表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/166

VS.怪人ブレイン・モンスター 2

 改札口から続く通路を走り抜けていく。

 ファストフード店や立ち食いソバ屋を尻目に、市民生活をおびやかす凶悪な戦闘員や怪人から生存をかけた疾走を続ける。


「この二股野郎ウヂィッ!」

「イィーッ!《アイドルがいながら他の女だと、死ねッ》」

「イィーッ!《全員で囲んで袋叩きだッ》」


 捕まれば命がない。奴等は冷酷であり、残酷である。

 善良そのものな青年オレが逃げ惑う姿は多数の通行人に目撃されていたが、誰も助けようとはしなかった。それを俺は非情と思わない。下手に手を出せば危険がおよぶ。同じ赤い血が流れる者として、誰かが傷付く光景は見たくない。


「なに、可愛いアイドルがいながら他の女にも手を出していた? もげろ!」

「戦闘員達、頑張れーっ! 女の敵をボコボコにしろ!」

「今日は誰も通報するな! 怪人を応援するんだ!」


 ……クソ大都会人共め。お前等全員、赤い血が流れていないな。

 完全にアウェイな状況であるが、そうでなくても逃げ切るのは不可能だった。戦闘服を着た戦闘員の走る速度はオリンピック選手に匹敵する。寸胴な怪人さえも、床を滑る移動方法でありながら高速移動で距離を詰めている。もう逃げるのは限界。

 スタミナ切れを起こす前に、追いかけてくる怪人共へと振り返りながら立ち止まる。

 両手を水平に伸ばして、床に牙を突き刺しながら向かってくる怪人に待ったをかけた。


「止まれっ、怪人ブレイン・モンスター!」

「いまさら、命()いをしても遅いウヂィ」


 指摘されるまでもない。両腕は無意味に伸ばしたのではない。

 襲いかからんとすごむ怪人ブレイン・モンスターに対して、俺は両手で摘まんでいるソレを見せつけているのだ。


「俺を襲っていいのか。この握手会チケットを破るぞ」

「握手会チケットぐらい僕達も全員持っているウヂィ」

「石田ミカのファンでありながら、お前の目は節穴だな。ここに書かれている直筆サインが目に入らないか?」

「まさか、本人のサイン……ウヂィっ?!」


 背に腹は代えられない、と財布から取り出して怪人共に見せびらかしたのは握手会チケット。ミカ本人がサインを書き込んだファン垂涎すいぜんの一品だ。



「フリーズ、怪人共。俺を襲えば、このチケットをちぎる」

「同じファンなら、そんな真似はウヂィ……」

「ほう、二股野郎をお前は信じてくれるのか?」

「卑怯者ォウヂィ!!」



 盾にするにはあまりにも薄いチケットが、怪人ブレイン・モンスターの動きを封じ込める。

 怪人が近寄ろうとした瞬間、指の力を込めてチケットを少しだけちぎる。たったそれだけで一トン強の体重を誇る怪人がビクりと体を震わせて停止した。

 均衡状態を作り出す事に成功し、とりあえずは延命できた。が、これからどうしたものか。





 改札口に取り残された女二人は、しばらく静止した後、互いに会釈を交わす。


 五十鈴いすずは完璧な変装をほどこしているミカに気付いていない。

 ミカは五十鈴響子をそもそも知らない。


 他人の女同士が穏便に事を済ませる。ただそれだけの無難な笑みであったものの、五十鈴はミカを綺麗な人だな、と思い、ミカは五十鈴を綺麗な人だな、と思っていた。

 この場に居残る理由がない二人は、別々の方向へと後ずさっていく。





 サイン入りチケットで怪人を牽制けんせいするところまではよかったが、両手がふさがっている状態では救援を呼べない。春都に連絡を取り、第二ヒーロー装備一式を運ばせる事ができない。悠長に戦闘服を着ている余裕はないだろうが。

