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VS.怪人ブレイン・モンスター 3

 エヴォルン・コールの重鎮、ドクトル・Gの名前をアイドルオタク型怪人から聞く事になろうとは。しっかりしろよ、エヴォルン・コール。怪人にする人間をもう少し選べよ。

 しっかりしろ、と言いたい相手はスケーリーフットもそうなのだが。不可視の攻撃を一方的に受けて、片膝を付いている。


「AI解析……熱源なし。対流変化なし。どういう攻撃だっ?!」

「石田ミカが悪い男に引っかかるのを阻止しなかった悪いヒーローぉ。僕達が成敗するウヂィ!」


 何かカラクリがあるのは間違いなさそうだ。まあ、十中八九、怪人技を使っているのだろう。

 怪人ごとに大きく異なる怪人技の効果を推理するためには、目の前の状況を正確に把握する必要がある。幸い、スケーリーフットが現れてから俺はターゲットから外れているので余裕があった。


「見えない攻撃? ……いや、見えない攻撃という表現は本当に正しいのか?」


 スケーリーフットは打撃を受けたようにふらついているが、傍目はためには攻撃を受けている様子はない。そこに強い違和感を覚える。

 黄色い装甲表面も無傷だ。ならば、パワードスーツによる物理的な遮断を無視して、内部に直接攻撃を加えていると考えるのはどうだろうか。

 目に見えないのではなく、そもそも、見えるタイプの攻撃ではない。そう怪人ブレイン・モンスターの怪人技を仮定する。


「体に直接攻撃可能なら、急所を真っ先に狙えばいい。それをしない理由は何だ?」


 スケーリーフットの様子から、顔、腹、顎と決まった場所ばかりが攻撃を受けているように思える。軽くはない攻撃であるが、重くもない。防御を無視して攻撃するなら最初に狙うべきは心臓だろう。

 怪人ブレイン・モンスターはスケーリーフットをいたぶっているのだろうか。

 それにしては、怪人ブレイン・モンスター側に余裕はなさそうだ。



「マズいウヂィ。同じ攻撃ばかりだと、痛みに慣れてしまうぅ。……戦闘員、申し訳ないけど、またダメージを負って欲しいウヂィ。特別手当はもちろん出すんだよぅ」

「イィーっ!」

「イィーっ!」

「石田ミカ親衛隊会員、一〇〇〇三号に、五六〇九号。お前達の勇気に敬意を表すウヂィ」



 怪人ブレイン・モンスターの傍へと進み出た戦闘員が二名が、覚悟を持った敬礼をしている。そんな二人を、怪人はヒレで抱き合ってから送り出そうとしていた。自分では戦わず、戦闘力のおとる戦闘員をけしかける酷い怪人にしては親密な態度だ。


「怪人と戦闘員がやけに連携するな……」


 スケーリーフットへと挑戦する二名の戦闘員は、当然のように返り討ちにあって、スタート地点へと蹴り戻された。

 だが、その直後、スケーリーフットも蹴られたかのように倒れた。


「戦闘員とスケーリーフットで同じリアクションか。戦闘員が受けた攻撃が、スケーリーフットに伝搬している? 少なくとも反射している訳ではないか」


 理屈はさっぱり分からないが、なんとなく怪人技の秘密が見えた気がする。

 連鎖的に攻略法も見えたのだが……スケーリーフットが同意してくれるかは怪しい。

 第二ヒーローのマスクを装着している時でさえ、俺とスケーリーフットは協力関係にある訳ではない。ただの一般人でしかない今の俺の言葉をスケーリーフットが聞くはずがないだろう。

 となれば、スケーリーフットには黙って作戦を実行しよう。



「戦いの中に割り込むのは無謀だな。コピーキャットの動画だけでも持ってくるべきだった。カバンに何か役に立つ物は入って――」



 ――肩掛けカバンの中を手探りした結果、丁度良い物品を発見する。持ち運ぶつもりはなかったのだが、春都の目に付かないようにカバンの底に突っ込んで忘れていたらしい。


 作戦と手段が揃った。


 俺はカバンの中から、やや加齢臭のする穴の開いたハンティングキャップを取り出す。

 そして、そのハンティングキャップを……怪人の方ではなく、スケーリーフットの方を見ながら床に投げつける。春都に向けてテストした時よりも、心は痛まなかった。


==========

“怪人技:神は死んだ(ハンティングキャップ)”


“カワハギ型怪人の怨念的な何かが付与された帽子。

 対象を目視しながら帽子を床に叩きつけると、対象に降り注ぐ上位存在の干渉を否定、いわゆる加護や幸運を一時的に消失させる。単純に言うと、不運になる”

