VS.怪人レッド・ドラゴン 2
大学のキャンパスから程良く離れた海沿いの某所。
潮風が生暖かいを通り越し、温風となって地肌を汗で湿らせる。不快指数は高い。そろそろ海開きの季節がやってくる。
自動販売機さえ見当たらない大都会の僻地のため、人通りはないに等しい。怪人をおびき寄せる場所としては最適だった。
「怪人は見失ったが、この付近に高い建物はない。怪人の方から発見してもらって、罠に引っかかるのを期待しよう。春都。ドローンを発進だ」
「了解!」
ドローンの操作を春都に任せて、俺は怪人来襲に備えて待機する。
正月に飛ばす凧のごとく、ひらひら揺れる足を付け足しているのでドローンは目立つ。きっと怪人ならば目聡く発見してくれる。
「ドローンはいねぇーかーぁードラ!」
期待通りに、スカイバンブーのある方角から郵便番号を思わせる赤いTの字が急速接近してきた。間違いなく怪人だ。
第二ヒーローの仮面に追加装備した骨伝導ヘッドホンより、春都からの通信が入る。
『ドローンが攻撃を受けているぞ』
「俺がいる方向へと誘導しろ。後はどうにかする」
『任せたぞ。第二ヒーロー』
高度を下げながら怪人の攻撃を避けていたドローンであったが、怪人の猛攻は捌き切れるものではない。数度の接触の後、ローターの一つが弾け飛んでいく。
速度の落ちたドローン本体へと、怪人は強靭な顎で噛みついた。行儀悪くウエハースを食べているかのように、割れたプラスティックと電源ケーブルが撒き散る。
最後に、モーターの悲鳴が鳴り響いた。
「ギャアアアアッ、デ、デスソースゥゥゥウウッ!!」
ちなみに、この悲鳴は怪人のものである。
赤い色の怪人なので分かり難いのだが、口から赤い液体を吐き出しているような。ばっちいので落下地点を避けて道路に仁王立ちだ。
「現れたな、怪人」
「ドローンにデスソースを仕込んだ大馬鹿はキサマかドラァッ」
「ドローンに噛みつく悪行を少しは顧みろ、怪人」
文句を言うためにワザワザ高所の優位を捨て、降下してきた怪人と対峙する。
当方に迎撃の用意ありだ。
この仮面は、新たに3Dプリンタで鋳造したバージョン2である。既に使用している骨伝導ヘッドホン、咽喉マイクを追加しただけではない。スマートフォンを分解して頭脳として内蔵して、網膜投影式のスマートグラスとして活用できるようにしてある。
使用電力の増加への対処はモバイルバッテリー案が最有力であったのだが、戦闘服にUSBケーブルを接続して解決できている。着ている間だけ発電しているので汗と反応しているのか生体電流を使用しているのかのどちらかと思われるが、原理は不明。
他にも隠し玉はあるが……まあ、補助機能のオンパレードだ。補助だって馬鹿にできないものの、攻撃力強化は間に合っていない。
「第二ヒーロー戦闘型。怪人との戦闘を開始する」
「だ、第二ヒーロー!? ……また頭を変えているぞ。おしゃれさんドラ」
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▼第二ヒーロー(戦闘型)
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“戦闘力:1.6”
“怪人技:
模倣するは猫(劣化コピー)
疑死回生(遺言メモ)”
“大学一年生の手で作成した仮面を装備した戦闘型第二ヒーロー。微妙な戦闘力強化は見受けられるものの、攻撃手段は皆無”
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攻撃力がなくても戦うべき時には戦うのだ。
地上五十センチぐらいでホバリングしている怪人と真正面から相対した。
人間よりもトンボの成分が濃い怪人で、長い尾と小さな腕が追加されている。頭部も複眼だ。地上を歩くには不向きな改造が為されているものの、最も特徴的な翅により空中機動は高い。
薄く透き通った翅は二対。全長は人が腕を伸ばした長さに勝る。
つまり、その姿はTの字。
「スケーリーフットに続いて第二ヒーローまでオレ様に挑んでくるとは、鼻が高いドラね」
「えっ、スケーリーフットの奴、もう現れたの? ひぃっ」
「……どうして第二ヒーローがヒーローを恐れるドラ??」
「だって、あいつ怖いし。馬鹿力で」
「まあ、確かにドラ。中の人、筋肉ムキムキのマッチョに違いないドラ」
怪人との会話はすべて仮面に装備された小型カメラで録画している。ポロっと何か重大な情報を漏らすかもしれない、という淡い期待があるからだ。
「怪人レッド・ドラゴン。お前の目的は何だ?」
