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VS.政府軍駐屯地

 政府軍とは、大都会政府直轄の軍組織である。

 関東一帯を防衛する方面軍としての特性も併《あわ》せ持つが、巨大経済圏を有する大都会政府がバックにいる性質上、方面軍の中では最も装備が充実している。戦車や戦闘機、戦闘艦船ももちろん配備。所詮はアマチュアなヒーローでしかない第二ヒーローがターゲットにするには、ガチな相手である。

 その政府軍を調査するとは、どういった了見《りょうけん》なのでしょうか、眼鏡先輩。


「いつの間にか崩壊していた大都会ディスイズニーランド。あれほどの破壊を行える組織となると、候補は多くないからね。政府軍は最初に疑われるべきだよ」

「エヴォルン・コールの仕業というのが最有力なのでは?」

「破壊痕に残されていた高性能火薬は軍組織にしか流通していない。エヴォルン・コールが政府軍の装備を奪取した可能性も否定できないけれど、それならそれで大事件だ。公表するべき前代未聞の緊急事態に対して、どうして隠蔽《いんぺい》し続けるのか。政府軍の行動は、きな臭い」


 仮に政府軍が装備を悪の秘密結社に奪われた被害者なのだとしても、軍の面子《めんつ》と大都会を守るために行動を開始するはずだ。けれども、政府軍は不気味に沈黙し続けている。怪人が街で暴れても部隊が出動する事はない。

 確かに眼鏡先輩の言う通り妙である。



「――ただ、政府軍が絡《から》んでいたとしても、情報操作で大破壊を完全に隠蔽できるはずはないのだけど。空爆地が大都会に近過ぎる」

「怪人オオハマグリの霧で精神操作を受けていたのでは?」

「であれば、霧の精神操作で政府軍は怪人の存在に気付かない。大攻撃の切っ掛けが生じない」



 眼鏡の透過性を下げつつ、先輩は語る。

 パソコンディスプレイの映像を反射する眼鏡レンズには、気象庁のホームページが写っている。おそらく、去年の大都会の天気を調べ、霧が大発生していたかを確認していたのだろう。



「それに、大攻撃が行われた場所に怪人オオハマグリがいたなら、無傷でいられたはずもない。……だとすれば、政府軍は何に対して攻撃を仕掛けたのだろうね。自国内、それも大都会直近を空爆する程の狂気とは、何だったのだろうね」



 大都会ディスイズニーランドの破壊原因を調査していた眼鏡先輩は、疑念が確信に変わる程の事実を見つけたのかもしれない。珍しく教えてくれないのだが。


「……ごめん、まだ正確に何かを掴んでいる訳ではないんだ。それを掴むためにも、第二ヒーローには政府軍を調査してもらいたい」


 眼鏡先輩が地図で示した場所には、大都会の中にある政府軍の駐屯地がある。

 基本的に一般人が入場できる場所ではない。周囲には壁やフェンスがあり、正面ゲートには常に立哨がいる。監視カメラやセンサーの類もあるだろう。第二ヒーローでも、侵入した途端に発見されてしまう。


「合法的に敷地内に入る方法はあるよ。年に一度だけ、この季節のみの方法だけどね」

「あー、盆踊りですか」


 眼鏡先輩が言う方法に、春都は気付いた。

 どうやら、駐屯地内で夏祭りが開催されているらしい。地域交流の一環であり、政府軍関係者のみならず地元の人も多く集《つど》う。その日なら、誰でも正面ゲートを通って敷地内に入る事が可能だ。


「それでも建物内に入るのは困難だし、危険もある。正直に言うと、エヴォルン・コールを倒す上で必要な情報が手に入るとは言い難い。二郎君が怪人を打倒する事を第一に考えているのなら、この調査は止めるべきだ」


