VS.怪人雷獣太
怪人ブレイン・モンスター一味は大電流に打たれた。
駅構内に、繊維と肉の焦げるような臭いが漂う。一部の戦闘員は覆面が焼けたためか、泡となって消えつつあった。
惨事を引き起こした張本人は、落雷の中心地で平然と立っている。
「お前はッ、どうして仲間の怪人をッ!?」
「我が派閥の末席を汚す、裏切り者を処分したまで」
怪人と多数の戦闘員を感電させながらも、未だに恐るべき電力を毛皮に蓄えた四つ腕の獣の怪人。
「お前はッ、誰だッ!!」
答えて欲しくて誰何した訳ではなかったが、怪人は堂々と名前を言う。
「俺は、エヴォルン・コールの獣派閥を統率するA級怪人、雷獣太」
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▼怪人雷獣太
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“戦闘力:135”
“怪人技:雷の獣
落雷を伴う暗雲を自由自在に発生させる。落雷を起こして毛皮に蓄えた後、敵に向けて放電する。
派閥の配下からはそういった怪人技と認識されている”
“エヴォルン・コールが誇る三体のA級怪人の一体。
四つの腕を有する獣の姿をした怪人。全身が毛で覆われており、尻尾は二股。顔はイタチ系の動物に酷似している。名前や見た目通り、雷獣の怪人である。
雷を操作するという攻撃性能の高い怪人技を有し、本人も武闘派。ホワイト・ナイトと直接戦闘可能な唯一の怪人と言われている。
好物はトウモロコシ”
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大都会ディスイズニーランドを支配していた怪人オオハマグリと同じA級怪人が、眼前にいる。
雷を操った事実から見ても戦闘力は恐ろしく高い。直接攻撃能力は怪人オオハマグリを上回るのではなかろうか。確実に強敵である。
一切の準備が整っていない。
戦闘服さえ装備していない。
今戦えば、俺は、確実に敗北する。
「旧人類よ。要らぬ迷惑をかけたが、こうして裏切り者は処分した。許せ」
……いや、第二ヒーローの格好をしていない事が命を救った。俺は敵と見なされていない。
ホっとしたが、同時にハッとした。
ユヅルハを殺した悪の秘密結社の幹部に見逃されて、安心してしまったのか。それは許されない恥辱だ。握り締めた手の中で、爪が皮膚に深く食い込む。
俺が耐え難き恥に耐えている中、隣で燃焼音が生じる。
黄色いヒーローがブースターを稼働させて疾走し、怪人雷獣太に近接戦闘をしかけた。
「A級怪人、ノコノコとヒーローの前に現れたなら、倒す!!」
「スケーリーフット、お前は俺に挑める程の強者か?」
怪人雷獣太を中心に青白い放電現象が半球状に広がる。
境界面と接した瞬間、スケーリーフットのバイザーから光が失われた。背面ブースターも突然機能停止して前のめりとなっていく。その大き過ぎる隙を狙い、二本腕が強襲する。
天井まで跳ね上げられたヒーローの体を、怪人雷獣太の体から放たれる雷撃が追撃した。度重なる落雷で限界だった駅の配電が完全に焼き切れたのか、全館が停電する。
「戦闘補助AIがフリーズッ。マニュアル操作で対処をっ」
「肩透かしだ、スケーリーフット。これならサンドバックを叩いている方が有益か」
天井の高さから落下するスケーリーフットを、怪人雷獣太の大ぶりのストレートが直撃。自動販売機へと突っ込んだスケーリーフットの体が、炭酸塗れとなっていく。
ダメージの蓄積が心配になるところだが、ヒーローは立ち上がろうとしていた。
「怪人。お前の攻撃は通じない」
「……なるほど、訂正しよう。サンドバックよりは丈夫か。それならば、遠慮せず我が雷を放つとしよう」
打撃に対する防御力はさすがに高い。
だが、怪人雷獣太の雷を受けて耐えられるかは分からない。絶縁対策が十分とは言えないスケーリーフットの装甲を通じ、内部まで電流が浸透すれば終わりだろう。
怪人雷獣太が侵入してきた穴から、続けて三度、雷が落ちる。
雷を纏う怪人の体が膨れ上がって、怪しく光る。
時空転移を数度行えそうなパワーをすべて、スケーリーフットへと向けて放つつもりだ。
