VS.百井
俺と同じアングルで巨大ロボットの撮影を敢行しようとしていた五十鈴響子。何となくだが、同じ趣味を持つ者特有の体臭のようなものを嗅ぎ取れる。ガルドムに登場する兵器の名前と型式が一致する系の人種だろうか。
微妙な期待感を持ちながら話しかける。
「あの、五十鈴さんは、その。どういった目的でここに?」
「私は、その。新装備の着想を。怪人にもう逃げられないようにって……あ、いやっ。何でもないです」
しっかりとした彼女にしては曖昧な返事である。大丈夫、型式を間違っても初心者とか言って笑わないよ、俺。
「キョーコの知り合い、その人?」
「そう、同じ大学で工学部の。モモも前に合コンで会った事がある」
「工学部? だから、こんなロボを見にきているんだ。オタク趣味は否定しないけどねー。ぷっ、PX-78とかBRX-7とか、架空の兵器にそれっぽい型式付けていると楽しい? ぷっ」
「アぁ?」
「アぁ?」
五十鈴の隣にいる女。モモ何某さんからは決して相容れない臭いがして、つい犬歯剥き出しで威嚇してしまう。
俺と同じ表情を五十鈴も作っていた気がするが、そっちは友達だろうに。俺のように友達は大事にしないと。悪の秘密組織に個人情報を売るような外道な真似をしては決して駄目だぞ。
――大学、研究室――
「――うわ、背筋に寒気が」
「春都君。大丈夫かい? 少しは休まないと駄目だよ」
百井は慣れているのか自分勝手な性格なのか、五十鈴のキツい目付きを見なかった事にしている。
フレンドリーな距離の詰め方を模範演技しつつ、百井は五十鈴の手首を握ってロボットを素通り。奥にあるショッピングモール、遊技場、プラモショップが立ち並ぶ複合施設へと向かった。
「もう限界。冷房がないと死ぬ。飲み物がないと干からびる」
「ちょ、っと、モモ!」
「タピオカは……オタマジャクシ怪人を思い出すからNG。レモンティー買いに行こっ」
置いて行かれるというニュアンスは変か。連れではない二人組の女子大生が勝手に現れて、勝手に去っていった。
この場所の調査結果を報告しよう。
綿密かつ高精度な査察――ガルドムと一緒に写真に写り、ガルドム焼きを食べて、ガルドムプラモを購入した――により、この施設は白と判定された。エヴォルン・コールの気配なし。悪の秘密結社との関係性は皆無。怪人や戦闘員の気配は微塵もない。
「次にガルドムが変形するのは何時ですか?」
「イィー!」
「II? ああ、十一時ですか。ありがとうございます」
悪の秘密結社もロボットアニメの金字塔をターゲットにするような凶悪な真似はしなかったようだ。世界大戦で神社仏閣がある都市は空襲を受けなかったという都市伝説と同じぐらいの説得性がある。
怪人が現れる大都会と言えど、休日ともなれば人通りは多い。ピークの昼にはかなりの人数となりそうだ。
「イィー」
「ニンベン? 人人? ああ、人々ですか。確かに多いですね。警備がんばってください」
巨大ガルドムの周囲を警備、誘導しているスタッフの皆さんは大変である。昨今の七月と言えば猛暑日ばかりだ。
こんな日なら耐熱効果もある戦闘服を着ている方が過ごし易い。いちおう、用心のためにインナー代わりに着用しているが。流石に今日は使わなくても済みそうである。
野外で数時間を過ごして体力を消耗した俺は、涼しい屋内へと向かう。五十鈴、百井ペアが入った建物でもあるが、この人の多さだ。傍を通り過ぎたとしても気付かない可能性が高い。再度の遭遇はありえない。
……と思っていたのに、入口真正面のカフェにいやがった。
買い物袋が見えるので二人でショッピングした後の一服か。充実したショッピングモールを友達と巡れば楽しいものだろう。
「キョーコも服ぐらい買ったら?」
「いや、私は服じゃなくて外骨格に取り込む新兵装のアイディアが欲しくて……」
「プラモなんて飾っていても埃塗れになるだけじゃない。服の方が何倍も得よ。あ、それとも水着にしようか。午後はそっちの店に行こうよ」
