VS.悪の秘密結社の宣戦布告
「ホワイト・ナイトォオオオッ!! 俺はお前を知っているからなッ!!」
喜び叫びながら、俺は上空のホワイト・ナイトを指差す。
世間的には認知されていない謎の白い怪人が、こうして衆人環視の中、空を飛んでいる。現実に存在している。倒すべき敵であろうと喜ばしくて、ハグしながら絞殺してやりたくなってしまう。
「……騒がしいね、君」
俺に気付いたホワイト・ナイトが高度を落とした。地上三十メートル付近でホバリングしている。
ジェットエンジンの吸気音がうるさいのはお前の方だと言いたいが、ホワイト・ナイトの声は普通に聞こえた。指向性スピーカーでも使っているのだろう。
「戦闘員ではない人間が、カスタマイズされた戦闘服を着ている。君は第二ヒーローで合っているかい?」
「お前はホワイト・ナイトだろ!」
「私の名前を知っていたとは予想外だよ。いや、A級怪人が倒された現場に、第二ヒーローがいた事実を考えれば、そのぐらいは当然なのか。あるいは、過去にどこかで出会った事でもあっただろうか?」
「知っていると言っただろッ」
「……そうか。それは不幸な。同情しよう」
ホワイト・ナイトの声は若い男のもの。パワードスーツの中の人物の性別にまでは興味がなかったので正直どうでもいい。女であろうと復讐をする事には変わらない。それどころか、同情すると言われた瞬間に殺意が一気に上昇した。
ホワイト・ナイトは尖った指を見せつけるように広げると……両手を合わせて拍手する。
「まずは私から祝辞を。第二ヒーロー。君は私達、エヴォルン・コールの正式な敵として認定された。おめでとう。ヒーロー以外では初めての事例だ」
このホワイト・ナイト。俺の血圧を異常上昇させて、血管破裂で殺そうとしているのだろうか。
「他にも電報をいくつか預かっている。雷獣太からは『怪人と戦える強い奴なら、手加減なしだ』で、マヨからは『おめでとうございます。お祝いの品を送付いたします』と」
「知るかァッ」
「そう言わないでくれ。もう一人、ドクトル・Gとは通話回線が開いている」
ホワイト・ナイトのバイザーが光った。レーザー光が仮面の亀裂を通じて俺の左目の網膜に照射される。
攻撃、と身構えたが、どうやら違った。左の視界のみ、そこにはいないはずの老人の姿が見えている。遠距離の網膜投影技術はまだ開発されていないはずだが、エヴォルン・コールの奴等は違うらしい。
『――ふん、旧人類の道化が、偶然であれA級怪人討伐に寄与したか。……不愉快極まる。怪人蜃は傑作とはいかずとも、ワシの優れた作品だった。ワシの不評を買い、エヴォルン・コールと敵対する道を選ぶお前は、相当の馬鹿となる』
ドクトル・Gという名前には聞き覚えがある。
義手らしき金色の手をカチカチ鳴らす老人がドクトル・Gという名前ならば、こいつが悪の秘密結社の首魁か。外見年齢は八十歳以上。頭の中央がハゲた爺さんなのだが、眼光が妙に鋭い。
『第二ヒーロー。お前はワシの敵だ』
言いたい事だけを言われて、網膜投影が途切れた。
重大な敵対宣告だったと思うのだが、俺はこれからホワイト・ナイトと戦わされるのだろうか。願ってもない。
「やる気になっているところ、申し訳ないけど。メッセージは伝え終えたから、私はこのまま帰るよ。祝辞を伝えるのが目的だったから」
「お前、正気かッ?!」
「おぃおぃ。エヴォルン・コール最強の私を挑発するなんて、正気を疑うのは君の方だと思うけど。残念ながら、私に倒れて動けない相手をいたぶる趣味はない」
メッセンジャーとして飛んできただけ。それが真実と証明するようにホワイト・ナイトは背中を向ける。最強戦力の件が真実ならば、最強戦力をパシリに使うエヴォルン・コールは何なのだと言いたい。
俺は全力でホワイト・ナイトを引き留める。
「逃げるな、卑怯者!」
「戦う力がない相手を襲う方が卑怯だね」
「ちょ、待てよ!」
「待たない。作った夕食が冷える」
「夕食ぐらい春都に奢らせるから、ちょっと待てって」
「……その春都って人の名前? ん、偽名だよね? うん、私は聞かなかった」
無念にも、ホワイト・ナイトは大都会方向へと飛行を開始する。
俺はどうする事もできず、憎い敵が去っていくのを眺めるしかなかったが……ワイヤー付きのガントレットがホワイト・ナイトの足を掴み取った。
ワイヤーを辿ると、いつの間にか、廃墟の屋上にヒーロー・スケーリーフットがいる。
「待てっ! 私と同じ姿をした、怪人」
「よくやった! さすがはヒーローっ!! 絶対にそいつを離すな!」
「第二ヒーロー、正気に戻……いや、無事だったか。それはそうと、この白い私は誰だ?」
スケーリーフットとホワイト・ナイト。似た者同士は互いの姿を確認し合った。
スケーリーフットは何も知らない様子なのだが、ホワイト・ナイトは違うらしい。
「スケーリーフットか。せっかくだ。少しだけ、挨拶しておこうか!」
進路を変更し、ホワイト・ナイトはスケーリーフットに向けて飛行する。
白い両腕を地面に向けて伸ばす。と、装甲形状が大きく変形していった。現れたのは……多銃身式の機関銃が二門。いわゆるガトリング銃だ。
銃身の高速回転が始まり、毎秒十発以上の銃弾の豪雨が廃墟を撃ち抜く。
「現代兵装!? どこから、そんな武器を入手して、取り込んだッ」
「そっちは対空兵装の一つや二つないのかい。つまらないな!」
銃弾の嵐により、ホワイト・ナイトの足を掴んでいたワイヤード・ガントレットのワイヤーが切れた。
スケーリーフット自身も銃弾にさらされていたが、原型を保っている。装甲で弾いたらしい。
「おい、スケーリーフット! 離すなと言っただろ?!」
「無茶を言わないでってッ! 銃弾を受けた経験がある?! 絶対、死んだと思ったからッ」
余裕を失うと女みたいな口調になるスケーリーフットの癖を無視して、俺はホワイト・ナイトのみに注目した。
地上掃射は一度っきりであり、旋回して戻ってくる様子はない。ホワイト・ナイトは大都会の光に紛れていき、姿を見失う。
「ホワイト・ナイトぉおおッ!!」
大都会へ向けて叫んでみたが、空しい遠吠えにしかならなかった。
これにて、テーマパーク編は完了です。




