捨てる人材 -5-
「それでは、お世話になりました」
大木は開発室を出る際に、そう皆に聞こえるような声で告げ、頭を深く下げた。
瞬間、カタカタと部屋中に響き渡っていたキーボードの打鍵音が止んだ。
手前に座る何人かが、立ち上がってパテーションの上から顔を覗かせたが、誰一人大木に声を掛けることは無く、また先の様にキーボードの打鍵音があちらこちらから響き始めた。
(寂しい奴らだな。大木 俊二が今日で辞めるってのに)
それどころか、大木は死んでしまうかもしれないのに―――と平山は胸中をもやもやとさせた。
大木はゆっくりと顔を上げると、平山の方を振り返った。
「それじゃ、行きましょうか」
そう言って大木が部屋を出たので、平山もそれに続いた。
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大木と平山は一階の倉庫の前に立っていた。
道中、大木と平山は一言も会話を交わすことが無かった。
平山が倉庫を開けようとしたところで、倉庫に鍵がかかっていることに気付いた。
「あれ、鍵かかってる」
上司の山下の話では鍵は開いているとのことだったのだが……
「すいません、鍵取って来るのでここで少し待っていてください」
平山はそう大木に言い残すと、2階にある人事部へ向かった。
捨てる人材 -5- -終-