==========


 スケーリーフットを不幸にするという、まるで怪人を援護するかの行動には意味がある。

 怪人ブレイン・モンスターの怪人技はカウンター型。スケーリーフットが戦闘員への攻撃を不運にも失敗すれば、発動できないのだ。


「イィーっ!」

性懲しょうこりもなくッ」


 再来する戦闘員を迎撃しようと、スケーリーフットが一歩踏み出す。


「おっと、何故かゴミ箱にあったバナナの皮がっ」

「二郎さん、何をっ、うぉっ!?」


 俺がスローしたバナナの皮を踏んで、スケーリーフットが派手に転ぶ。まあ、怪人技で反撃を食らうよりもマシだろう。

 実際、スケーリーフットのダメージは軽く、すぐに立ち上がった。近づいた戦闘員に向けて鉄拳を振るう。


「おっと、タオルハンカチが風に飛ばされてっ」

「だから二郎さん。邪魔しないで!?」


 スケーリーフットのバイザーをハンカチが覆い、スケーリーフットの鉄拳がスカる。

 春都に試しただけではデータ不足だったが、怪人スキンヘッドの怪人技が発動すると、失敗する余地があるのならば必ず失敗するらしい。いわゆるマーフィーの法則だ。

 戦闘員以上に俺を邪魔に思ったスケーリーフットが傍まで後退してきた。鉄製のガントレットを両肩に置いてきて重い。


「二郎さ……一般人。ちょっと、離れていてくれないか?」

「スケーリーフット、気付かないのか。怪人の攻撃が止まっているぞ」


 スケーリーフットはハッと表情を変えて――素顔は当然見えない――怪人の方へと振り返る。そのために俺から手を離す。

 自由となった俺も怪人方向を見て、言い放つ。



「怪人ブレイン・モンスター。お前の怪人技は、味方のダメージを敵に移し替える。そうだろう?」

「ウヂィッ!?」


==========

“怪人技:海馬代入ヒッポカンポス


 他人の脳内にある一時間以内の記憶を、別の誰かの脳内にコピーする。自分の脳は対象外。

 記憶がコピーされると、対象は今体験しているかのように錯覚を受ける。ただし、同じ記憶をコピーすると鮮度が落ち、効果が薄れる。”

==========



 完璧に言い当てたとは思っていないが、怪人ブレイン・モンスターの反応を見るにかなり正解に近いらしい。

 スケーリーフットが戦闘員を殴る。と、殴られた戦闘員のダメージをスケーリーフットにコピーする。戦闘員が気絶するような苦痛がコピーされているのだから、痛いのは当然だ。

 攻撃と防御の差が大きいとより効果的と考えると、スケーリーフットが自分で自分を殴る以上に痛烈だっただろう。

 この怪人技を突破するなら、戦闘員を無視して怪人ブレイン・モンスターを直接叩くのが最有力。一撃で倒すとなおよい。

 ……ただ、怪人ブレイン・モンスターは迷惑な奴ではあっても、事件を起こした訳ではない。怪人全般を許さない気持ちは誰にも負けていないという自負を持つ俺であるが、推しのアイドルの幸せを思い、平伏さえしたこの怪人については複雑な思いがある。



「スケーリーフットが攻撃しなければ、怪人技は発動できない。ならば……双方、矛を収めないか?」



 一般人の俺がでしゃばるのも不自然なのだが、俺が提案するしかない内容なので発言した。


「僕達は怪人ウヂィ!」


 怪人陣営から真っ先に抗議を受けるが、俺はひるまない。



「甘ったれるなよ、怪人ブレイン・モンスターッ」

「な、ウヂィ」

「お前は俺と同じ、石田ミカのファンのはずだッ! お前達が旧人類と言う俺達のアイドルを愛する。そういうお前ならば、俺達と分かり合えるんじゃないのか!!」

「ウヂィッ?! 同じ、ファン同士……。そうだったァ。僕は怪人である前に、石田ミカのファン、だったんだァ……」



 怪人ブレイン・モンスターは脂肪の間に挟んであったスマートフォンを取り出して、トップ画面を見た。そこにはきっと、石田ミカの写真が張り付けてあるのだろう。

 スマートフォンを見ながら大粒の涙を浮かべる怪人。明らかに戦闘意欲が消えており、体も一回り小さくなって見える。

 怪人を囲む戦闘員も、各々のファングッズ、ハチマキや法被はっぴを着込んで、鼻をすすり始める。


「スケーリーフット。怪人だってああして泣くんだ。泣く相手とは戦えないだろ」

「…………警察へ自首しろ。逮捕された怪人まで倒そうとは思わない」


 スケーリーフットも怪人に対して複雑な思いを持っていそうであるが、構えを解いてくれた。

 不幸な誤解により発生した戦闘が終わりを迎える。

 俺の立ち位置は二股野郎という戦闘原因から、戦闘を停止させた平和の使者へと移り変わった。下らない原因……ごほん、下らない戦闘を終わらせる事ができて幸いだ。


 ……本当に幸いだったのだろうか。


 怪人と分かり合える可能性。

 可能性であろうとも、それは今後の第二ヒーロー活動にとって果たして良い事なのか、悪い事なのか。怪人と対峙した際に、相手の事情を考えて戦える程に、第二ヒーローは強くない。

 そして俺個人としても、憎むべき相手の喪失を受け入れられるのだろうか。



「――上空に突如雷雲発生?! 熱検知ッ。危ないッ!!」



 自問が深くなりつつあった時だった。

 スケーリーフットが俺を抱えて防御姿勢を取ると同時に、周囲から音が消えた。直後に発生する爆音が、音のすべてをかき消したのだ。

 まばゆい光に駅構内は満たされて、あらゆる電気機器がショートしていく。



「――――我々、怪人は強くなければならない。旧人類を否定し滅ぼすからには、旧人類が納得できる程に強くなければならない」



 至近距離で爆弾が破裂したかのようだった。

 実際に何が起きたのかは分からないが、駅の天井には大穴が開いているのは確かである。

 ……天井の穴の下に、いつの間にか、電流が走る毛皮が特徴の怪人が着地している。



「怪人ブレイン・モンスターよ。強くあるべき怪人が、弱い旧人類に下る事は許されぬ。……よって、本部がキサマを自爆させるよりも先に、派閥の長として、我がじき々にキサマを処分しよう」



 全身を覆う黄色い電流、青い電流が途切れない毛。

 四本・・の腕に二本の尾。

 バチバチと音を鳴らしながら立ち上がった正体不明の怪人へと、天井の穴を通じて落雷が生じて再び目がくらんだ。


 雷の発光が止み、目が機能を取り戻した時には……もう、怪人ブレイン・モンスターは水蒸気を発しながら黒焦げていた。

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