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VS.スケーリーフットの中の人

 刀の先を胸から生やした怪人雷獣太を、真・蜻蛉切ドラゴン・スレイヤーの看板部分で縦に斬り裂く。

 体毛に覆われた体から大量の血が噴き出した。

 体に降り注ぐがままに任せて、避けも防ぎもしない。一刀に全力を出したため、息を吸う事さえしばらくできなかった。



「――見事だ。見事に、俺を上回った」

「そんな実感は一つもない。用意した手段のことごとくを、お前に叩き潰された。どうして勝っているのか分からない」

「それのどこが悪い? 理由なき勝利とて勝利に違いない。誇れ。誇るんだ。俺に勝ったのなら胸を張れ。スケーリーフット!」



 いや、だからどうして先程から怪人雷獣太の奴は俺とスケーリーフットを見間違えるのか。


「この仮面と戦闘服をよく見ろ。俺はどこからどうみても第二ヒーロー……あれ、黄色いパワードスーツ??」

「――嘘、二郎が甲殻の中で生きている?! こ、甲殻解除っ」


 視界が突如暗転する。まるで、走行中の車から叩き出されたかのような衝撃を感じた。実際、誰かに背中を叩かれたのか。仮面から地面にぶつかったのを痛みから察する。

 怪人雷獣太が犯人として有力であるが、奴は体を斬られて動けない。

 では、誰が犯人なのだろうか。こう地面から仮面を離して周囲を見ると、そこには決戦型戦闘服だったと思しき鉄パイプや鉄板で形成されるゴミの山。

 ゴミ山の向こう側には……心配顔の五十鈴いすず響子。最近長くなった耳の先が下に垂れていた。


「耳が長い。そこにいるのは五十鈴さんかっ!」

「……あの、私を識別するのに耳は止めて欲しいのですが」

「なるほど。生きていた第二ヒーローを取り込み、協力していたか。新人類と旧人類が協力すれば、より強い力を発揮できたと。本来は敵同士が、……実に皮肉な話だ」


 何故だろうか。

 何故、怪人のアジトに五十鈴がいるのか分からない。彼女は怪人とは無関係の一般人のはずである。

 ひたすらに混乱する俺とは対照的に、怪人雷獣太が状況を最も理解していそうだ。とはいえ、胸をぱっくりと裂かれている怪人の先は長くない。

 血の残量低下と共に立てなくなったのだろう。足の力を失い、怪人雷獣太は不本意そうに腰を下ろした。


「どういう事ですか。五十鈴さん!」

「私がここにいる。それが、答えです」

「はっきり言ってください!」

「第二ヒーロー。女にそう強くわめくな」

「ええいっ。死にかけている奴が落ち着いた感じにさとしてくるな」


 五十鈴は恐れるような手つきでゴミ山の一部に触れた。すると、鉄板が彼女の腕へと吸い込まれて形を変えていく。最終的にはガントレットとなって、色も変色させた。

 鈍色にびいろから、スケーリーフットのパワードスーツと同じ黄色に、である。


「私が、スケーリーフットなんです」

「う、嘘だっ。アイツは筋肉ゴリゴリのマッチョ野郎のはず。細くて華奢きゃしゃで、汗臭くない良い匂いの五十鈴さんとは全然違う!」

「スケーリーフットとして戦う時には甲殻をかなり分厚くして、体格をかさ増ししていますから。そうでなければ、腕なんて飛ばせませんよ」

「五十鈴さんがヒーローである必要がない!」

「ヒーローは貴方です、二郎。私は……ただの怪人です」


 そう否定的に言い放った五十鈴は、全身に瓦礫をまとわせていく。完全にスケーリーフットと同じ姿となった五十鈴は、特に理由のない暴力で近くにあった柱を粉砕した。


「こんな力技、怪人でもなければできませんよね」


 パワードスーツの声は、五十鈴のままだった。スケーリーフットの男声ではない。


「スケーリーフットは五十鈴さんで、スケーリーフットは怪人で。だったら、五十鈴さんは……かい、じん??」

「秘密があったのは二郎だけではなかった訳です。ごめんなさい」


 五十鈴は背面ブースターを点火した。秘密を明かすだけ明かして、勝手に去ろうとしている。



「最後のA級怪人だった怪人雷獣太を倒した事で状況は大きく動きます。エヴォルン・コールとの戦いも佳境かきょうでしょう。……だから、二郎。貴方はもう戦わなくても大丈夫です。貴方の幼馴染を奪った憎い怪人はすべて、私が倒します」



