け根に向けて、蜻蛉切《ドラゴン・スレイヤー》を打ち下ろす。

 断ち斬った円錐形状の針を空中でキャッチすると、怪人キラービーの首元に刺して返却しておく。


「ビーッ、毒がァァァ!」

「まずは一体目」


 怪人キラービーを倒している間に怪人プリンセスホタルに近づかれている。

 だが、心配する事はない。怪人プリンセスホタルの奴は鱗粉を避けるために天井近くまで翅を広げて飛行した。飛んだ事で確信を得た。


「最初から飛べばよかったルキ」


 斜め上方から降下してきた怪人に組み付かれた。接客中はまつ毛の長い綺麗な女性の顔だったのに、今は怪人の凶悪な顔が目の前にある。

 絶体絶命となってしまったが、お陰で怪人の耳元で囁《ささや》ける。


「怪人プリンセスホタル。お前の負けだ」

「馬鹿を言うな。誰がどう見ても私の勝ちだルキ」

「……お前が男《・》だとバラすぞ?」

「ル、キィっ?! な、何の事だっ」


 明らかに動揺する怪人プリンセスホタル。俺の体を掴む指の力も弱まった。


「光るホタルはだいたいオスだぞ」

「メスも発光器官を有するルキ。適当な事を言うなっ」

「ほう。ヒメホタルのメスは翅が退化して飛べないらしいが、翅で飛んだお前は何と組み合わせた怪人なんだ、怪人プリンセスホタル?」


 様々なあり方が尊重される現代なのだ。男がメイド服を着て接客していたとしても何も問題はない。

 ただし、男が女を装《よそお》っている事を誰にも打ち明けておらず、店も客も同僚さえも騙《だま》していたのなら話は別である。


「痛たたたァ、ルキ!」


 ふと、怪人プリンセスホタルは腹を抑えて痛がりだす。俺は特に攻撃を加えていないのに、ナイフでも刺されたかのごとき腹痛に苦しんでマウントポジションを勝手に崩した。

 テーブルや椅子を倒して転がり、俺から離れていく。


「善戦虚(むな)しく、第二ヒーローにやられたルキぃーっ」

「これで二体目」


 二体の怪人を無力化したので、最後に残る一体の処理に取り掛かろう。

 鱗粉攻略としてまず考えられるのは火。密閉空間で細かな粉が数多く浮遊している状態となれば、粉塵爆発を引き起こす条件がいくつか揃《そろ》っている。けれども、火を点《つ》けるためには店内にいなければならず、店内で火を点ければ怪人のみならず俺も五十鈴も巻き込まれて、こんがりお陀仏《だぶつ》だ。よって火は使えない。

 鱗粉攻略ならば水も考えられる。たとえば、天井からスクリンプラーで水を放出させればかなり減衰できるのではなかろうか。まあ、この喫茶店に設置されているのは熱感式の警報機のみであり、スクリンプラーは未設置だ。よって水は使えない。

 では、粉に対して粉はどうだろう。

 こう考えて、壁際に置いてあった消火器を持ち上げた。ノズルを怪人アゲハに向けてトリガーを引く。


「げふぉ、止《や》めろパピ。ゲフォゲフォ」


 消火器の薬剤を顔に浴びた怪人アゲハは怯《ひる》んだ。一瞬でも翅を停止したのであれば僥倖《ぎょうこう》と考えていたのだが、想定よりも効果があった。

 残量が半分未満となった消火器を投げつける。と、さすがに腕で弾《はじ》き落されてしまったが、その間に間合いを詰める事に成功する。


「このォ、パピ!」


 ストロー形状の口を伸ばしてきても驚きはしない。しっかり回避して拳が届く距離まで接近した。


「射程内だ。怪人アゲハ!」

「近づいたからどうしたパピ! お前のへなちょこなパンチが効くかよ」

「それがな。台所まで飛ばされた時にこういうものを発見している」


 そういって見せつけたのはノズル付きの缶である。表面には害虫駆除やら即行効果やらという文字が書かれている。

 ノズル部分を怪人アゲハの首に見えた穴に差し込む。昆虫型怪人なので、人間にはない呼吸器官たる気門が現れているのだろう。怪人化した所為で、人間にはない弱点が付与される事もあるらしい。


「おまッ、パピッ。俺と害虫を一緒にするな!!」


 怪人の言い分に聞く耳を持つ必要はないので、殺虫スプレーを体内のマイナス距離で噴射してやる。




 殺虫スプレー一本を丸々流し込み終えると、怪人アゲハが体をビクビクさせて倒れ込んだ。

 明らかに弱体化しているので尋問する好機ではある。ただ、以前に怪人レッドドラゴンの奴に試そうとして生体爆発を起こしている。事は慎重に行わなければならない。


「まずは生体爆発を起こす部位を外科手術で切除してからだな。持ち帰っている最中に爆発される可能性があるから、ここで俺が行うしかない。無免許だから心配だ。まあ、三体もいるから、二体までなら失敗できる」

「だ、第二ヒーローの悪魔パピぃぃ」


 施術についてはリモートで眼鏡先輩に指示してもらおう。こう考えていたのだが……窓ガラスが外から割られて何者かが侵入してきた。思考を中断して振り返る。

 派手な現れ方だ。どうせ、スケーリーフットが現れたのだろうと予想して目線を向けると――、



「――助けに来たアントッ!!」



 ――予想に反して、スケーリーフットではない。

 迷彩服を着用するアリの頭と牙を有する怪人――政府軍駐屯地の地下で遭遇した怪人と同一個体か。名前は確か怪人アーミーアリ――が散乱するガラス片の中央にいる。屋上からロープを伝って窓まで降り、自分の体を振り子にして窓を蹴り破った直後。まるで特殊部隊の侵入作戦だ。


「嘘だろ、四体目っ!?」

「第二ヒーローかッ。敵として不足なしアント!」


 怪人アーミーアリは手に持つハンドガンの先を俺へと向けてきて、照準。

 発砲されたと気付いたのは、銃口が光り、衝撃に体が貫かれた後だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 派閥の秘匿技術ということはmtHのmはマヨ様のmでしょうか 小文字なのを考えると違うかもしれません 英字の略称は多すぎると混乱しますが2、3個くらいなら簡単に覚えられ、意味を予想する楽しさが…
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