VS.真・蜻蛉切
夜空を切り裂く刃。
怪人に支配された夢の国の悪夢を断ち切る剣。
その誇りある名前は、真・蜻蛉切。
テーマパークの大地へと突き刺さった悪を断つ武器は、怪人、ヒーローの区分けなく見る者を動揺させていく。
「第二ヒーローの奥の手だ。スケーリーフットに使わせてやろう」
「いやいやいやっ?!」
その威容は、四メートル強の長い刀身を有し、更に、先端部に丸い独特な斧刃を有するポールウェポンである。悪の秘密結社の拠点を攻める上で、第二ヒーローが用意できた最大の武器だ。
ただし、大き過ぎるために持ち運びは不可。園内への持ち込みも当然ながら不可能なため、駐車場に停車させた無人車両の荷台から打ち出すアクロバティックな輸送方法が採用されたのである。眼鏡先輩が一日で用意してくれました。
「遠慮するなって」
「ちょっと、二ろ……第二ヒーローさん。こんなもので私にどうしろと」
「いきなり女みたいな口調になって、気持ち悪いな」
実に頼りがいのある必殺武器なのだが、重心位置が悪過ぎて戦闘服を着ていても扱えない。この問題を解決するのが、戦闘服を瞬間強化するブースト薬の本来の利用法だ。
今の俺では振るうのも難しいが、圧倒的な戦闘力を有するスケーリーフットならば使用に制限はない。思いっきりぶん回すがよい。
「ごほん、第二ヒーロー。これは標識ではないか。これがお前の武器だと?」
「柄に取っ手を溶接して、振り回せるように工夫してあるだろ?」
「Wrarararaっ」
「怪人に笑われてしまっているではないか!」
文句の多いヒーローである。
確かに見た目は赤い道路標識であり、原材料も道路標識なのだが、切れ味には自信がある。これだけの業物が道端に突き刺さって放置されていたのだから、大都会とは不思議に満ちている。
「WraaaShu!」
「こうなったら仕方がない!」
「取っ手以外は掴むなよ」
爆笑する怪人が手を振り上げながら迫ってきたからだろう。スケーリーフットは渋々と真・蜻蛉切へと手を伸ばす。両手で持てるように二か所に溶接したグリップを握り込むと、地面から抜き取って怪人に対して構えた。
怪人ラフ・エイリアは特に気にせず距離を詰めてくる。スケーリーフットのガントレットよりも柔らかい道路標識で殴られたところで痛くも痒くもない、こう考えている。口元を半開きにした笑みを浮かべており、真・蜻蛉切を侮っているのは明らかだった。
「スケーリーフット。今だ、ぶん回せ!」
「はあァァぁぁァッ ――はァ?!」
水平へと振られた丸い標識部分が、怪人ラフ・エイリアの胴体へと接触した。
標識は“一時停止”と親切に警告イラストが描かれていたというのに無視するから……怪人は胴体を大きく裂かれていく。裂かれたと気付かずに次の一歩を踏み下ろしてしまうから、傷口が一気に開いて、大量に血を噴出させた。
「Wra? Wra……a??」
壊れた消火栓のごとく血を流す怪人ラフ・エイリア。何が起きたのか理解できないままに倒れていく。
生体爆発はまだしていないが、大量出血により生命活動を停止させるのは時間の問題だろう。
「ちょ、ちょっと二ろ……第二ヒーローさん!? 貴方がどうして、こんなふざけた見た目の凶器を持っているんですか!」
「いきなり馴れ馴れしい口調になって、気持ち悪いな」
怪人レッド・ドラゴンが遺した真・蜻蛉切の切れ味の素晴らしさが改めて証明された。スケーリーフットと拮抗する怪人を斬ったこの刃ならば、スケーリーフットと同じ姿をした奴だって斬れるだろう。
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“怪人技:真・蜻蛉切(道路標識)
何でも切断してしまう驚異の道路標識。柄の部分にグリップを溶接して持てるようにしている。元が道路標識なので重心が悪い。
怪人も斬れるが、きっと、ヒーローも斬れる”
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「単分子刃のガジェット・ソーと同じ、いや、それ以上に斬れる。一体どこからこれを」
「詮索している余裕はない、と思うが? そろそろ、怪人の親玉が動き出すぞ」
怪人ラフ・エイリアが倒れた事により、ついに残す敵は、大都会ディスイズニーランドを牛耳るA級怪人だけとなった。
巨大なウツボの姿をした怪人ミズチが、蛇の動きでゆっくりと近付いてきた後、鎌首をもたげる。
「第二ヒーローのサポートを受けたとはいえ、たったそれだけで怪人ラフ・エイリアを倒すか。ならば仕方あるまい、私が直々に相手をしようではないか。……怪人ホロカアムシペ、倒れたラフ・エイリアを運べ。戦いの邪魔だ」
「怪人ミズチ様……ご存分に」
小さなザリガニ型怪人が怪人ラフ・エイリアを引きずっていくが、無視するしかない。俺とスケーリーフットは睨まれてしまっている。怪人ミズチの大きさから考えるに、俺達は既に、奴の攻撃の射程内だ。
「まずは、小手調べからだ」
そう一方的に言い放つと、怪人ミズチはいきなり噛みついてきた。
俺は反応できなかったのだが、スケーリーフットは真・蜻蛉切を突き出して怪人の下顎に傷を負わせる。
怪人ミズチは傷を気にせず口先でスケーリーフットを跳ね飛ばし、それを受け止めようと構えた真・蜻蛉切が折れ曲がって――、
「――ってッ、おい、スケーリーフット! 借用品を破損させるとか、それでもヒーローかっ」
「この武器が斬れ過ぎて、攻撃を受け止められないのだ!」
柄の三分の一のところが四十五度ぐらいに曲がった真・蜻蛉切。更に使い辛い武器になってしまった。
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“怪人技:真・蜻蛉切・四五(道路標識)
何でも切断してしまう驚異の道路標識、の先が四十五度、折れ曲がっている”
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ただ、折れ曲がった際に、標識部分が怪人ミズチの口を縦に裂く事に成功している。
口の中が外から垣間見える。巨大だからと言い訳できない長さの裂傷から、怪人ミズチの血が噴き出した。
……いや、噴き出したのは液体ではなく気体。血ではなく、濃い霧だ。
傷口から霧が噴いて怪人ミズチの顔を覆い隠して数秒、霧の中から現れたのは、無傷の怪人の顔である。
「再生した?!」
「スケーリーフット、まずは小手調べと言ったぞ!」
太陽の沈んだテーマパークの中、無人のまま動くアトラクションが様々な色で発光している。
不気味に色付いた怪人ミズチは、体をくねらせて俺達へと体当たりを仕掛ける。




