VS.友人となった訳
「――まだ検証不足だが、現在までの調査結果を述べよう。怪人の書いたメモを所持した状態でピザを食すると、怪人技が発動する」
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▼第二ヒーロー
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“戦闘力:1.5”
“怪人技:
模倣するは猫(劣化コピー)
疑死回生(遺言メモ) (New!)”
“ヒーローと騙っているだけの一般市民のはずが、最近は悪の秘密結社やヒーローに狙われている可哀想な人”
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“怪人技:疑死回生(遺言メモ)
怪人シッターの遺言に従っている間、シッターの怪人技を使用可能となる”
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何だそれは、と呆れ返ってしまいたい。が、俺も検証を手伝っているので否定できない。
死んだふりを行う怪人技が、一般人である俺が使えるなど馬鹿げている。が、そもそも怪人技自体が馬鹿げているので否定しても無駄である。
それにしても、あの怪人。そんなにピザを食べたかったのか。悪い事してしまった。
「ピザを食べている間限定とはいえ、怪人技を使えるのは快挙だ。第二ヒーローが名前だけではなくなってきたな」
「だったら春都がピザ食べろよ。検証のために食べ過ぎて、今週カロリー超過なんだよ」
「うわ、俺に怪人の怨念が帯びたメモを近付けるなって」
春都がメモを受け取らないので、俺が所持しておくしかない。
高いレベルの死んだふりを実現可能な怪人技だ。使いどころは難しいが、余らせておくには惜しい。第二ヒーローの新装備に組み込めないだろうか。
電子回路をハンダ付けしている春都は無視を決め込み、メモに触れようとしない。仕方がないので俺が着手しよう。
――悪の秘密結社“エヴォルン・コール”の本部――
金の義手の指をカチ合わせる音が、一定間隔で続いている。
ドクトル・Gの癖である。機嫌の良い時と、機嫌が物凄く悪い時に発する信号みたいなものなので、改造されたくなければ決して近づくべきではない。
「ホールベアーに続き、シッターまでもが第二ヒーローに敗れたと?」
「第二ヒーローが実際に接触、戦闘を行ったかは確認できていませんが、可能性は高いと思われます」
「第二ヒーローの捜索を開始した怪人が次々と。ふっ、笑える話だ。ワシの作り上げた怪人は駄作ばかりだったらしい」
「少なくともC級怪人以上の戦闘力を有していると考えるべきでしょう」
ご機嫌なドクトル・Gと会話可能な人物は、多種多様な怪人を揃えるエヴォルン・コールと言えど片手の指で数えられる程にしかいない。
そして、ドクトル・Gと対等に会話可能な人物となると、ホワイト・ナイトだけとなる。
「旧人類最後のヒーローが遂に登場したとは、やはり思えんな。あまりにも脆弱が過ぎる。タイプOAが選定した旧人類ヒーローと比較すれば分かる事だ」
「戦闘力のみが力ではないというのはドクトル・G。貴方が証明している事です」
「奴等の趣向などに興味はない。ワシは惑わされん。旧人類側のヒーローは残り一体だけ。貴重な最後の枠をあのような道化に宛がうものかよ」
ホワイト・ナイトのみがドクトル・Gと情報共有できているから、という理由も大部分を占めていたが。秘密結社内でも機密とされている情報は多い。そういった意味でも、ホワイト・ナイトは結社内でも特別な怪人であった。
「タイプORが雲隠れしている以上、第二ヒーローは旧人類側のヒーローではない」
「では、第二ヒーローはヒーローを自称しているだけの、ただの旧人類として今後も処理を?」
「第二ヒーローがA級怪人を倒すような事があれば、ワシ自らが調整した怪人で叩き潰してくれる」
研究室から出て、太陽の日を浴びながら肩を回す。細かな作業が多くて筋肉が凝っていた。第二ヒーローの強化プランも大詰めだ。
腹が減ったので大学の食堂へと向かう。
『幼馴染:ちゃんと食事摂っているの?』
「お前は俺のお袋か?」
連絡が入ったと思ったらいつもの相手だ。幼馴染も大学生なので、似たようなスケジュールで暮らしているのだろう。
こうして幼馴染の通知を眺めていると、ついつい、顔がニヤついてしまう。
「二郎さん?」
『幼馴染:……危険を察知。今、後ろを振り向いたらお前を殺す』
「何故にいきなり殺害予告されているんだ、俺??」
「殺害予告? また、何かトラブルに頭を突っ込んでいるのですか、アナタは」
『幼馴染:ガルルル』
命は惜しいが、声を掛けられて振り返らない訳にはいかない。
声で分かっていたが、そこにいたのは五十鈴だった。他学科の女学生なので普段あまり顔を合わせる相手ではない……と言いたいものの、何故だろう、コンスタントに出会っているな、俺達。
