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VS.突然死

 怪人が占拠していたアパートを離れ、五十鈴を無事にキャンパスへと送り届け、戻ってきたのは大学の研究室である。実質的な第二ヒーローチームの拠点の一つだ。

 研究室では春都が俺を待っていた。先輩方はサークルに出かけているのか、室内に他人はいない。好都合だ。


「怪人警報が鳴ったが、無事だったのか二郎」

「どうにか乗り切った。情報を共有しよう」


 男子大学生失踪事件に怪人が関わっていた事。

 アパートに連れ去られた学生に対して、第二ヒーローをあぶり出すアンケートが行われていた事。

 第二ヒーローと疑われた者に、怪しい薬が投与されようとしていた事。


「……なるほど、随分と目のかたきにされているな、第二ヒーロー」

「言っておくが、俺が捕まったら春都も終わりだからな。俺達二人、生まれは違えど死ぬ時は一緒だ」

「そこは死んでも俺の名前を言わないっていうところだぞ、二郎」


 働いて小腹が空いたので、研究室備え付けの電子レンジを借りて冷凍食品の調理を開始する。

 研究室は研究のための設備以外の物も多い。学生にとってかなり自由な空間となっている。教授の部屋へと通じる奥のドアの向こう側は治外法権であるが、俺達がいるスペースは学生の思うがまま。冷蔵庫やベッド、ゲーム機は当然のごとく設定済。

 電気ポットやコンロも存在する。それ等を使って、春都はインスタントコーヒーの準備をしてくれていた。

 お湯を沸かしている春都が、疑問を口にする。


「それにしても悪の秘密結社の奴等、余裕が過ぎないか。第二ヒーローごときに戦力を回してやっていけるのか?」

「第二ヒーローが目障めざわりに感じたのだろう。ヒーローでもない奴等がヒーローを模倣すると痛い目に遭わせるぞ、という脅しで世間を委縮させるのが一番の狙いかもしれない」

「いや、やっぱり妙だろ。怪人はスケーリーフットに連敗しているんだぞ。世間を恐怖させたいのならスケーリーフットを先に攻略するべきだ」


 春都の言う事も確かである。悪の秘密結社が面子めんつを気にしているのなら、頭文字に第二が付かないヒーローを優先して片付けるはずである。

 悪の秘密結社の行動を考えた場合、二つの可能性が挙げられる。



「悪の秘密結社の現有戦力ではヒーローを倒せないから、倒せる第二ヒーローを先に片付けようとしている」

「悪の秘密結社にとってヒーローは障害になっていない。ヒーローの行動は奴等の手の内にある。一方、イレギュラーな存在たる第二ヒーローは邪魔で仕方がない」



 真逆の可能性をそれぞれ言い合った。前者が春都の推測で、後者が俺の推測だ。

 所詮は可能性の話なので真実は分からないが、可能性でよいのならもっと大胆な推測も可能だ。


「あるいは、ヒーロー自体が奴等の仲間だったり」

「二郎、それは流石に……」

「最悪の可能性は常に考えておくべきだ。俺は最初からスケーリーフットの奴を信じていない。アイツは色はともかく、姿が気に入らない」


 先に春都のコーヒーが出来上がった。

 マグカップを受け取り一口。粉の分量が多かったのか酸味が強い。


「……悪の秘密結社って、何なんだろうな」


 今更ながら疑問に思う。

 大都会で争うヒーローと怪人の二大勢力。どちらも正体が謎に包まれており行動目的が漠然としている。

 ヒーローの方の目的は悪の秘密組織の敵対、妨害というのは大方の予想だ。が、悪の秘密組織については、世界征服や人類奴隷化と馬鹿げたものばかりとなっている。怪人共が言っている事を鵜呑みにしている状態でしかない。