「水着はちょっと。私は海底を歩けても泳げないし」
「いいじゃん。プールか海に決定ね」
距離があっても聞こえるぐらいに百井の声は響く。
主導権は百井にあるようで、五十鈴は引っ張られている感じである。五十鈴も行動力はある女だというのに友達と一緒の時は消極的だ。
さて、と少し考えるために立ち止まる。
混み始めたモール内において、座れる場所と飲み物が揃っているカフェを無視するのはいかがなものか。知人がいるからといって遠慮する事はない。
……考えるまでもなかった。堂々と店のカウンターへと前進。アイスコーヒーを注文する。
椅子に座ってくつろいでいると、五十鈴がチラリと俺を伺う気配がした。向こうも俺に気付いたらしい。まあ、話しかけてくる気配まではしないので無視である。
「工学部の君、まだいたんだ。それとも私達をつけている?」
五十鈴は話しかけてこなかったというのに、百井が俺へと話しかけてきやがった。怪人未満のエンカウント回数しかない女が、俺にどんな用事がある。
「ちょっとキョーコが可愛いからって、粉をかけようっていう魂胆でしょ」
何を言っているのでしょうね、この女。男子大学生が金と女と単位しか考えていない亡者と勘違いしてなかろうか。夕飯やアルバイトや怪人討伐も考えているぞ。
百井は俺の対面席へと勝手に座る。と、俺を言いがかりで糾弾し始める。
「身の程知らずっていうのは君みたいな人の事を言うのよね」
「いきなり失礼な。自分のどこが身の程知らずだと」
「スマートフォンの電源を落としてみなさいって」
言われるがままに、スマートフォンの電源を落とす。
「で、黒い画面に映っている顔をよく見て。どこにでもいそうな人間の顔がそこにあると思わない?」
くっ、反論できない事を言う。スマートフォンの電源がついていたならば、幼馴染に同意と同情を行われていた可能性が高い。
いや、人間容姿がすべてではない。ポテトチップスで考えた場合、空気でパンパンに膨れた外装よりも実容量が大事となるのだ。
だが、同じ事を考えていた百井が質問をしてくる。
「老人の顔した若い女性と、若い顔をした老人。付き合うなら君はどっち?」
「もちろん、若い顔をした老人しかあるまい」
「その穢れた回答を即答できる人間の中身が何だって?」
異議あり。巧妙な誘導尋問だ。男子大学生に同じ質問をして統計を取り、俺の回答が少数派ではないと証明すべき悪意ある問いかけだ。
いや、統計を取るまでもない。
そもそも、俺には邪な感情は一切ない。俺と五十鈴の接触の多くは偶然であり、俺に思惑があった事はない。
「さあ、今自首すれば退学は避けられるわ」
「それでも俺はやっていない!」
こう主張してみたが、百井の奴は聞く耳を持たずに俺へと突っかかる事を止めてくれない。どうしても、俺が五十鈴に気があるという嘘を真実にしたいようだ。彼女も普通以上の美貌があるのを棚に上げて、友人ばかり持ち上げるこの女は何様なのだろうか。ある意味、良い女なのか。
友人と知人のいざこざが加熱し始めたと見て、五十鈴が間に割って入ってくる。ありがたい。惚れてしまいそうだ。
「やっぱりキョーコに手を出すつもりよ、この男!」
「モモ。二郎さんは違うから。女性が近づくと殺人予告してくる幼馴染がいる人だし」
『幼馴染:よく分かっているじゃない。つまり、お前は今、キルゾーンに入ったぞ』
「それって俺をキルするゾーンだよねっ」
「二郎さんって、名前呼び!? どこまで進展しているの!」
「いや、だからモモ。名前しか知らなくて、仕方がないだけだって」
せめて終着点を決めてから糾弾をして欲しかった。暴走特急のごとく止まる駅を決めていないから話が終わらない。
五十鈴の仲裁で止まらないとなれば、関係ない第三者の介入でしか話が終わらな――、
「――イィーっ!」
――正面入り口から現れた戦闘員の大群なら、話を中断させるのに十分だ。




