VS.夢の国は霧となりて
「邪魔者は、消え失せろッ!!」
片手で真・蜻蛉切を振り回す第二ヒーローBOM。ブースト薬を使用しない純粋な怪力なのだが、こんなものは第二ヒーロー本来の力ではなかった。
物理法則を若干以上に無視した挙動で地面を跳ねると、空中で体を捻らせてほぼ全周囲を斬り裂く。それだけで多数の幻想の首が飛び、霧となって消えていく。
BOMの狙いは明白だ。進行方向には、怪人オオハマグリがいる。
「第二ヒーローの幻想が、第二ヒーローの体に憑依して動かしているというのかハマ?!」
「お前が二郎をいじめたのかァアッ!!」
「人間の想像が人間を乗っ取るなど、それはもはや幻想ではない。呪いに等しいハマ。個人がこれ程に強固な幻想を作り上げるというのも前例がない。私が使役できないとは、何をベースとした幻想なのだ」
「死ねェェェエ」
「……面白いハマ。こいッ」
怪人オオハマグリが行うBOMへの対処方法は、実にシンプルだ。
ナイトパレードを呼び寄せて真正面からぶつける。物量にて、狂えるBOMを圧し潰す。
「私の二郎に対する狂気を、見くびるなッ!!」
BOMもナイトパレードから逃げるつもりはなかった。怪人オオハマグリを斬るべく、愚直に直進を続ける。
真・蜻蛉切の石突を地面に刺して、棒高跳びのごとく先頭の八頭立ての馬車を素通りさせる。
次鋒の馬車より大きい海賊船は縦一文字に振った真・蜻蛉切で半分割にして突破。
後続のマンモスは邪魔な鼻を斬り飛ばしてから前足を一本落として転倒させる。
チェス駒の騎士団が大挙して乗車するタワー型の攻城兵器は、数秒の白兵戦で惨殺だ。
「二郎さんなのか分からないけどッ、上から巨人の掌底がくる。気をつけて」
「赤の他人の女が、二郎の身を案じるなッ!」
スケーリーフットの忠告通り、パレードごとBOMを潰すべく巨人の手が降ってきた。手のひらの形に地形が窪み、大地が大きく揺れ動いた。
「二郎さんッ!!」
「二郎、二郎と馴れ馴れしい女めッ。私はユヅルハだ!」
空中に跳んだBOMは無事だ。
何故か、BOMが肩に乗せている真・蜻蛉切の先端の丸いアックス・ブレードに血のように霧が付着している。数秒遅れで判明するが、巨人が大きくバランスを崩して転倒した。手首を両断していたらしい。
「これは強敵だハマ。だが、手数も兵数も私が上回る。距離を詰めるどころか後退しているようだが、そのままでは勝てないぞ、第二ヒーロー君!」
BOMの猛攻は止まらないが、倒した数以上の幻想が周囲から集まってくる。一度散らした幻想も、時間経過により復活しているためジリ貧なのは明らかだ。
地面に着地したBOMは、仮面の亀裂から覗かせる赤い目で怪人オオハマグリを睨んだ後、正反対の方向へと疾走する。
倒すべき怪人を放置して向かった先には、特筆するべきものは何もない。あるとすればテーマパークの果て、現実を遮蔽する城壁があるぐらいだ。
「どこに行こうというのだハマ。今更、逃げ出すのは興ざめだぞ」
「お前を斬るのに、この壁が邪魔だァッ!!」
横に構えた真・蜻蛉切を城壁の根本に叩きつけるBOM。
バターナイフをバターに刺し込むよりも簡単に城壁深くへと刃を入れ込むと……そのまま城壁に沿って走り始めた。
城壁の外装は中世風に変化していたものの、現実と接しているからだろう。斬った内部構造はコンクリートと鉄筋の塊だ。根本を斬れば、数十トンがスライドしながら崩れ落ちる。
「風通しが悪いんだよォオオ!」
「なっ、それは止せハマッ!!」
BOMが走り去った場所から、城壁が次々と倒れ込んでいった。ドミノ倒しを連想するが、真実はただの広域破壊だ。
「あははは、アハハハっ!」
「実体化した幻想が幻想を否定するなど、正気ハマ!? お前も消えてなくなるぞ」
「死なばもろとも。上等だ! 二郎のために私も消えてやる」
「お前がよくても私が困るハマ。夢の国は終わらせない。幻想よ、第二ヒーロー君を全力で阻止するのだ!」
怪人オオハマグリはBOMを止めるべく幻想を差し向ける。
BOMを背後から襲うべく、数多の幻想が急行していったが……攻撃を仕掛ける寸前、一斉に掻き消えた。
崩れた城壁の向こう側から吹き込む現実の風が、霧を払ったのだ。壁のない箇所の風景には、排気ガス臭い大都会の街並みが広がっていた。
「それ以上は不味いハマ! 本当に夢の国を保てなくなる。後方ではなく進行方向に戦力を集中し――」
「――私を、忘れるなッ!」
急変する事態に、ついに大きな隙を見せた怪人オオハマグリ。
怪人の殻へと、スケーリーフットのガントレットが炸裂する。
よろけた二枚貝へと更に鉄拳を叩き込むと、殻の欠片が散る。幻想の月の光を反射して煌めいた。
「スケーリーフット。邪魔をするなハマッ」
「ヒーローが怪人の邪魔をして、何が悪い」
「夢の国が消え去ろうとしているのだぞ。夢を失わせて、人々に辛い現実を押しつける。それでもヒーローかハマ」
「お前の言う夢の国とは、人々に夢を与える国の事か。それとも、人々を夢に沈める恐怖国家の事か」
「暴力を振りかざすだけの愚者が、正論のような事を言うなハマッ」
城壁崩壊が加速していく。背景の幻想的な風景が七、高層ビル群の割合が三といったところか。
まだ三割とも言えるが、怪人オオハマグリがいるフォレストエリアに限れば割合は一層高まる。壁が一定範囲崩壊した時点で、霧の発生条件は完全に損なわれてしまっていた。
現実世界と接した夢の国は、内部の幻想を保てない。スケーリーフットが怪人オオハマグリへとタイマンを仕掛けられたのも、護衛の幻想が苦しんで動けなくなっていたからだ。
「ガジェット・ハード・ボディーブロー!」
「ぐはっ、ハマッ」
怪人オオハマグリの戦闘力は120。A級怪人として遜色ない数値であっても、評価の多くは強力な怪人技。身体能力も低くはないのだが、怪人技なく、スケーリーフットのパワーに対抗できる肉体派の怪人ではなかった。
「ガジェット・ハード・アッパー!」
「ガハッ、はまっ」
両肩から生やしたショベルカーのアームによるラッシュが、怪人オオハマグリを襲う。
「A級怪人、終わりだ!!」
弱った怪人オオハマグリへのトドメの一撃は、殻の内側に鉄拳を突き入れた正拳突きだ――。