 五十鈴は垂直離陸する。

 きっと、俺から逃げたのだ。

 俺が、五十鈴の正体について何か言うのを待ちたくなかったに違いない。

 お陰で俺は、五十鈴に対して自分が何を言い出すのかを聞かずに済んだ。

 よくも騙していたとののしっただろうか。五十鈴さんは五十鈴さんだとありきたりな発言をしただろうか。五十鈴が逃げて安堵あんどした俺も、彼女から逃げ出したのだ。





「さて、うちも帰ります」


 五十鈴がぶち抜いた天井の穴を呆然と見上げていると、京極撫子(なでしこ)が隣にやってきた。調子の悪いブラウン管テレビみたいにノイズが走る鎧武者の腕に乗っていた。

 埃だらけの陰陽師服を近くではたくのは止めて欲しい。広い袖から砂やら灰やらが落ちてきている。


「本人が言っていた通り、スケーリーフットは怪人側。うちやお兄さんは人間側。敵同士ですからお間違いないように」

「……ヒーローや怪人について全部話してから帰れよ」

「そこの死にかけにお聞きになればよろしいかと。生き残ったうちは忙しいので早く帰らないといけません。……エヴォルン・コールの最終作戦はすぐに始まりますよ」


 地下道の奥へと消えていく撫子。

 この場に残ったのは俺と、座り込んでからほとんど動かない怪人雷獣太の二人だ。


「その調子で、喋れるのか?」

「……どうだか、な。話すよりも、本部に生体爆発、させられる方が、早い。たった今、スイッチを入れられた」

「おいっ! すべて話すっていう言葉は偽りか?!」


 怪人雷獣太の体から煙が噴き出し始める。生体爆発の兆候だった。

 結局、真実を知っていそうな奴等は皆、誰も何も語らないのか。



「――ふっ。そう落胆するな。真実は……すぐに分かる」



 怪人雷獣太は最後まで語らないまま、大きな光に飲み込まれた。

 煙と光が晴れた後には、毛一つ残っていない。

 すぐに分かるという意味は、エヴォルン・コールの最終作戦発令がすぐだから教える必要がない、と読み取る事ができる。ただし、自らアジトに俺を呼ぶような男にしては意地が悪過ぎる。もっとも、つらつらと遺書を書き残しているというのもあの男らしからぬ。

 はたして、どういう方法で俺に真実を教えてくれるのだろう。




 大都会外縁水路から拠点に戻る。帰りは春都達が使ったトラックに揺られ、眠っている間についていた。

 二時間は眠っていたが、まだまだ眠り足りない。連戦で消耗した体を回復させるには不十分だ。

 腹が減っていなければ、玄関のドアを枕に眠り続けていたに違いない。


「何か食べる物はあるか?」

ろくな物が残っていないのは確かだな。簡単な料理ならするぞ?」

「いや、春都達はトラックを返却しておいてくれ。俺は適当に食べておく」


 台所を探索した結果、パン一枚ないから困ったものだ。

 炊飯器の中身も空っぽ。大都会の物流停止による食料備蓄の低下は、今も尾を引いている。おのれ、怪人雷獣太め。

 ようやく発見したのは即席麺かコーンフレーク。どちらも、疲れている時に食べるような物ではない。


“――そう邪険にするなブロント。コーンは良いものだぞ”

「いやいや、今の俺の胃は牛乳もコーンフレークも受け付けない。手掴みでバリバリ食べられるのは怪人ぐらいなものだって」

“俺に勝った男の胃とは思えんなブロント。ふむ、語尾の変化。怪人がスペックの限界まで力を引き出している状態と同じか”


 コーンフレークは隣の毛むくじゃらが勝手に食べているので、即席麺で腹を満たすか……ん?



「どうして生きている。怪人雷獣太!」

“すべて話すと言っただろう。俺が約束を破る怪人だと思っていたのかブロント”



 やや体を透かした怪人雷獣太がコーンフレークを食っていた。透けた体の中央付近には、半分黒焦げた式札が浮かんでいる。

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