『幼馴染:こいつは私が目をつけて大事に育てたんだ! 他の雌が近寄るな!』
「誰かに脅迫されているんですね。ちょっと、そのスマートフォンを貸してみてください」
「安心してください。幼馴染がふざけているだけですよ。他の女を見ると衝動的に俺を殺そうとするんです」
『幼馴染:私を暴力系女子やヤンデレ系と一緒にしないで! やる時は苦しまないように一撃で始末してあげるから』
「……その説明のどこに安心できる要素が?」
食堂近くで話しかけられたので一緒に食事を摂る事にした。
無難な定食メニューを選んで窓際の席を選び座る。対面席に座した五十鈴が選んだ料理も同じ定食だ。この女、何故か俺と行動が被るんだよな。気が合う要素があるとは思えないのに、変な話だ。
「今日は春都さんと一緒ではないのですね」
「そちらこそ、百井さんがいないじゃないですか」
「いつも定食メニューみたいにセットでいる訳ではありません」
五十鈴いわく、百井は大学入学以前からの友人のようで、相応に付き合いも長いらしい。
「親しい、と呼べる間柄になったのは去年の夏頃からですが。それまでは性格も趣向も共通するものがないので、同じ教室にいても会話はあまり」
「何か切っ掛けがあったのです?」
「……えぇ、まぁ」
パプリカを食べているのに、ピーマンを食べている時のような苦い表情を作る五十鈴。友達と親しくなった切っ掛けを聞いただけだというのに、まるで悪い記憶を思い出しているかのようである。
「私達は一緒に誘拐された事があるんです」
思いっきり重い話だった。食べていた薄味な春雨サラダが、胃もたれ起こすレベルの濃厚で重厚な豚骨ラーメンみたいに感じられて箸が進まない。
「秘密結社にさらわれたんです。当時は今以上に一般市民が狙われていたので。モモ……いえ、百井は誘拐されたのがトラウマとなって、怪人を極度に怖がるように」
「あ、あのお辛い話なら、無理に話さなくても」
「私は辛くはありません。復讐してやりたいとは常に思っていますが。……人の体のモース硬度を馬鹿みたいに高くしてくれた礼は、必ず」
ブツブツと何かを呟きながら五十鈴が納豆をかき混ぜ続けている。四百回ぐらいかき混ぜるのがベストだからだよね。
上京したばかりの俺でさえ怪人事件に巻き込まれているのだ。昔から大都会に住んでいる五十鈴なら過去にも怪人と遭遇していておかしくはないか。以前は民間人を誘拐していた事もあるという情報は、エヴォルン・コールの真の目的を探るための貴重な情報になるだろうか。
「二郎さんは幼馴染さんといつ頃出会ったのです?」
人間性を取り戻した五十鈴が俺へと質問していた。彼女ばかりに語らせるのも悪い気がしていたので、俺も故郷の話をする。
「幼馴染とは生まれた時からのつき合いらしいです」
「それはどういう意味で?」
「生まれた病院が同じで、ベッドも隣だったと母は言っていました」
当然、俺は覚えていないのだが――『幼馴染:え、私は覚えているけど?』――覚えている方が異常なのだが、幼馴染の縁は家族と同じぐらいに太く長い。隣にいる事が当たり前。幼稚園、小学校、中学校、高校とすべての時間を一緒に過ごした。
隣にいる事が当たり前過ぎて、だからこそ距離感を測り辛い相手だ。
大学生となった今、隣にあいつがいないという状況は、自分でもうまく説明できそうにない。
「私にはそういった友人がいないので、羨ましく感じます」
「空気みたいなものです。普段は感じないという意味で」
『幼馴染:ほほう。酸欠で死にたいと』
幼馴染のいない五十鈴では、想像はできても共感はできないだろう。口ではどうにも説明できないので空気の話は一端区切る。
……窓の外を未確認飛行物体が横切って、話どころではないというのが正しいか。
「アイ・キャン・フライ! ドラぁぁーーー!!」
高速飛行する何者かが、ドップラー効果を発生させつつ食堂の傍を通り過ぎていく。
窓に顔を近づけて周囲を探るが姿が見えない。外にいる学生達が上空を指差していたり、スマートフォンを向けたりしていたので居場所はすぐに判明した。
「威容を称えよ! エヴォルン・コールの改造手術によりドラゴンとして覚醒したレッド・ドラゴン様が――」
「五十鈴さん。あれって、でかいトンボだよな?」
「そうね、二郎さん。トンボで間違いないわ」
「――大都会の空を席巻する! 愚かな人間共に制空権はない。ドローンの使用を全面的に禁止する。今後の空撮事業はすべてオレ様が独占だ!!」
長い尾と横に伸びた翅を持った怪人が、大学上空を飛んでいる。講義棟の四階と同じ高さで制止し続けているので、ホバリング能力を有しているらしい。
体表面が赤いため恰好はよく目立つ。
「小さくて見えないが、何か口に咥えている?」
「ッ! あれは怪人捜索ドローンっ」
怪人は顎で捕獲した誰かのドローンを噛み砕いて破壊する。破片がバラバラと落下して、下にいた学生達が逃げていた。




