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イヴを励ますために~⑤セデス

セデスは(影の一族)改め(銀の妖精の守り手)として、

グラン一家を守り、仕えている。

『王』の幸せが、彼の幸せであり、『王』の憂いは彼の憂いで、

なんとしても晴らさねばならないと思っている。

グランはこの国に来て、薬草について学び、医学の道を志した。

自身と娘の頭痛を治すためだ。


セデスは『王になるために覚えておかなければならない教養』には

詳しいが、医学については専門外のため、グランが師事すべき、

医学者に心当たりはないかとライトに尋ねた。

するとライトは、この国一番の医学者はリン村の診療所にいる

セロトーニ医師だと答えたため、セデスはグランに

診療所の手伝いをすべきだと促した。

グランは真摯に彼の教えを乞い、2年後、薬草研究師と医師の

免状をセロトーニ医師に授かった。


次にセデスは身ごもったアンジュの世話をアイビーとサリーに

託し、乳母はリン村にいる婦人に頼もうと、これもライトを

通じて、紹介を受けてから頼みに行き、了承を得た。


ここに来てから5才になったイヴには、体術以外の教育を施した。

イヴはグラン並に聡明ではあったが、どうも運動能力だけは、

両親に似ず、どう頑張っても武芸は無理だろうとの判断から、

下手にそれらを覚えるよりはと、体力を付ける簡単な運動や、

不審者から逃げることを徹底的に教え込んだ。

ここにはイヴを襲う不届き者はいないし、自分たちがいるから

万が一はないはずだが、完璧なんてものは存在しない。

何かがあってからでは遅いのだと、アンジュの言葉に

セデスは同意した。


イヴの外見は美しい両親の良い所だけが合わさって

似ているので、すごく美しい。

幼い今でも充分美しいのに成長したら、きっとその美しさは、

傾国級の美姫になるとの予想は間違いないはずだ。

この村の者でさえ、邪な思いに駆られないとは限らない。


しかも外見以上に、心根が美しすぎる。

優しい純粋な心が、邪な人間の身勝手な欲望で

踏みにじられるのだけは避けたいとセデスは思い、一族達も

イヴの両親も同じ考えだったため、

セデスは(淑女教育)と共に(自分の身を自分で守る教育)