 眼鏡先輩は俺の意志を確認してくる。実働部隊である俺の考えを尊重してくれるのは有難《ありがた》い。

 だが、第二ヒーローはチームである。眼鏡先輩の意志も第二ヒーローの行動に反映されなければおかしい。

 時には先輩らしく、指示してくれてもいいと思う。


「先輩は必要だと思っているのでしょう。なら、異存はありませんよ。春都はどうだ?」

「第二ヒーローのブレインは先輩です。手足は脳の命令に従います」


 眼鏡先輩は、やや照れ臭そうな表情を見せる。


「そうだね。……ありがとう」


 決行は八月十五日の夕方。目的地は政府軍の駐屯地、そこにある建物のサーバー室。

 満場一致で第二ヒーローは政府軍を調査する。



「僕達は大都会に……世界の裏側に隠された真実を調べる必要がある。最後まで知らずにいると、きっと、最終的には足をすくわれる」




 準備を整えている内に当日だ。

 戦い続きで疲労していた体は調子を取り戻した。

 新型の戦闘服についても、サウナに連日通って慣熟訓練は済ませてある。戦闘服のカスタマイズまでは完了していないものの、素の状態でも以前の物よりも性能は高い。


==========

 ▼第二ヒーロー(戊A型戦闘服)

==========

“戦闘力:15”


“怪人技:

 模倣するは猫(劣化コピー)

 疑死回生(遺言メモ)

 蜻蛉切《ドラゴン・スレイヤー》(プラスチック製フォーク)

 神は死んだ(ハンティングキャップ)”


“宅配された新型戦闘服を着ただけの第二ヒーロー。

 盆踊り客に紛《まぎ》れるため、甚平《じんべい》を上から着ている”

==========


 情報通り、盆踊り当日は一般人も出入りが自由だ。親子連れも多い。

 学校の運動場をイメージさせる広場の空には、提灯が一定間隔で吊るされている。広場の中央にはかぐらと太鼓があり、夏の公園で行われる盆踊りそのままの空気が漂っていた。


「二郎君、あの封鎖されている道の向こう側を右に行くと訓練施設、車両整備場。左が食堂、隊員宿舎、駐屯地本部に続いている」

「よく調べましたね」

「特別な調べ方はしていないさ。調査目標は左側通路の奥にある駐屯地本部。渡したハッキングツールをパソコンに接続すれば自動取得できる」


 眼鏡先輩のお膳《ぜん》立ては完璧だ。側《がわ》はUSBメモリであるが、中身は完全なハッキングツールな先輩お手製品も手渡しされている。


「遅れて現れる春都君が急性虫垂炎の演技をしている間に、二郎君は本部に向かって欲しい。タイムリミットは盆祭りが終わるまで。情報が手に入らなくても時間厳守で」

「分かっています。先輩も春都の盲腸が切られないように助けてやってください」


 ラムネを飲んで待っていると、予定通り、春都の奴が現れた。迷彩服を着ている政府軍の隊員の前で、わざとらしく倒れ込む。


「痛たた。痛たたたっ」

「君、どうしたんだ。腹が痛むのか!」

「右の下腹が突然痛くなってっ。痛たたたっ」


 隊員二人が、腹をさする春都の介抱《かいほう》を始める。カラーコーンとポールのみで閉鎖している通路を通過するなら今だろう。



「この症状は……まさか、腸閉塞(へいそく)。複雑性イレウスかッ。緊急手術をしないと危険だッ」

「……えっ。いや、そこまでの重病ではないかな、と」



 素人演技であるが、隊員達は春都の腹痛を一切疑っていない。盲腸よりも深刻な病魔におかされている人間をいたわるように、親身だ。


「素人判断は危険だぞ、君! 安心したまえ、改造用だが手術台がこの駐屯地にはあるイィー。さあ、遠慮せず。肩を貸すぞ」

「あの、もう治りました。ほら、こんなに元気!」

「何なら改造体験を受けてみないかい? 触《さわ》るといい体をしているじゃないか。下級戦闘員程度の改造なら、プチ整形よりも気楽に受けられるぞイィー。薬なしでは覆面が必須の生活となるが、慣れれば気にならなくなる」

「いや、だから。治りました。俺は治りましたよ!?」


 ……隊員二人が春都を連れて建物の中に消えていった。完全に素通り可能な状態だ。

 春都の演技と体を無駄にしないため、俺は駐屯地の本部へと向かう。

 死角に潜り込んでから第二ヒーローの仮面を装着した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軍も政府も取られてたらもう詰みですね……。エヴォルンコールを倒せても立て直しができるのか……。 [気になる点] ここで春都が改造されて第三、いや第四ヒーローになるんですねー
[良い点] 春都の犠牲で潜入できそうですね。なんか春都が連れてかれちゃったけど。戦闘員にされそうだけど。 政府軍がこうなってるってもしかしなくても人類もう終わってますね。
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