イヴを励ますために~③タイノー・イレール・エチータン・セドリー
~タイノーとイレールの場合
その日、イヴの部屋の前に札がかかっていると知った、
タイノーとイレールは兼ねてから作っていた、
秘密のプレゼントを持って、お見舞いに来た。
「まぁ、これ!いいの?ホントにいいの?」
額に『ハチマキ』が巻かれたイヴは、頬を紅潮させていく。
最近落ち込み気味だったイヴを喜ばせることが出来て、
二人は安堵の表情でお互いの顔を見合わせる。
イヴのベッドの上に置かれた物は、(知恵の輪)と、
『誰でも簡単にできるニンジャ体操!』と書かれた、
手作りの冊子だった。
頭痛でベッドから出られない時に遊べるようにと
作った(知恵の輪)は、昔、(ニンジャごっこ)でセデスが
簡易で作った(宝物)で、その時の物よりも難易度の高い物を
考案し、冊子の方は、運動が得意ではないイヴのために、
考案した、体力作りと不審者にあったときの逃げる行動を
練習するための体操だった。
と言うのもイヴは大勢の人間に愛されて育ったため、
回りの大人を無条件で信用している。このリン村には、
イヴに危害を加えようとする者はいない。
だからこそ危機感がないことを懸念し、それを教える
必要があるとのアンジュの教育方針に則り、
無理なくそれを得られるようにと、大人達が話し合った。
タイノーとイレールが考案した(知恵の輪)や
体操はそれを得るためのものだった。
二人は手先が器用で、イヴ専用馬車を
作ったのも、彼らだった。
「同じ物をミグシス様にも贈りましたので、どちらが
先に解けるか、競争なさってみてはいかがでしょうか?
それにその冊子の体操が最後まで出来るようになったら、
『下忍』の称号札をあげますよ!
体操は『中忍』『上忍』『頭領』まで札がありますからね!
頑張ってください」
「はい!頑張ります!ありがとう!」
エヘヘと笑いながら、「これで私もシュタタタが出来るように
なるのね!」と、瞳をキラキラさせているイヴを
もっと喜ばせたくなったタイノーとイレールは、
ある計画を実行したところ、その後3年も経たないうちに
バッファー国中の子どもは、ある遊びが流行ったことで、
体が丈夫になり、基礎体力が向上したことで、
病気にもかかりにくくなり、(神様の子ども)の
死亡率が激減した。
その遊びは(ニンジャごっこ)と言って、子どもが悪者に
会った時に、悪者から隠れて逃げるための方法を
遊びの形で学べるものだった。
(知恵の輪)で頭を鍛え、(ニンジャ体操)で体力をつけ、
(ニンジャごっこ)で、自分を傷つけようとする存在に
自身で気づき、幼い体でも自分を守ってくれる者の
所まで逃げ切ることを身に付けることが出来る、
その遊びのおかげで、子どもが犯罪に巻き込まれる数が
減ったので、タイノーとイレールは後に国から
『バッファー国の子どもの守護神』の称号を与えられることに
なり、国中の子を持つ保護者たちに感謝されることになった。
また二人が作ったイヴ専用馬車も、国中に広まったことで、
馬車の事故による死傷者の数も激減したため、
二人は『命の守護者』とも呼ばれ、称えられた。
タイノーとイレールは、単にイヴがリン村の子ども達と
(ニンジャごっこ)をして遊べるように、彼らに流行らせる
だけのつもりだったので、国中の人に感謝されるのは、
気恥ずかしいと思った。
イヴが16才になる一年前から、手先が器用な二人が
作っているのは、新郎新婦が乗る馬車だった。
今度こそは、真っ白な馬車にイヴを乗せようと、
二人は笑いながら、車輪の調整をしていた。
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~エチータンとセドリーの場合
ミグシスをバッファー国の学院に送り届けた後、
