VS.ニュース番組
『――こちらが事件現場を撮影した映像です。現場となった映画館内の様子が、何故か多数記録として残っており――』
また怪人とかかわってしまった数日後。
ゴールデンウィークなんてものは金と同じようにあっという間になくなったというのに、多少以上に疲れた精神は未だに癒えてくれない。講義に身が入らず、ずっと机に頬を付けて脱力していた。
そんな俺を見かねたのが、眼鏡先輩である。
立て続けに怪人と遭遇してしまった不運を労おうと、眼鏡先輩は自分が所属する研究室へと俺を誘ってくれたのだ。工学系だけあって機械とパソコンが散乱しており、用途不明の器具が並んでいる。
「二郎。まだ体力が回復しないのか?」
「いや、心の方の問題だ。気にして色々おごってくれ」
「全然余裕じゃねえか」
呼ばれたのは俺だけではない。春都も研究室にいる。
先程まで眼鏡先輩と三人で大学生活や一人暮らし、3Dプリンターの使用方法を情報共有していたのだが、眼鏡先輩は別室にいる教授に呼ばれたため今は二人だけだ。
『――ごらんください。今回出現したのがこちらの猫型怪人です。黒猫、雑種、オスと映像より判断されていますが、警察隊が突入した時には既に、怪人は爆発四散していたため詳細は分かっておりません――』
なお、映画館を訪れた本来の目的である眼鏡先輩に対する恋の成就は見事に崩れた。二度も連続して怪人に襲われてしまったのだ。思いを寄せていた女性は辛いだろうが、どんなに想っていても縁がなかったものとして諦める他ない。
「春都の方はどうだ? 戦闘員に襲われていただろう」
「俺は何ともない。今回は無傷だ。二郎のように、現在進行形で大変な目に遭っていないからな」
入院した前回と比較すれば、映画館の事件は大した事はないと言えるかもしれない。
「とはいえ、二郎は逆に疲れ過ぎていないか? 戦闘服の影響か?」
「いや、だから精神的なものだって」
「気にし過ぎても仕方がないだろ。対策していたお陰で致命傷になっていないと思わないと」
『――ただいま、獣医の視聴者様よりのご指摘を受けました。怪人は雑種ではなくスコティッシュフォールドではないか、というご指摘です。誤解を招く報道をしてしまい大変申し訳ありませんでした。ご指摘ありがとうございます――』
春都は気軽に言ってくるが、脱力した体はまったく動いてくれない。
その原因が、今もテレビ画面に映って報道されまくっている。
『――そして、ステージ上で怪人と対峙している謎の人物。彼は一体何者なのか。大都会で一番注目されている人物と言えるでしょう。彼の言葉はしっかりと録音されていました。聞いてみましょう――』
『俺は、俺はっ! 第二ヒーローだ!!』
『――このようにヒーローと名乗っています。ヒーローという言葉で真っ先に思い出される人物はスケーリーフットですが、第二ヒーローとの関係性はどうなのでしょう。本番組では専門家の方々を招いて徹底予想したいと思います――』
俺の声がテレビから流れた途端、俺は机に額を打ち付ける。痛い。恥ずい。痛い。
『――きっと中二病が完治しなかった人物の幼稚なヒーローごっこでしょう。こういう輩は、口の裂けたピエロの格好をした怪人によって見せしめで殺されるんですよ――』
「頼む、テレビを消してくれッ!」
「ここだけ消しても視聴率は変わらない。二郎、諦めろ」
『――私はただの大学生だと思いますよ。第二ヒーロー(笑)――』
「もう特定されているし! もう俺の人生終わったんだ。テレビの電源を切れないなら俺の命脈を切ってくれ!」
『――声質からの鑑定結果、第二ヒーローは十代から二十代前半、あるいは二十代後半から四十代半ばの男性。あるいは女性と判明しています――』
「そんなに心配しなくても大丈夫じゃないか? 色んな局で報じられているが、番組によっても考察が全然異なる。顔を隠していたのが効いている」
俺と異なり、一言も報道されていない春都の慰めなどに意味はない。
いちおう、春都の言う通り、報道の数こそ多いが致命傷には至っていないのだが。
俺と怪人コピーキャットの対決は、多人数にスマートフォンで録画されていた。が、あの時の俺は3D眼鏡とブランケットで顔を隠していた。それゆえ個人の特定は進んでいない。
「報道されていないだけって可能性は?」
「こうして悲観していられている時点で大丈夫なはずだ。週刊誌なり警察なり悪の秘密結社なりが二郎を特定できるのなら、もう研究室のドアに殺到している」
春都の言い分は甘い福音だ。信じてしまいたくなってしまうが、現実逃避のために信じるのは危険が過ぎる。
『幼馴染:大学生ってよくネズミ講に騙されているものね』
「ほら、俺の幼馴染も人を信じるなって言っている」
「いや、二郎の幼馴染の話されても、さっぱり分からんし」
『幼馴染:私の幼馴染がいつもお世話になっています』
「って言っているぞ?」
「いや、ここにいない人物に挨拶されてもな」
こんな非常事態に陥れば、誰だって頭を抱えて、額を机に打ち付けたくなるだろう。
『――こんな所にいられるか、と第二ヒーローは言ったとあります。どういう意味でしょう――』
「いや、だからそれは映画の台詞であって俺は一言もそんな事は言っていない」
「だろう? ガセ情報も多い。これぐらいなら気にするほどじゃないさ」
ただ、当事者になって初めて分かるが、大都会のマスコミの情報収集能力も案外高くはない。まあ、そもそも、頻度高く出没する怪人の正体さえ掴めていないのである。
とりあえず、気にした所で対策はない。アルマゲドンが明日空から落ちてくるなら、今日は知らないまま過したい。いい加減、机から頬を離陸させてテレビから目線を逸らした。
眼鏡先輩が帰ってきたが、すぐに出かけるらしい。何でも、研究室で使う新しい機材の消耗品の買出しを頼まれたらしい。
それなら俺と春都もお暇しようという事になり、研究室を後にする。
「何を買いに行くんです?」
「3Dプリンターのフィラメントを買いにね。カーボンの少し良いやつ」
「お、あるんですね、ここの研究室。お手伝いするんで今度使わせてくれませんか」
「君達なら一つや二つ融通するさ」
三人揃って廊下に出ると、時同じくして廊下の向こう側から研究室へと訪問者が現れる。
どこかで見覚えのある顔だ。というか、先日も一緒に映画を観に行った間柄だ。性別は女性。髪はセミロング。
「すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」
名前は確か五十鈴響子だったと思われる。