 手持ちの品に、怪人に効果がありそうな物がないかを確認したいというのに、カバンを確認する事もできない。

 このまま時間を無駄にするのは……マズい。


「ク、このままでは握手会の受付が始まってしまう!?」


 ミカともう一度握手する。そのためにはこの状態から脱出しなければならないというのに、俺一人ではどうすることも――、



「――とうっ! 悪の秘密結社とその怪人! 私はお前達の蛮行を許さない」



 ――壁を突き破って登場する神出鬼没のヒーローが、俺と怪人の間に割り込む。

 黄色いパワードスーツのヒーロー、スケーリーフットの登場だ。今日、この時ほどにスケーリーフットが現れる事を喜んだ事はない。


「いいぞ、スケーリーフット! 愛している!!」

「…………気の多い」

「ちょっと待てッ。誰が、中身がマッチョのおっさんに気があると?」


 言われなき非難を浴びる日だ。どうしてヒーローにも怪人にもジットリした目を向けられなければならないのだろう。


「スケーリーフット。僕は他の怪人と違って、お前に興味はないウヂィ。そこの男に天誅を下したいだけだァ」

「同意したいのは山々だが、お前の全体重を使ったボディプレスを受ければ、そこの二股男は内臓を口から吐いて圧死する。さすがにその死に方は見逃せない」


 ……その言い方だと、普通に死ぬ分にはいいと言っていないか?


「スケーリーフットぉっ、お前は悪人の命も救うタイプの偽善ヒーローだったウヂィ! ならば、お前から先に始末するゥ」

「イィーっ」

「イィーっ」


 怪人が挑むよりも先に、血気盛んな戦闘員が二人、左右同時にスケーリーフットへと襲いかかる。

 スケーリーフットは顔にジャブ、顎にアッパーを一発ずつ叩き込んで、戦闘員をノックアウトしていた。戦闘員程度の戦闘力では、正面からヒーローに挑んでも敗れるだけだ。


「よく戦ったウヂィ。後ろで休んでいるんだァ」


 ダウンした戦闘員を別の戦闘員に運ばせながら、怪人ブレイン・モンスターは前に出る。

 巨大な体はスケーリーフットよりも大きく、かなりの威圧感がある。長い牙は分かり易い凶器である。

 野生においても、分厚い脂肪に守られるセイウチの防御力は高く、ホッキョクグマの噛みつきやブローが通じないと聞く。戦闘員を倒したように簡単に倒せる相手ではない。


 のしかかり、ボディプレスか。

 それとも、牙による刺突か。


 拳を握り締めたスケーリーフットは慎重に怪人の出方をうかがった。けれども、怪人ブレイン・モンスターはなかなか動こうとしない。

 案外、短気な面のあるヒーローは待つのを止めて、鉄拳を突き出す。

 ……鉄拳を突き出すモーションの途中で、スケーリーフットは突如、頭を打撃されたかのごとくよろけた。



「怪人技“海馬代入ヒッポカンポス”の餌食えじきだウヂィ」



 怪人ブレイン・モンスターに動きは確認できなかったのに、スケーリーフットはダメージを受けている。あの巨体でありながら目に見えない速度で動き、スケーリーフットを攻撃したとは思えないのだが。


「この、うっ!?」

「どうしたウヂィ、スケーリーフットぉ?」


 また、スケーリーフットが突然苦しむ。今度は顎をかち上げられたかのように頭部を振って、数歩後退していく。

 体付きよりパワー型怪人だと思われた怪人ブレイン・モンスターであるが、不可解な攻撃をスケーリーフットに加えている。まるで、見えない攻撃を行っているみたいだ。

 ひるむスケーリーフットへの追撃のため、怪人後方にひかえる戦闘員共が再び挑む。今度は三人に数を増やし、取り囲みながら攻撃している。


「イィーっ」

「イィーっ」

「イィーっ」

「な、なめるなッ!」


 スケーリーフットは意地を見せた。

 腹を殴って一人を悶絶させ、掌底を打って一人を店の看板に突っ込ませ、回し蹴りで一人を通路の奥まで吹き飛ばす。戦闘不能となった戦闘員は仲間が足を引っ張って回収していった。


「怪人技“海馬代入ヒッポカンポス”ウヂィ!」

「ぐお、がッ?!」


 また見えない攻撃に襲われたのか、スケーリーフットが苦悶を口にする。体は装甲に守られているというのに、酷くくるしげだ。

 腹を抑えながら体をくの字に曲げて、後頭部から倒れて店の看板に突っ込む。立ち上がろうとしたところで体に強烈な衝撃を受けたのか、俺の立つ位置を通り抜けて通路の奥の壁へと激突していた。


「この怪人は、強いっ!」


 駅の改札口に引っかかっていた怪人に、スケーリーフットが苦戦している。



「アイドルに強烈な願望を抱くところを評価されて、ドクトル・Gに改造された僕がァ、弱い訳がないんだウヂィ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 戦闘力が倍近くあるスケーリーフットを追い詰めるとは。強いですね海馬代入。名前的にダメージを錯覚させて与えているのですかね。強くてファンの鑑で部下にも気配りもできるブレインモンスターさんがこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