商会の支部に届いた手紙により、イヴがふさぎ込んでいる
と知ったエチータンとセドリーは、それぞれに
イヴの気晴らしになるようなものはないかと思案した。
商会で手に入れるのは主に医療関係だが、それらは
リン村に揃っている。高級な食べ物や宝石なども
イヴは欲しがらないから、他に何かないだろうかと、
クビを捻る。
リングルやアダムならイヴの好むおやつを作れるし、
タイノーとイレールは子どものための遊具などを作る。
サリーやアイビーは自分たちの趣味が役に立つ。
他の者達だって特技があるが、エチータンとセドリーは
他に秀でるモノは持ち合わせていないと、
二人は思っていた。
イヴのために、取り立てて特技があるわけでもない
自分たちは、何が出来るだろうか?と考えた二人は、
ミグシスが安全に学院で学んでいると分かれば、
イヴは安心するのではないかと考えた。
そしてもちろんミグシスもイヴが安全だと分かれば、
勉強に身が入るに違いないと考えた彼らは早速行動に出た。
情報収集、諜報活動は(影の一族)の得意とするものだ。
エチータンとセドリーは商会の仕事をしつつ、まず、
バッファー国の都の内情を調べようと動き出した。
するとライトの息子エース王の治世を揺るがそうとしている
陰謀を見つけた。ライトやエースの庇護のおかげで、
グラン一家が安全に暮らせているのだから、その治世が
揺らぐことは、あってはならないと、念入りに
セドリーが撫でておいた。
エチータンは手持ち無沙汰だったので、騎士駐在所に押しかけ、
指名手配書を片っ端から持ち帰り、その手配犯を片っ端から
捕縛し、駐在所に放り込んだ。
リン村に戻ると、これらのことを新聞で知ったイヴが、
泣きながら二人を出迎えてくれた。イヴは二人が、
巻き込まれていないかを心配していたらしい。
「大丈夫ですよ。犯人を捕まえたのは、この国の
騎士と書いてあったでしょう?この国の騎士は皆、優秀で
悪者はすぐに捕まるんでしょう。だから王都にいる、
ミグシス様も大丈夫だし、これから商会の仕事で出ることも
ある俺達だって大丈夫なんですよ!ね、ライト様!」
このセドリーの言葉にライトは苦虫を噛みつぶしたみたいな
顔で頷く。小声で(こやつらに遅れを取るとは、バッファー国
騎士団、鍛え直す必要があるな、たるんどる!新規募集して
見るべきか!?)などと呟いていた。
・・・このようにして、エチータンとセドリーは、
バッファー国中を商会の仕事で飛び回るときは、
仕事のついでに、悪人を退治していった。
ライトに騎士団の事で叱られたエース王は、
騎士団の再教育を命じ、鍛え抜かれた新生騎士団は、
猛訓練の鬱憤を晴らすべく、エチータンとセドリーに
負けじと、治安維持と犯人逮捕に奔走していった。
この競い合いにより、バッファー国に潜伏していた
凶悪犯という凶悪犯が根こそぎ、両者によって捕縛されていき、
3年後にはバッファー国は『世界一治安が良い国』となってしまった。
そして国内外の悪人達の中で、ある噂が広まった。
曰くバッファー国に手を出すと、どこからともなく、
『銀の妖精の守り手』が現れて悪人どもを
根絶やしにしてしまうと・・・。
身に覚えのある悪人達は震え上がり、ある者は改心し、
罪を悔い改め、ある者は逃げだし、悪を謳歌出来やすい国に
移り住んだ。
その国は、国の頂点に立つ人物自体が悪人だったために、
非常に居心地が良いと、大勢の悪人が向かって行った。
エチータンとセドリーは、そんな噂を立てられている
とも知らず、・・・その日は、そろってリン村にいた。
今日は彼らの天使、イヴの結婚式だ。
国中を回って集めた祝いの品々を見て、どんなに驚き、
喜んでくれるか!
式が始まる前から、それを楽しみにしている二人だった。