真夏の日の夕べの劇遊び~観客席にて(後編)
ロキとソニーは舞台の上から、両親とスクイレルの
家族達に大きく手を振って、大声で言った。
「「父様ー!母様ー!皆-!見ててねー!」」
ロキとソニーが揃って遊ぶのも、約4ヶ月ぶりと
あって、二人はとても嬉しそうだったので、それを
見守る大人達も大声で応援した。
「ロキちゃん、ソニーちゃん、頑張って-!」
「二人とも怪我をしないように頑張れー!」
「ロキ様-、頑張って-!」
「ソニー様、しっかりー!」
ロキとソニーは気合いを入れて、それぞれの
対決相手に向かって行く。そして、イヴは・・・。
「「「すごいです、イヴ様!一瞬の間に
トリプソン様と見つめ合っただけで、トリプソン様を
瞬殺されましたよ!」」」
スクイレル達は、歓声をあげた。
「?えっ!?私、まだ、何もしてないのに、どうして
トーリ兄様、鼻血を出して、蹲ってしまったの?」
「ううっ!ミグシスが傍にいないイヴを久しぶりに見る・・・。
すごいな、ホントに美しすぎるし、可愛いすぎる!
ダメだ、直視するだけで、のぼせてしまう・・・」
「だ、大丈夫ですか?今すぐ、手当てを!」
イヴはにらめっこをしようと、トリプソンに近づいていき、
トリプソンの顔を真っ直ぐに見つめただけで、鼻血を
出されてしまったことに一瞬、呆然としてしまったが、
直ぐに気を取り直して、トリプソンの体を気遣い、
さらにトリプソンの傍に行こうとして、ミグシスに
後ろから抱きかかえられた。
「「「あっ!?ミグシス様が出てきて、イヴ様を
抱き上げて、トリプソン様と距離を・・・」」」
「ダメだよ、イヴ。イヴは、俺の愛する妻なんだから、
他の男の傍に行っちゃ嫌だよ。彼の手当てなら、
俺がするから。・・・ほら、トリプソン、こっちを
向いて、患部を見せて・・・」
「うわっ!?マジ怖!ミグシス、マジ怖いから、
魔王の黒い微笑みを止めろ!ってか、真顔で鼻に
綿花をつっこみにくるな!そんなに大量に入るわけわけがっ!
フガッ!フガフガ!」
鼻血を出したトリプソンの鼻に大量に綿花を突っ込む
ミグシスの傍では、エイルノンがロキとあっち向いてホイ!の
真剣勝負を行っていた。
「あいこでしょ!あいこでしょ!ふっ、エイルさん、
もっと本気を出してくれていいんだよ!え?それで
本気なの?本当に?嘘でしょう?まるで相手にならないな」
イヴと同じ身なりをしたロキの余裕の表情に、
クッ!と眉を歪ませて、エイルノンは必死になっていた。
「あいこでしょ!あいこでしょ!えい!この!ううっ!
イヴの弟とは言え、こんな生意気なことを言う、8つも
下の子どもに、僕は負けるわけにはいかない!!」
しかし、無情にも勝負は次の瞬間についてしまった。
「「ジャンケンポン!あっち向いて~ホイ!」」
「あっ!ロキ、勝ちましたね!すごいです!」
イヴの歓声にロキは顔を輝かせて、イヴの
元へと掛けてきた。
「わ~い!姉様!僕、勝ちましたよ!
ねぇねぇ、姉様、僕はカッコ良かった?」
「すっごく、カッコ良かったですよ!」
イヴは自分と身長が変わらない弟の頭をナデナデし、
しばらく会わない間に背が随分伸びたのですねと
言った。
ロキは勝負に勝ったこともイヴに褒められたことも、
身長が伸びたことも嬉しくて、舞台の上から、
家族達に、その喜びを報告した。
「えへへ~、姉様に褒められた!父様-!
母様-!ノーイエさん達-!僕は勝ったよ-!
姉様にも褒められたよ-!」
「「「さすがです、ロキ様!すごく
カッコ良かったですよー!」」」
「ロキちゃん、よくやりましたわー!
後で母様がお祝いのキスをあげますからねー!」
「うげっ!母様のキスはいらないよー!」
アンジュの言葉に舞台から、文句を言うロキの横で、
ソニーとベルベッサーは三文字しりとりの熱戦を
地味に繰り広げていた。
ベルベッサーは大人げなく、10才の少年相手に
る責めの攻撃を仕掛けていたが、平然と返されることで、
逆に劣勢を強いられていた。
「あ・・・、あ・・・アヒル!」
「ルビー」
「び?び・・・び・・・、ビール」
「「びーるって、何?」」
ベルベッサーが、ビールと口にするとロキとソニーは
ビールとは何かと尋ねたが、ベルベッサー自身も、
自分で口にした言葉に首をひねった。
「?う~ん・・・、ごめん、僕の負けだよ。
ビールなんて言葉、僕自身も聞いたことがないのに、勝手に
口から出ちゃったんだ。苦し紛れに適当なことを言ってごめんね」
ベルベッサーが、そう言った後、三人になった
男爵令嬢と悪役三人娘の対決場面が終わり、ロキとソニーは
観客達に大きな拍手を送られながら、退場した。
影から虐めるのではなく、正面から堂々と対決した
ことにより、悪役三人娘の誤解は解けたという
展開になり、その後三人娘は男爵令嬢との公爵令嬢の
友情と恋を暖かく見守るクラスメイトとなった。
~~~~~
イヴとミグシスが神巫女の踊りの練習と称して、
踊る場面が始まるとスクイレル達は目を輝かせて喜んだ。
「ふふ・・・、ほら、見て下さいよ、イヴ様の
スキップ!・・・昔と少しも変わっていません!