「相手は悪の秘密結社の怪人なんだぞ。嘘を言っている可能性の方が高い」

「怪人の行動は真の目的を隠すための陽動、と。それなら怪人が場当たり的な行動を繰り返している理由も説明がつくか」

「まあ、奴等の真の目的が何なのかは情報不足で分からないが」


 秘密結社というだけの事はある。ふざけた怪人共の集まりの癖に。



「とりあえず悪の秘密結社、エヴォルン・コールとかいう奴等の真の目的を探る。決まっていなかった第二ヒーローの活動方針に丁度良いだろう」



 悪の秘密組織の目的が分かれば反撃の材料となるかもしれない。少なくとも、敵の行動を推測し易くなるはずだ。

 とはいえ、現状では調査手段がかなり限定されている。具体的には戦闘員を尋問するか、怪人を尋問するかの二択だ。


「戦闘員を一人確保して尋問してやれば、奴等の基地の場所を探れる。ぐふぇふぇ」

「悪い顔をしている二郎には悪いが、警察も数人は捕まえているはずだ。それでも秘密組織の謎をあばけていない。戦闘員から有力な情報を得るのは無理だろう」

「となれば、より上位の構成員。怪人からくしかないか。どうにかして怪人を捕獲して尋問する」

「生け捕りの方が倒すよりも難しいと聞くぞ」

「捕まえるのが無理なら怪人の跡をつけてアジトを探し当てるさ。方法は色々ある」


 敵が第二ヒーローを捜索しているという状況を無理やりポジティブに捉えれば、怪人と接触する機会が増え、敵を知る可能性が増えると考えられる。

 ただし、今の第二ヒーローではあっという間にゲームオーバーだ。これまでは幸運によって怪人の手を逃れているが、幸運はいつかきる。

 よって、今後はより本格的に準備を整えて、怪人に挑む必要がある。


「春都。試せる手段を広げるためにも第二ヒーローを強化したい」

「第二ヒーローの強化プランはあるが、所詮は工学部一年のお手製だ。あんまり期待してくれるな」


 春都と俺は眼鏡先輩の好意に甘えて、研究室の一部を完全に占拠している。いくつかの装備を開発している最中である。


「……技術面で言うと、眼鏡先輩の協力が得られれば最高なんだけどな」

「眼鏡先輩。あの人、そんなに凄いのか?」

「四年連続でここの工学部の首席だぞ、眼鏡先輩。二十五年に一度の天才って言われている」

「すごい天才というのは伝わるが、どうして四半世紀?」

「五十年ぐらい前に、二人の天才が大学に在籍していたらしい」


 神引きした後になぎが続いたガチャみたいな発生分布だな、天才の誕生って。

 眼鏡先輩に頼れば、戦闘服の機構を調査してより実戦的な強化が見込めるかもしれない。けれども、勧誘はできない。怪人に襲われる危険な第二ヒーローに、優しい先輩を巻き込む事はできないからだ。


「……あれ、俺は?」

「春都は同学年だからな!」


 自発的に参加してくれるのなら別であるが、先輩に俺が第二ヒーローであると教えるつもりはない。教える事自体に危険が伴う。下手をすると、命を失うだけでは済まないかもしれない。


「……んん、俺は?」

「春都は教えた訳でも知った訳でもなく、第二ヒーローの創設者だからな!」


 ようするに、先輩には頼れない。

 天才にはおよばないが俺達二人も工学部の端くれなので、自力で解決するしかない。




 今後の方針をある程度まとめ終えると、タイミング良く電子レンジが鳴った。

 調理していたのは冷凍ピザだ。怪人の遺言があったから、つい食べたくなったのである。動いた後の栄養補給にもなる。

 怪人直筆のメモ用紙を二つ折りにして胸ポケットに備えて、ピザピースを頬張った。うん、チーズ味。


「春都も食うか?」


 ピザを半分に切り分けてやっていると……誰かに腕を掴まれて邪魔される。

 春都の奴だ。

 何故か真顔になっており、俺の脈や呼吸を確認している。



「二郎っ、ピザ食いながら白目剥いて、どうした。……って、呼吸止まっているぞ!! まさかピザを喉に詰まらせて。しっかりしろッ」

「……はぁ? 何を言っているんだよ。春都」



 俺はいたって健康だというのに、意味不明である。


「脈も止まっている。いきなり急死しているんじゃないぞ、二郎!!」

「…………はぁ? 聞こえているか、春都。お、おいっ」


 ただ、春都の表情は鬼気迫っている。ふざけているだけにしては妙だ。俺の声は一切聞こえていない様子でもある。

 ベッドへと俺を力尽くで倒して、顎をクイっと上げて気道確保し始めた。胸へと両手を当てて体重を乗せ始めたが、これはまさか心肺蘇生法で、ぐふぇ。


「生き返れ、生き返れ!」

「や、止めろ。死ぬ。ぐふぇ、死ぬぅぅ」


 春都は無理やり肺を圧迫して、俺から食べかけのピザを口から噴出させた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] おお第二ヒーロー、死んでしまうとは情けない。生きていても情けないけど。友をあっさり売るし。
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