VS.ソファー 2
フォークリフトが行き交いそうな倉庫に多数のソファーが並べられていた。これがすべて人間入りとは呆然というか壮観というか。
遠くでは木箱と緩衝材が用意されており、戦闘員がトラックを動かしている光景も確認できる。ソファーが出荷されるまでもう時間はあまりない。
「持ち物チェックをされなかったのは幸いだった。第二ヒーロー、密かに参上だ」
コンテナの死角に身を潜めながら、持ち運んでいた第二ヒーロー仮面を装備する。隠して着ていた戦闘服とUSBケーブルで接続すると、内部の網膜投影型スクリーンが起動した。
目線でカーソルを動かして、通話アプリを立ち上げる。
「――こちら第二ヒーロー。本部、応答せよ」
『――こちら本部。観光は楽しんだか?』
「観光どころではない。怪人が現れた。多くの人間がソファーに囚われて、出荷される寸前の危機に陥っている」
『……まったく意味が分からないが、だからこその怪人事件だな。通報はこちらで行っておく』
「助かる。俺は人質の救出に動く」
『了解した。慎重にな』
ソファーの数は目算で百以上ある。人質の数を考えれば当然だろう。
戦闘員の数も相応だ。人々を救出したいが、簡単には動けない。ソファーから一人一人救出するのも手間である。とりあえず、別の場所に出荷されないようにトラックのタイヤをパンクさせる破壊工作を優先しよう。
ソファーの合間を匍匐前進しながらトラックに近づいていく。
戦闘員の足音が近づくと身を縮めてやり過ごす。ゆえに、なかなか距離を稼げずもどかしい。
「イィー《ん、何かいなかったか》」
「イィー?《ソファーに入れ忘れた客がいたのか?》」
マズい。焦りから行動が不用心になってしまったのか。ソファーの手すりから頭を出して周囲を探っていたのを、戦闘員の一人に見られてしまった。
俺が隠れているソファーへと、二人の戦闘員が接近している。
後退している余裕はない。発見されるまでの時間を引き延ばす事と、発見されてからの行動を可能な限り考えておく以外に方法はなさそうだ。
見つかった瞬間に走り出してトラックに向かう。そのためにクラウチングスタートで待ち構えている。
ふと……遠くで炸裂音が響いた。
繊維のカスや骨組みの一部が周囲に広がる。
「あ、あれはっ。スケーリーフット!?」
斜め後方が炸裂音の発生源だ。
内側からの膨張で弾けたソファーの残骸が散らばって、その中央にいたのは黄色いパワードスーツだ。
貝の殻が閉じられるように装甲が重なっていく。
中の人の顔らしきものが瞬間的に見えたはずなのだが、ソファーの破片に遮られてよく見えなかった。ただ、マッチョの男にしては妙に小顔だったような気がする。
「何て事だ。スケーリーフットもここにいたのか」
いつもはどこかから跳んでくるヒーローが、今日に限っては違う現れ方をする。おそらく、変身前の彼が人質の中にいたのだ。変身によって体積が増して、ソファーが膨れ上がって破裂したのだろう。
こんなに近くにスケーリーフットがいた。
俺が探している謎の白いスケーリーフットの色違いが、至近距離にいたのに見過ごしていた。仕方がないとはいえ、悔しさからガリっと奥歯を噛み締めてしまう。
「……悪の秘密結社に対する敵対行動。レッド・ドラゴンの証言。すべてを総合すれば黄色いスケーリーフットとは別に白いスケーリーフットがいると思われる。が、黄色い方が無関係とは思わない」
話を聞くべき相手ではあるものの、スケーリーフットは強い。今はまだ近づく相手ではないだろう。もっと戦闘力を上げてからではないと拘束されて、第二ヒーローを続けられなくなってしまうからだ。
「それでも、いずれは――」
言葉をあえて濁しておく。白いスケーリーフットはともかく、黄色いスケーリーフットへの対応は保留中である。
今に限れば、スケーリーフットの登場はありがたい。
戦闘員が何人いようとスケーリーフットの敵ではない。事実、集まってきた戦闘員の打撃をすべて装甲で受け止めているためノーダメージだ。スケーリーフットが一方的に、拳や蹴りで戦闘員を壁や天井に飛ばして埋め込んでしまっている。
「エヴォルン・コールの雑兵ごときに。いつも弱い人間ばかりを襲って、お前達はァ!」
『――その弱い者いじめに勤しんでいるのは、ヒーローの方では? スケーリーフット、お前の相手はこの私ミノ』
「怪人の声!?」
順調に戦闘員を再起不能にしていたスケーリーフットであったが、長くは続かない。
構内アナウンスの後、建物の外壁を突き破って出現した巨大な手に体を掴まれたからである。そのままスケーリーフットは外へと排出されてしまった。
巨人のごとき手であったが、その外見はスケーリーフットと同じく生物的ではなく機械的。
というか、大型ロボットの手そのものだったような。
『ヒーローがいつ現れても対応できるように、私は常にこの等身大ガルドムの中で待機していたミノ。一年ほど待機は続いたものの、自宅警備のプロたる私にとって、たった一年の引き籠りなど引き籠りの範疇に入らない。キャリアが違う!』
今度は慎重に体を隠しながら動いて、壁の穴から外の様子を伺う。
……複合施設の正面に立っていたはずの巨大ガルドムが、駆動して歩いている。振り上げた足底でスケーリーフットを踏みつけて攻撃している。最近のロボット技術はすごいなァー。
「怪人っ。まさか、ガルドムの中に入って操っているのか!」
『私の素の戦闘力は並みのC級怪人にも劣るものでしかない。ただし、この機動闘士ガルドムに搭乗すれば、A級怪人に勝るとも劣らないパワーを発揮するミノ』
「皆が愛するガルドムを、よくもッ」
『C級怪人をいじめるように、私を倒せると思わないミノ。怪人ミノム氏、ガルドム出る!』
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▼怪人ミノム氏
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“戦闘力:8 + 70”
“怪人技:蓑装備
身を守るために装備した蓑を完全支配し、自由に操る事ができる。
なお、雨を遮り体を覆う感じのものなら実寸大ガルドムでも蓑扱い。本人はMSと呼んでいる”
“ベテランの自宅警備員がミノムシと融合して誕生した怪人。
身体能力は低く本人も極度のインドア派であるため戦闘力は期待されていなかった。しかし、十メートルを超えるロボットを着込む事により、力と防御が飛躍的に上昇する”
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