イヴを励ますために~①ライト・リングル・アダム
このお話は、本編の『イヴとミグシスとの暫しの別れ』後のお話になります。
イヴは眠っている状態のまま、気づく。
(あ、頭が・・・痛い。これ・・・頭痛だ)
起きたくない、起きたらズキンと来るだろうと思いつつ、
目を覚まし、やはり眠っている間に、頭痛が
始まってしまったのかと、気分が落ち込んでいく。
あの国を出てからも、旅の途中も痛みがあったし、
この国に来てから、何年経っても頭痛は相変わらずだった。
でもここではその辛さを口にして、伝えることが出来る。
それだけでも気分的には、とても楽になったのだけど・・・。
痛いモノは痛い・・・。
イヴは、部屋の中をそろりそろりと、なるべく
頭を動かさないように歩きながら、
自分の部屋の扉まで行くと扉の外側のノブに
札を掛けてから、また部屋に戻る。
(今日は頭痛強度4につき、部屋に籠もります)
ベッドに戻る前に、少しだけカーテンの隙間から
外を覗き、良い天気なのを確認して、ため息をついた。
今日はアンジュやマーサ達とイチゴ摘みに行く予定が
あったのに、欠席しなければいけないことを
とても残念に思いながら、ベッドに戻った。
どうして楽しみにしていることをあきらめないと
いけないのだろう?どうして頭は痛いのだろう?
と、いつもの思考が始まり、やがて、
どうして頭は体とくっついているのだろうか?
取り外しが出来れば、痛む頭を置いて、
どこも悪くない体でイチゴ摘みにいけるのに
と、頭の痛みから、ついつい突拍子もないことを
考え続け・・・、しばらくして、どうしようもないからと
ため息をつき、もう一度眠ることにするのが、
寝起き間近に気づく頭痛が起きたときのイヴの恒例だった。
イヴの頭痛は、季節の移り変わりや気温の急な変化、
食べ物、きつい匂い、強い日差し、人混み、
ストレス・・・etc.で起きるので、そのための備えを
イヴはしていたし、いつもならイヴは痛いなりにも、
気を取り直して明るく頭痛と向き合うのだが、
大好きなミグシスが旅立ってしまった今、
イヴはかなり落ち込んで、毎日を過ごしていた。
だからイヴの回りの大人達は、それぞれが、
彼女を元気づけようとあれこれ画策しだしたのだ。
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~ライトの場合
「ほら、イヴちゃん?元気をお出し!今日はイヴちゃん
の好きな『いちご大福』を持ってきたんだよ、
一緒に食べよう?」
ライトは(銀色の妖精)との約束を信じて、前世の妹と
姪を迎えるために、このバッファー国に『和食文化』を
広めていたため、米・味噌・醤油や出汁の概念、
はたまた小豆を探し出して、餡まで作って、
妹と姪の好物だった『いちご大福』の再現まで行っていた。
前世では両親を早くに亡くして、兄妹二人っきりだったため、
料理を普段からこなしていた(ライト)だからこそ、
なしえた前世知識チートによる功績だった。
「お見舞いありがとうございます、ライトおじ様。
私、これ大好きなんです。嬉しいなぁ。・・・いただきます」
同じ『ハチマキ』をライトもグランも今日は頭に
きつく巻いている。
今日の天気は、『頭痛持ち』には少し辛い天気だった。
それに加え、イヴは落ち込んだ気持ちがストレスとなって、
『片頭痛』を悪化させていた。
サリーの作った水色の『ハチマキ』を額にきつく巻き、
お礼を言って、もきゅもきゅと大福をほおばるイヴを
愛おしそうに見つめ、ライトは微笑む。
そして勝ち誇ったようにアンジュを見て、フフンと鼻で笑った。
前世チャラ男だったアンジュには料理の知識はない。
ハンカチを噛みしめて悔しがるアンジュに対し、優越感に
浸りながらも、ライトはさらにイヴを励まそうと思った。
「儂な、今あるスパイスを探していてな、それを
見つけたら、イヴちゃんに『カレーライス』という
食べ物を作ってやるから楽しみにして、待っていておくれ!」
「『カレーライス』ですか?何だろう?どんなのかなぁ?