をイヴに授けた。

この教育は、後に生まれたロキやソニーにも授け、

すべてのリン村の子どもたちにも、その教えは広がり、

やがて『バッファー国中の子ども達の覚えるべき教養』と

して後世にまで伝わることとなった。


2才で読み書きが出来、読書好きだったイヴは、

セデスの師事を受け、5才ですでに(貴族教育)以外の

教養を身に付けていた。

・・・努力家で生真面目な生徒(イヴ)に気を良くした先生(セデス)により、

剣術体術・乗馬、(貴族教育)以外の教養・・・つまり、

『女王になるために覚えておかなければならない教養』を

半分以上も修めてしまっていたので、多分、母国の学院が、

()()()()だったのなら、

今でも余裕でイヴは入学試験に合格していただろう。

向学心があるイヴに、何を勉強したいかとセデスは尋ねた。


ここではもう(貴族)ではないのだから、『王』も『姫』も

好きな生き方が出来るのだから、セデスはイヴの希望を

知りたいし、その希望に添うことをしてあげたかった。


「セデスさん、私、父様みたいに薬草のことをお勉強したいです。

私も父様と同じように知恵を武器に、病気と闘えるようになって、

私たちみたいな人を助けられる人になりたいの。

後、リングルさんやアダムさんみたいに自分でお料理もしたいです。

・・・後ね、ダンスで目を回さずに踊れるようになりたいの」


これを聞き、セデスは薬草のことは、研究所に通うことに

なったグランに師事を受けるように伝え、

料理のことは、すでにイヴが彼らに交渉して了解を得た

と聞いたので、その積極性を褒めた。


ダンスについては、原因が不明なので、答えは保留してもらった。

イヴは小さい頃から、嬉しい気持ちや喜びを自己流に舞って、

表現しようとするクセがあったが、いつも2、3回、

その場を回っては目を回していたので、踊りきったことがなかった。

本人は踊りたいのに踊れないのは可哀想だし、

何とかしてあげたかったが、目を回す・・・ということが、

どういうことか、セデスには分からなかった。


これは運動能力に優れ、特殊な訓練を幼い頃から積んできた

(影の一族)であったセデス達には難しい案件だった。

ロキやソニーが生まれ、ミグシスが旅立ち・・・、

イヴが寂しさと数日続く頭痛で落ち込んでいた次の日、

やっとセデスは、その原因がわかり、笑顔で報告に来た。


「イヴ様。一人で踊るときは、回りの景色を全て見ようと

してはいけないのです。それをすると目を回すのですよ。

誰かとダンスをしているときも、踊っている相手しか

見てはいけないのです。嬉しい気持ちで踊るときに、回りの

全てを見てしまうから、目を回してしまうのですよ。

さぁ、練習してみましょうね」


セデスは、一族の中で一番ダンスが上手なアダムを呼んだ。

アダムは、夕食の仕込み中だったが、ダンスの練習相手を

快く引き受けてくれた。

自らピアノを弾くセデスの思惑通り、イヴはダンスの

相手しか見なかったおかげで目を回すことはなかった。

だが、新たな問題点が見つかってしまった。


「絶対、イヴ様を家族以外の男と踊らせてはいけません!!」


真っ赤な顔でアダムがセデスに詰め寄った。


「どうしてですか、アダム?イヴ様は目を回されずに、

上手に踊ることが出来ましたのに、何か不都合がありましたか?」


「~ッ!!お、長も踊ればわかりますよ!!」


ピアノをマーサに頼み、セデスはイヴの手を取って踊ってみた。


「・・・なるほど、理解しました。アダムの言う通りにしましょう。

イヴ様はミグシス様がお戻りになるまで、この屋敷以外の者と

踊ることは今まで通り、お控え下さい」


「え~!!どうしてですの~!?私、踊ってみたいです!」


「イヴ様、絶対、ダメですってば!」


二人がワイワイ言い合っているのを見守っていると、

ピアノ伴奏を終えたマーサがやってきた。


「長。イヴ様は、何がまだダメなんでしょうか?」


心配げな表情が、母親のそれにしか見えないことに、

セデスは笑みを押し隠しつつ、言った。


「あれは女性の方にはわからないと思いますが、

そうですねぇ・・・、あんなに瞳をキラキラとさせて、

ずっと嬉しげに見つめられて、全幅の信頼を寄せて

身を預けて踊られたら、・・・私やアダムは今まで

以上にイヴ様に対し、父性愛が深まってしまいましたが、

・・・これが家族以外の男なら、一瞬で魂を奪われて、

恋に落ちてしまうかもしれません。


この世界には魔法なんてものは存在しませんが、

イヴ様と踊るとイヴ様を好きになってしまう・・・、

いや、踊った者を恋に落としてしまう、そんな魔法が

あるかのようです。


今のイヴ様はまだ子どもですし、危険はないとは思いますが、

一応、念のために、控えておくべきでしょう」


「まぁ!それは・・・、確かにミグシス様しか、

お許しできませんわね」


せっかくダンスの型もリズムも完璧ですのに・・・と

苦笑気味のマーサの言う通り、運動が得意でないにも

係わらずにダンスだけはイヴは上手に踊れていたが、

こればかりはどうしようもなかった。


家族以外の者とは踊れないと言われ、少しだけ落ち込んでいた

イヴだったが、自分一人の喜びの舞が踊りきれることが

出来たことに、気分はすっかり元通りになって、

それからはよくクルクルと一人で踊っている姿が、

リン村の者達に目撃されるようになった。


(神様の子ども)だった頃に、(神子姫エレン)の神楽舞に

感銘を受けた、イヴのその喜びの舞は、見ている者を

幸せな気持ちにさせて、本当に(銀色の妖精姫)が、そこで

祝福の舞を舞っているかのように見せた。

だからリン村のお祭りの前には、イヴが必ず呼ばれ、

舞うようになるのは、あっという間だった。


~~~~~


リン村はバッファー国、王家直轄領の特別な村だ。

ここには国の英雄ライトがいて、彼を守る騎士達とその家族達、

ライトが集めた優秀な医学者や薬草研究者達と、

医学者を志す者しか、入村を認められていない。

・・・やがて、リン村に入ることを特別に許された者は、

そこで(銀色の妖精姫)の祝福を受けるという噂が

立つようになるのに、そう時間はかからなかった。


どうやら国中の壁画を外したのは、本物の(銀色の妖精)が

現れて、その美しさが壁画以上だったために、(英雄)ライトが

不敬で神の怒りに触れることを畏れたからだと人々は話し合った。


実際ライトは、数年前に国境まで大勢の着飾った騎士を連れて、

()()()()ある人物を迎えに行っている。

その人物を歓迎し、国賓以上のもてなしの後、リン村に

迎えたとの話も伝わり、それ以来バッファー国には、

良いことしか起きないため、そう噂された。


同時期にリン村から巣立った医師達は、『薬草学』だけではなく、

『指圧』や『手当て』という、新しい医療方法を

身に付けていたことも、その噂の信憑性を増した。

この新しい医療方法は、国の名医セロトーニが、

(銀色の妖精姫)から授かった、『思いやりの精神』から

ヒントを得て編み出した医療だと、その著書には書かれていた。

そしてリン村から巣立った医師達は、旅立つ前に、

(銀色の妖精姫の祝福の神楽舞)を賜ったのだから、

誠心誠意、民のために医療で尽くすと口々に語っていた。


だからバッファー国の民達は、噂は真実だと確信を得て、

その秘密を守ることとなる。


バッファー国のリン村には、神の使いの(銀色の妖精)がいる。

その方達が、国を守護し繁栄をさせてくれている。

・・・もしも、彼らの命が危機に瀕したときは、

この国は、神の怒りに触れ、未曾有の危機に陥るだろう。

(銀色の妖精)の祝福を得たこの国の未来のためにも、

民も一丸となって、リン村を守らねばならない。

そう、民全てが彼らを守る(銀色の妖精の守り手)になるべきだと。


・・・その後、バッファー国の繁栄をもたらす神の使いを

手に入れようとする国外の者達が何度か現れたが、彼らは

国に入って3日もたたず、騎士団に捉えられてしまうはめになった。

国外の者達は知らなかった・・・。

国民全てが、彼らの一挙手一投足を監視していたなんて。

国民全てが、(銀色の妖精の守り手)だなんて・・・。


~~~~~


セデスはその日、新郎新婦のためにピアノを弾いた。

イヴは、とても楽しそうに新郎と踊っている。

その姿をグランも嬉しそうに見守っている。


『王』と『姫』の幸せは、セデスの幸せ。

セデスは多幸感に浸りながら、ピアノを弾き続けた。


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