「ヒーローと自称するからには、このぐらいは耐えて欲しいものだが、どうだ?」
「待てっ、ここには一般人もいるんだぞ」
「そうだな。が、それが? 一般人を巻き込む攻撃は非道かもしれないが、それを最初に実行したのは旧人類だ。いまさらな指摘で俺は止まらない」
そして、そんな馬鹿げた電流が室内空間を駆け巡れば、近くにいる俺も巻き込まれるのは必至だ。が、俺は逃げ出す気になれず、怪人を真っ直ぐに睨むだけだ。
「逃げ出す、ものか」
「ガジェット・パンチでは間に合わないッ。二郎さん、逃げて!」
「怪人技“雷の獣”。とくと味わえ――」
戦闘で多数舞い上がっていた塵の動きが止まる。怪人から大電流が放出される予兆で間違いなかった。
「――そこまでだ、雷獣太」
上空からの声が届くよりも先に届いた銃弾が、怪人雷獣太の体に撃ち込まれる。
射撃は一度では終わらず、数度の衝撃が怪人雷獣太を襲う。
「……お前が、どうして現れる? 本部の命令か」
「勝手な行動を取る怪人がいたから、こうして私が出向いたのだ」
銃弾を受けても血を流していない怪人の防御力は驚嘆すべきものがあったが、出鼻をくじかれたため大電流は放出していない。
「であれば遅かったな。怪人ブレイン・モンスターは既に処分した」
「……違う。勝手な行動を取っているのはお前の方だ、雷獣太」
「なに?」
天井の穴を通じて、ゆっくりと下降してきたソイツの装甲の色は、白。
そう認識した時には、俺の目は得物を探していた。
「俺は配下の不始末を処理したに過ぎない。ドクトル・Gの懐刀であるホワイト・ナイトと言えど、言いがかりには実力にて抗議しよう」
「本部は、怪人ブレイン・モンスターの処分を保留にしていた。ドクトル・Gがそうされたのだ」
「どういう事だ??」
「雷獣太。お前は先走った。一度、本部に出頭しろ」
床上、三十センチ付近まで降りてきたソイツの名前は、ホワイト・ナイト。全身を覆う甲冑を着込んだ白い騎士。対物ライフルを腕から生やしている少々おかしな騎士ではあったが、ユヅルハの仇で間違いない。
俺の手は、戦闘の余波で天井から落ちてきたと思しき鉄パイプを握り締めている。
どうするつもりで鉄パイプを握ったかというと、当然、ホワイト・ナイトの背中をフルスイングするためだ。
一般人でしかない俺と、そこいらの小石との区別がつかないのか、ホワイト・ナイトは俺を見てない。
「死ねぇッ。ホワイト・ナイトッ!!」
鉄パイプは良い音で鳴ってくれた。
けれども、耐久力が足りない。折れ曲がったのはホワイト・ナイトの背骨ではなく鉄パイプの方だ。
「……戻るぞ。雷獣太」
「おい、俺を無視するな」
「仕方あるまい」
「待て、ホワイト・ナイトッ!」
ホワイト・ナイトは一切、俺を見ることなく、手の届かない空の高みへと上がっていく。怪人雷獣太も続いて退却していくようだが、怪人などどうでもいい。
「ホワイト・ナイトッ。俺を覚えているかァぁぁアアッ!!」
空に向かって必死に吠えたが、結局、一切の反応はなかった。
暗雲立ち込める空に白い姿は既になく、ただ、雨粒が降り注ぐのみ。
一度ならず二度も仇敵を取り逃してしまった俺は、情けなさに潰れてしまいそうだ。
「――――私を殺す権利を有する人物がいるとすれば、それは彼になるのだろうな」
いつまでも吠えていられないため、肩を落としながら移動する。まだ停電したままの、暗い通路を歩く。
向かう先には、黒く焦げ上がった怪人が倒れている。戦闘員は全員息絶えたため、戦闘服しか残っておらず、抜け殻だ。
怪人ブレイン・モンスターも生きているのか死んでいるのか分からない状況であり、生きていたとしても言葉を発せられる状態ではない。
よって、近づいたからといって最後の言葉を聞ける訳ではない。ただ傍に立っただけである。
……けれども、俺の頭の中に言葉が記憶される。
消えていった戦闘員達の記憶を一言ずつ繋ぎ合わせて、生成した人工の記憶が俺の脳内へと流し込まれる。
『い・し・だ・ミ・カ・を・た・の・む』
記憶を受信して、現実へと戻ってきた時には怪人ブレイン・モンスターの体も消えていた。
床に残っていたのは、石田ミカの握手会チケットだけだ。




