VS.怪人未発生区
眼鏡先輩の研究室に備わっていた握力測定器を握り込む。ふむ、百二十キロオーバーか。
続けて工学部のもやし系男子には縁遠いトレーニングベンチに座って、ベンチプレス用の百キロバーベルを持ち上げる。重いには重いが、普通に持ち上がる。
「パワーアシストが向上しましたね」
「これが戦闘服本来の機能さ。個人調整していなかった今までが機能不全状態だっただけさ」
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▼第二ヒーロー(戦闘型)
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“戦闘力:2.7”
“怪人技:
模倣するは猫(劣化コピー)
疑死回生(遺言メモ)”
“状況次第では怪人を倒してしまう……程の戦闘力はないはずなのに怪人を倒してしまう異常な一般人”
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「時間をかければもう少しだけ戦闘力を上げられると思う」
「怪人を倒せるぐらいになります?」
「服のスペックを考えれば難しいだろうね。もっと性能の良い戦闘服があるようだけど、それでも抵抗するのが精々さ」
眼鏡先輩が第二ヒーローチームに加入してくれた恩恵はすぐに発揮された。戦闘服の性能は格段に上昇している。戦闘員とならば正々堂々の戦闘でも良い試合になるぐらいにパフォーマンスが上がっている。
正直に言うと不安が強かったのだが。眼鏡先輩にサウナへ誘われて、俺の汗を一リットル欲しいと言われた時には鳥肌が立ったものだ。戦闘服の強化のために必要な素材集めだったらしい。
俺の汗に戦闘服を浸すだけで強化されるかは疑わしかったものの、調整後はバーベルの軽い事。
とはいえ、眼鏡先輩はまだ満足していない様子だ。
「このまま二郎君を怪人と戦わせるのは酷だ。確約はできないけれど、君を怪人と戦えるようにしてみせる」
研究次第との事であるが、戦闘服の強化プランがいくつかあるらしい。俺としても期待したい。
「それじゃあ、またサウナに行って――」
「おーい、春都。そっちはどんな様子だー?」
干からびたミイラになる前に、眼鏡先輩から距離を取った。調査を頼んでいた春都の方へと歩み寄る。
春都には過去の怪人事件の発生ポイントをデータ入力してもらい、法則性について探ってもらっていた。
「春都、何か分かったか?」
「大都会に集中している、という事以上に分かる事はないな。AIに学習させても良い結果は導けない」
「怪人事件以外に起きた事件との相関は?」
「時期的な近さで言うと、これか。鬼界カルデラの異常膨張と富士山の小噴火。阿蘇山活発化もあったか」
「いや、そういう大き過ぎる事件は置いておいて。都心に範囲を絞ってくれ」
悪の秘密結社が現れる前後で、発生件数が急上昇している種類の事件がないかを探ってみた。が、怪人が妙な事件を起こし過ぎているためグラフが大変化を起こしていて何も分からない。
怪人の行動を予測する試みは難しそうだ。
「二郎。次の怪人がどこに現れるか予測できたとして、何をするんだよ」
「怪人を捕縛する手段に失敗したから、次は怪人に発信機を仕掛ける。奴等の基地を探し当てるつもりだ。春都の知り合いに発信機を仕掛けられそうな怪人っていないか?」
「……いる訳がないだろ」
発信機など姑息な作戦であるが、第二ヒーローらしい姑息さだ。怪人か戦闘員に粘着させるとすれば携帯そのものかアバランチビーコンが有力か。継続時間や感知距離も考慮しなければなるまい。
作戦を考えている俺と春都に、ふと、声をかけてくる眼鏡先輩。
「事件が起きた場所で絞り込むのではなく、まだ事件が起きていない場所を探してみるのはどうだい?」
柔軟な発想だった。俺の頭が固いだけかもしれない。
とはいえ、大都会は広い。交通網が発達しているお陰で狭く感じるし、俺の田舎があった県よりも時間的面積的に狭いのは確かなのだが、月一で怪人が暴れた程度で埋め尽くせるものではない。
「区で分類してみたら分からないぞ、二郎」
春都は更に発想をブラッシュアップする。
大都会の二十三ある区。怪人が現れ始めたのは二年以上前。二年以上の期間があれば、ほとんどの区に色がついていく。
「ここも大都会の一部だったのか。こんな山奥まで。怪人は何をしたんだ?」
「鮎型怪人が釣り人に高額な場所代を請求する事件を起こしていた」
色がつかない区はたったの一つ。古くから埋め立てが行われていた工東区だ。
「……偶然か?」
「偶然かもしれない。春都、怪人が狙いそうな施設はあるのか?」
「ここか。有名な名所というか、新名所がある。複合施設の前に頭頂高18.6メートルの1分の1のガルドムが立っている」
「まだあるのか! い、行きたい……」
『幼馴染:昔から好きよね、機動闘士ガルドム』
目立つランドマークでありながら、今まで無事で立っていられたのは怪しいと言えば怪しい。これはぜひ観光……ごほん、調査に向かわねばなるまい。
「他に手掛かりもない。俺は行って調査してくる!」
「はい、行ってらー」
春都はガルドムに興味のない男の子らしく、椅子に座ったまま手を振っているだけだった。
――工東区、実寸大ガルドムの手前――
スマートフォンのみならず、高画質で撮影可能なカメラも持参してやってきましたよっと。
ぜひ真正面から、いや、斜め四十五度から見上げるアングルでの撮影を……っと、隣の人が邪魔だな。肩が当たってしまった。
「すみません……あっ」
「すみません……えっ」
あの、どうして貴女がここにいるのですか、五十鈴響子さん。もしかして俺をストーキングしているのか。もの好きな。
まあ、五十鈴の後ろに友人らしき女がいる。一緒に遊びにきただけなのだろう。
「キョーコ、どうしたの?」
五十鈴の友達の名前は確か、百井なんとかさん。
「日差しが強いから建物に入ろうよー。こんな古いアニメの変なロボットなんてどうでもいいから」
「アっ?」
「アっ?」
だから、どうして五十鈴嬢は俺と行動を被らせるんだよ、毎回。
ストックが尽きたため、今後は土日投稿がメインとなります。




