VS.撤退戦
怪人レッド・ドラゴンを拘束するために使用していたヘッドマウントディスプレイやロープを回収する。第二ヒーローを特定する可能性のある物品を現場に残せない。
条件次第で怪人を捕縛できる程度でしかない第二ヒーローは、過剰なまでに神経質でなければならない。俺は弱いのだ。
「怪人を捕縛するところまではうまくいったのにな……」
相手がトンボ型の怪人だったのが幸運だった。
空中ではいざ知らず、地上で戦うなら戦闘力はかなり下がる。しかもレッド・ドラゴンには地上を狙う飛び道具がない。トンボの防御が低いのも助かった。第二ヒーローとしては、重量のあった怪人ホールベアーの方が相性の悪い相手だったと言える。
怪人を捕縛するという幸運はこれが最後になるだろう。今回はうまく行き過ぎた。
「仮に捕縛できたとしても、また生体爆発されるから情報を聞き出せない。エヴォルン・コールを調査するには別の手段を考えないと」
結局、捕縛に失敗したのは残念で仕方がないものの、それでもレッド・ドラゴンからは多くの情報を聞き出せた。謎多きエヴォルン・コールについて僅かにではあるが秘密を知れた。素直に喜ぼう。
研究室に帰って、得られた情報を早く調べたい。
『――第二ヒーロー。早くそこから離れろッ。周辺に戦闘員が多数集まってきて――うわっ』
春都からの突如の通信が入り、やはり突然途絶える。
「おい、どうした。何があった?」
俺からの通話に出てくれない。怪人に見つからないように隠れていたはずなのに、春都の身に危機が迫ったらしい。クソ、惜しい友人を失った。
「今すぐ向か――おいおい……」
上空を見上げた俺の視界内にも異変が大挙して現れる。
グライダーに乗ったエヴォルン・コールの戦闘員が二十人ほどワラワラと、空から現れたのである。あいつ等、公共交通機関使えないからって妙な移動手段を使いやがって。
反対方向の道路にも戦闘員が多数登場して壁を作った。周囲を完全に塞がれてしまい、脱出路がない。
「イィーッ」
「イィーッ」
「イィーッ」
奇声を上げ、手を振り上げて俺を威嚇してくる戦闘員共。怪人の生体爆発によって、エヴォルン・コールへと位置が伝わり、戦闘員が派遣されてきたのか。
怪人を倒した後に危機に陥るとは、第二ヒーローは多難だ。
「イィーッ」
「イィーッ」
「イィーッ」
数を頼りに殺到されると対処できない。怪人一体と多数の戦闘員、単純比較はできないが第二ヒーローでは勝つのが難しい相手であるのは変わらない。
戦闘員共が、ジリジリと距離を詰めてくる。
「イィーッ」
「イィーッ」
「イィーッ」
「……って、お前等遅いぞ」
だが……どうしてだろう。なかなか襲ってこない。
答えの想像は簡単だ。俺が戦闘員を恐れるように、戦闘員も俺を恐れている。怪人とタイマンで戦う第二ヒーローを過大評価してくれているのだろう。
「第二ヒーローだぞー。戦闘服を脱がす怖いヒーローだぞー」
「イィぃぃっ」
「良いとおっしゃる?」
「イィぃぃっ?!」
戦闘員の壁が一歩後退する。俺が威嚇するともう一歩。
しばらくは時間を稼げそうであるが、さて、この窮地をどう乗り切るか。正直に言うと手段は用意していないので、酷く弱っていた。
そんな俺を助けに現れたのは……道路の向こう側から走ってきた車だ。クラクションを鳴らしつつ、考慮せずに戦闘員共に突っ込んでくる。戦闘員は左右に跳び退いて命からがらだ。
「――乗るんだ。早くッ!」
俺の傍で急停止した車。助手席の扉が開かれて、運転席から呼びかけられる。
誰が運転しているのかは分からない。
何せ、運転手は第二ヒーローと同じ仮面で顔を隠しているからだ。ただ、俺と違い、運転手は仮面の上に眼鏡を装着していた。かなり見え辛いだろうに。
後部座席を見ると、あの世に旅立ったはずの春都がいたので迷わず乗り込む。
俺が乗ってドアを閉めるのとほぼ同時に、車は加速し始める。進行方向を塞ぐ戦闘員の壁へと突撃して無理やり突破した。
「イィィッ!」
「おいっ、根性ある戦闘員がフロントガラスに跳び乗っているぞ!」
「ワイパーでは振り払えない。第二ヒーロー、頼む!」
謎の眼鏡仮面の運転手はワイパーや洗剤を発射して戦闘員を落とそうと苦心しているものの、戦闘員は落ちてくれない。多少は怯んでいるが、拳をガラスへと叩きつけて反撃している。
殴られたフロントガラスにヒビが走る。戦闘員は手を痛そうにしていた。
「相手が一人なら、“模倣するは猫”!」
洗脳動画をプロジェクションして戦闘員を硬直させる。
カーブに差し掛かると、遠心力に負けて戦闘員は落ちて行った。どうにか危機を脱したか。
「まだ安心できない。この車はすぐに自動運転にしてデコイにする。車を乗り替える準備をしておいてくれ」
近場のコインパーキングに停車した後、俺達三人は全員で車を下りた。駐車エリアには異なる車種の車が用意されていたので、全員で乗り込む。
俺達の出発を待っていた最初の車は、無人のまま発進して走り去っていく。
「ひとまず落ち着いたかな。……ふう。後輩達が怪しい事をしているのには気付いていたけど、まさか第二ヒーローをしていたなんて」
そう言いながら、眼鏡仮面は仮面を脱ぐ。
その顔に意外性は特になく、眼鏡先輩だ。