ライトおじ様、ありがとうございます!私すごく
楽しみにしてますね!」
その日一番の笑顔をもらったライトは有頂天になった。
イヴを楽しませるためだけに、次々新たな『日本料理』を
思いだし再現していた結果、イヴが15才になるころには、
バッファー国は食文化の都として、大いに栄えることになった。
~リングルとアダムの場合
ライトの作る『いちご大福』を美味しそうに食べるイヴを
見て、リングルとアダムは嬉しい反面、悔しい思いに駆られた。
へディック国でシーノン公爵家の厨房を預かっていた二人は、
この国の『わしょくぶんか』に圧倒され、『にほんりょうり』
に敗北感を感じていた。
グランとイヴは、へディック国の貴族が食べる脂の多い食事は
元々好まなかったので、薄味を心がけてきたが、
この国での二人の食の進み具合に、自分たちの未熟さを
痛感させられて愕然となった。
しかし、二人はここでへこたれるわけにはいかないと、
努力して、それらの料理の基本から学び直して、
グラン達が喜んで食べる食事を心がけた。
そんなある日のこと。
ミグシスがいなくなり、落ち込むイヴのために、
二人はある決意を持った。
「イヴ様。私たちはあなたに約束します。
いつか頭痛にならないショコラとチーズを作って見せます。
ミグシス様が帰ってきたときに、皆でお祝いのケーキを
食べるときは、絶対にそれをお出しして見せます!」
「ホント!?本当に?リングルさん?アダムさん?」
「ええ!!私たちは、必ず作って見せます!」
「嬉しい!私すっごく嬉しいの!!ああ!!夢みたい!
私も!私もお手伝いする!私リングルさんとアダムさんの
弟子になる!
そうよ、私!ミグシスに頑張ると約束したんですの!
落ち込んでいる場合ではありませんでしたわ!ありがとう、二人とも!
私、悲しい気持ちで、いつまでもいてはいけなかったわ!
思い出させてくれて、本当にありがとう!!」
こうしてリングルとアダムとイヴによる、
『頭痛があっても食べられるショコラ・チーズ作りを研究する会』
は結成された。
この会は後に、会員数をドンドンと増やし、会の名前も
『各持病・体質に対応した食事作りの研究会』と変えて、
研究は日々行われ、その結果・・・、
食文化の都バッファー国の食聖の三大賢者の二人として、
リングルとアダムは、その名が大陸中の料理人達に広まった。
(あと一人は当然ライトである)
二人は、色んな人の体質や体調で食べられない食材を研究し、
本としてまとめたことで、医学にも大きく貢献し、
その代用食のレシピ本も出版したことで、多くの人の食の
悩みを大いに救うことになった。
すっかり有名になってしまった二人だが、それで
おごり高ぶることもなく、二人はそれまでと同じように、
リン村で慎ましく暮らした。
だってそれらの名声は、イヴとの約束を果たすための
副産物でしかなかったから。
イヴの16才の誕生日直前、二人は約束していた、
頭痛があっても食べられるショコラとチーズ作りに成功した。
・・・どこまでも澄み渡る、さわやかな晴天のその日も
リングルとアダムは『イヴショコラ』と『イヴチーズ』と
名付けたそれらを使った、とても美しいケーキを作った。
もう少しでパーティが始まると、アイビーが
会場で料理の点検をしていた二人を呼びに来てくれた。
アイビーは、色とりどりの料理を見て、目を輝かせた。
「まぁ、イヴ様の大好きなお料理ばかり!それに・・・これ、
なんて美しい『ウェディングケーキ』でしょう!!」
3人はイヴの喜ぶ姿を想像し、顔を綻ばせながら、
結婚式に出席するために、着飾っている自分たちの着衣に、
乱れがないか点検し合った。