「大都会の空を支配するためドラ。お前達、旧人類が汚しきった空を、オレ様の翅で浄化する」
「怪人ごとに主張が違うのはどうしてだ?」
「各怪人は強化された己のスペックを戦闘証明するために、自由な活動が許されている。経費を申請するなら領収書には秘密結社かエヴォルン・コールと書いておくドラ」
なるほど。だから、怪人ごとに行動がまったく異なり連携が取れていないのか。
「お前はどうして戦闘員を連れていない?」
「戦闘員が空を飛べないから仕方ないドラ。グライダーで追ってきていた腹心達も、いつの間にか迷子になってしまったドラよ。少し寂しいドラね」
ふむ。目障りな戦闘員がいないとは、好都合この上ない。
「……って、さっきから質問ばかりして戦わないのか、第二ヒーローっ!」
レッド・ドラゴンの奴め、気付いたか。もう少し話をしてくれればよいものを。
翅の回転数を上げて戦闘姿勢に移る怪人。
対する俺は、その場から一歩も動かず迎撃の構えだ。腕を地面と水平に伸ばし、人差し指も伸ばした。
「隙だらけな構えドラ」
「ほーら、ぐーるぐる」
「ふはは、ドラゴンたるオレ様にトンボを捕まえるような幻惑は――」
「そーら、ぐーるぐる」
ゆっくりと指先を時計回りに回す。すると、レッド・ドラゴンは複眼で俺の指の動きを追い始めた。指の動きを早めていくと怪人も連動し、首を動かして頭を回す。
三十秒続けたところで怪人はホバリングを止めて墜落する。目を回したらしい。
「――うっぷっ。酔ったドラぁぁ」
想定していた以上に効果的に、レッド・ドラゴンの動きを止められた。
落ちた怪人へと駆け寄って翅を踏みつける。人間サイズのトンボの翅なので、足で踏んだぐらいでは拘束できないが、そんな事は想定済み。あらかじめ、コンビニで買っておいた瞬間接着剤を活用する時だ。
チューブを贅沢に握り潰してダバダバと粘着液を翅の上に落とす。翅と翅でサンドしてやれば、瞬間接着成功だ。
現代技術でも実現不可能と言われ、しかしながら、大古の時点で既に完成していたトンボの飛行能力は驚異的だ。だからこそ、奪ってしまえば戦闘力を大きく削減できる。
「第二ヒーロー、キサマッ」
「酔いから覚めたか。しかし、もう遅い。無理に翅を動かせば根本からもげるぞ。トンボの関節は弱いというのはお前が一番知っているだろう」
「キサマは子供の頃にナメクジに塩をかけていた人種で間違いないドラ! 塩だけでは飽き足らず砂糖もかけていたに違いないドラ! 怪人を生み出したドクトル・Gにも劣らぬ狂気さよ。ナメクジは住血線虫がいるかもしれないから絶対に手を洗えっ」
戦闘型となった第二ヒーローはやはり強い。装備強化により怪人と対等に渡り合えている。
『そうかー? 作った装備は役立っていない気がするぞ、二郎?』
いや、こうして無線通信できているだけでもかなりの進歩だから。
とはいえ、敵は怪人だ。怪人には怪人技という常識外れな力が備わっている。飛行能力を半減させただけで優勢などと考えてはならない。
怪人レッド・ドラゴンは立ち上がった。傍にあった通路標識のポールへと手を伸ばして、握りしめる。
標識のマークは一時停止だ。
「第二ヒーローごときに使うつもりではなかったドラが……、手加減は無用らしい。キサマをっ、オレ様の恐るべき怪人技“蜻蛉切”の錆びにしてくれよう!」
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▼怪人レッド・ドラゴン
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“戦闘力:45”
“怪人技:蜻蛉切
怪人が掴んだ無生物はすべて驚異的な切断力を持つ刃物と化す”
“赤トンボと人間を合成して生み出した怪人。
本人はドラゴンの怪人だと勘違いしているが、おそらく改造による後遺症。
空における戦闘能力は数値以上のものであり、格上の相手であっても空中戦であれば善戦できる”
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レッド・ドラゴンが力任せに引き抜いた赤い標識が、鋭利に光を反射する。
ポール部分に鋭角が生じ、刃へと変わり果てていく。丸い標識部分は回転ノコギリのごとく縁が細かく尖っていった。
出来上がった強大な凶器を、怪人は上段に構える。
「ふははっ、縦にぶった切るドラァっ――」
ポールウェポンと化した標識を、怪人は両手持ちで振った。凶器が振り下ろされる先には、俺が立っている。