リズム感がなくても、何て可愛らしいスキップでしょう!」
「ああ、ほら、マーサ、見てごらん。イヴ様念願の
ミグシス様とのダンスだよ!ああ・・・なんて、
嬉しそうなんだ!イヴ様の、あの表情!ほら、
リングルも見てごらんよ!ミグシス様、イヴ様の
踊る表情を見て、また恋に落ちたような顔つきに
なってるよ!」
「本当だな、アダムが小さい頃に練習したときと
同じ・・・、あれは一緒に踊った男は誰もがイヴ様に
恋してしまうダンスだ!ハハハ・・・、ほら、アダムも
見ろよ!ミグシス様ったら、我慢できなくて、舞台から
イヴ様を抱えていきそうになっているのを、
エイルノン様達に、必死に止められてるぞ!」
「仕方ないよ、あんなに可愛い顔をして、ミグシス様を
見つめて、幸せそうに笑っているんだもの・・・。
ああ、ホントに僕達のイヴ様は、最高の天使だよね!」
「ふっふっふ・・・、皆、私の作った衣装が
最高に似合っているイヴ様の姿を見て、驚くといいわ!
ああっ、本当に可愛いわ!一月に見た神様よりも、
銀色の妖精姫っぽい!最高、最高すぎて、鼻血が出そう!」
「イヴ様もミグシス様も、(サリーも)楽しそうで、
本当に良かったですね、グラン様。・・・?グラン様?
どうされました?何故、お泣きになっているのですか?」
「「「「「「「「「「!?」」」」」」」」」」
セデス達11人は、言葉も無く、涙を流す
グランの姿に驚いた。
「どうされましたか、グラン様?片頭痛ですか?」
セデスが白い手布とともに、小声で問いかけると
グランは自分が涙を流していることに、今、
気付いたとばかりに、目を丸くして、右手で
顔を触り、その手が濡れていることに首を傾げた。
「いや、今日は鎮痛剤が効いているはずだから、
痛みはないのだが・・・。あれ?どうして、
私は、泣いているのだろう・・・?」
珍しく言いよどむグランに、アンジュは心配げに
声を掛けた。
「旦那様、大丈夫ですか?」
グランは心配げなアンジュの頬を撫でて、目尻に
皺を作って、微笑んだ。
「大丈夫だよ。何だか、イヴの遊んでいる姿を見ていたら、
どうしてかはわからないけれど、二つの気持ちが同時に
沸き起こったんだ」
グランが、そう打ち明けると、アンジュが今度は首をかしげた。
「二つの気持ち・・・ですか?それは一体?」
「ああ、それがね・・・、一つはイヴの楽しそうな
姿を見ることが出来て、それが嬉しくて、これが昔
イヴが言っていた、父親参観かもしれないという気持ちと、
・・・何故かは、わからないんだけど、イヴに対して私は
『一緒に、ゲームで遊んであげられなくてごめんね』
という気持ちを感じてしまっただけなんだよ」
「・・・旦那様・・・」
「大丈夫だよ、アンジュ、心配しなくていいから、
イヴが楽しんでいるのを見よう。ほら、最終幕だよ」
最終幕、卒業パーティーの場面で、カロン王が結婚を
認める台詞を口にし、スクイレル達が昨夜、皆で
準備した大量の金色の紙吹雪が舞う中、
『苦難を乗り越えて結ばれた二人は、その後、
いつまでもいつまでも仲良く幸せに暮らしました』
と劇遊びの終わりを告げる言葉の後、スクイレル達は
舞台上でカロン王がイヴに結婚の祝いの言葉を言っているのを
見て、手が割れんばかりの拍手を送った。
「さぁ、イヴさん、お終いの歌を歌いましょ!」
「ええ、ピュアさん!じゃ、手を繋ぎましょう!」
「イヴ、こっちの手は、俺と繋ごうね!」
「はい、ミグシス!」
終幕を知らせる語りが終わり、イヴはピュアと
ミグシスと手をつなぎ、他の登場人物達も皆、
イヴ達を中心に一列に手をつないだ。
そして皆で一斉に歌い出す。
・・・その歌が『僕はイベリスに永遠の愛を誓う』の
逆ハーレムエンドで流れる登場人物達全員の大合唱だと
いうことをスクイレル達は神に聞いて知っていた。
そして、彼等は・・・ついに、
『僕はイベリスに永遠の愛を誓う』が、終わったことを
知ったのだった。




