VS.春都 1
身辺が本格的に騒がしくなってきた。
大した活躍をした訳でもない第二ヒーローを狙って、悪の秘密結社、エヴォルン・コールは刺客たる怪人を大都会に放っている。
そして、エヴォルン・コールと対峙しているはずのヒーロー・スケーリーフットからも第二ヒーローは狙われていると昨夜判明してしまった。スケーリーフットは襲うためではなく保護のためらしいが、ありがた迷惑な話である。
大都会の二大勢力に注目されてしまっただけでも大変であるが、更に一つ、息を潜めていた難題が浮上しようとしている。
「前期の終わりにはテストがあるのでそのつもりで。大学生たる諸君等にとって勉強は義務ではないが、テストの点数と我輩の単位のレートは60対1なのでそのつもりで」
来月には期末テストが開始されるのだ。
大学生の夏休みは長いと聞いて喜んでいたというのに、まさか直前に大きな壁があろうとは。どこかの教授が怪人撃破数と単位を1対1のレートで交換してくれないだろうか。
「春都。この後、時間あるか?」
「いや、昨日レンタルしたシャークVS第六艦隊が見終わっていない」
「まだ催眠が切れていなかったのかよ」
同じ学科の学生たる春都も同じ講義を受けている。というか、隣の席にいたので講義終了と共に話しかけた。
「講義内容の復習をしたい。ついでに、第二ヒーロー関連で対策を立てたいから今日はお前の部屋に行くぞ」
「待て。ついでの方が重大じゃないのか??」
「テスト勉強のついでに何かしていると捗るじゃないか。さあ、夕飯を買い込んで長期戦に備えるぞ。それと、ピーチソーダは必須だからな」
危機的状況の中、どうして春都の部屋を訪れたかと言うと理由は一つしかない。
「――という訳で、様々な勢力に狙われて第二ヒーローの窮地だ。そこで今日から本格的に第二ヒーローをチームとして設立する。春都、お前が初代チームリーダーだ。頼りにしているぞ」
「二郎!? 俺を巻き込むつもりか。てか、さらっとリーダーに就任させられている所も気になるが、初代って何だ?? まるで不慮の事故でいなくなる事前提みたいじゃないか!」
「怪人に狙われるなんて、ただの大学生には荷が重いんだ。協力してくれ」
「俺だってただの大学生だ」
窮地に友人たる春都を巻き込むためである。
友人を命の危険のある事件に巻き込むなど正気ではない、と赤の他人は言うかもしれない。だが、それは浅い人間関係と真の友好を勘違いして生きている悲しい人間の発言だ。友人だからこそ本音で語り合い、危機に対しては損得勘定抜きで協力してくれる。
俺にとって、春都は頼りがいある友人なのだ。
「俺を巻き込むなッ。マスコミに二郎が第二ヒーローだってリークするぞ!」
「やれるものならやってみろッ。俺がこの部屋から無事に戻らなかった時点で、春都が第二ヒーローであるという旨の電子メールが各社に送信される仕掛けになっている」
「友を脅す外道がァ!」
「ふふ、俺達二人は生まれた時は違えど死ぬ時は一緒だぞ」
春都が借りている月六万の部屋で桃園の誓いを済ませる。ピーチソーダを用意した時点で気が付かなかった春都が悪いのだ。実に分かり易い伏線だっただろう。
友人として快く春都の協力を得られて――、
「二郎、恨むからな……」
――友人として快く春都の協力を得られた。
人間、一人ではこなせない事も二人揃うとニ倍以上に可能性が広がる。第二ヒーローもバックアップを得られた事で生存確率が飛躍的に向上する。他の人間の意見は、それだけで貴重なものなのだ。
「……はぁぁ。二郎が第二ヒーローになってしまった一因は俺にもあるから協力するが、素直にスケーリーフットに捕まっていた方が良かったんじゃないのか? 悪の秘密結社にマークされてしまった時点でほぼ詰んでいると思うぞ」
さっそく春都が根本的な解決策を提案する。
第二ヒーローはそもそも大都会に必要なのか、と。
「大都会は物に満ち溢れ、人材が豊富で素晴らしいが、都会人は多少以上にヒーローを過信してしまっている。いや、他人事のように振舞って怪人を現実の事件として向き合っていない。そんな印象の方が強い」
怪人の事はすべてヒーローに任せてしまえば問題ない。
ヒーローがいれば日常は安泰だ。
そう強く思い、自分に限っては大丈夫、と妄信して大都会の闇から視線を逸らし続けている。田舎から出てきたばかりの俺にはそう思えて仕方がない。
「……俺の正常性バイアスが効き過ぎているって言いたいのか?」
「警察にしても政府にしても、一年も前から現れている怪人事件を未だに解決できていない。いざ怪人が現れた場合、怪人を倒せるのは正体不明のヒーローただ一人だ。実に綱渡りな状況だと思わないか」
「別に大都会の人間だって困っていない訳ではない。大都会に住んでいる人間なのだから割を食えっていう意見は釈然としないな」
「それは卑屈だ、春都。誰もが困っていて誰だって立ち向かっていいのなら、己が立ち上がってしまえばいいんだ」
俺の言葉は笑ってしまう程に平べったい理想論でしかない。
小学生だって学級委員の立候補を求められたら知らん顔で卓上から目線を離さない。誰だって面倒事に関わりたくはない。知らない土地で誰かが苦しんでいても、自分の生活を破綻させてまで救援には向かえない。それは悪ではなく、処世術の一つだ。
ボランティアを行える者は、一部の積極性ある賞賛されるべき人間だ。
そして、そんな素晴らしい人間であったとしても恐ろしい怪人と戦うヒーローになれるものではない。
春都は、はたしてどういった人間か。
「二郎がそういう熱い男だと思わなかったけどな。かー、分かったよ。後ろ向きな事はもう言わない。腹を括る。第二ヒーローをやってやるさ」
春都は一切の屈託のない明るい表情で、全面的な協力を約束する。春都が友人になってくれて本当に良かった。
お互い、ピーチソーダで喉を潤す。




