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ヘクセンクリーク  作者: カルカン
6/9

作戦前夜

あけましておめでとうございます。

今後とも、ヘクセンクリークをよろしくお願いいたします。

部隊異動は次の日の朝に行われた。

ケニー軍曹率いる小隊は予定通りにパリストン大隊へ合流した。


「昨日異動命令を受け本部隊に配属された小隊、隊長のケニー・アンダーソン軍曹であります。」

「話は聞いている。私がこの大隊を指揮するパリストン・ディター大尉だ。」


軍曹と大尉はそう挨拶を交わす。

大尉は戦闘部隊を指揮しているとは思えないぐらいの穏やかな人物だった。


「早速だが、一つ頼まれてくれないか?」


そう言うと大尉は指令書を手渡す。

指令書には敵の塹壕、味方の塹壕問わず精密な地図が含まれていた。

その地図に二箇所、バツ印が描いてあった。


「もうじき攻勢作戦が開始されるのはわかっているな?」

「えぇ、なんとなくは…」

「ここには我々の能力者……仲間が捕虜として囚われている。普通の人間であれば殺すことはしないだろうが、相手は能力者を憎むカルパニアの兵士らだ。」


そこまで区切ってようやく大尉の言いたいことがわかった。

攻勢作戦が始まり、カルパニア軍が劣勢とわかれば速やかに撤退すると思われる。迅速な行動には捕虜は邪魔だからだ。

つまり、殺される前に救出しろということだ。

しかし……


「見たところ敵陣地奥深く………なのに我々の小隊だけでいけというのですか?」

「軍曹、無謀です。満足に支援も受けられないなら尚更です!」

「わかっている、わかっているんだ!」


大尉は悔しそうな表情でもう一つの指令書を見つめる。

そこには、少ししか読めなかったが[ユーリ]と名前が書いてあった。


「大佐からの命令である以上、私みたいな部隊長が異論を唱えたところで……」

「………」

「わかりました、その任務やり遂げましょう。」


皆が押黙るなか、アレンはそう口を開く。

 

「おい!本気かアレン!?」

「えぇ、伍長。任務である以上、やり遂げるしかないでしょう。」

「……俺もやります。」

「アーリ、貴様もか!無駄に命を散らす必要はないんだ!俺が今からでも上に掛け合って……」

「きっと、大佐は我々が戦死することをお望みのようですので……変更は無いでしょうな。」


アレンはみんながうすうす思っていたことをさらりと言い放った。

なぜ、無き物にしたいかはわからない。

しかし、断れば軍に対する反逆行為として軍法会議にかけられることは間違いない。

逃げ道は最初からなかった。


「まぁ、俺とアーリは……俺たちは死ぬつもりはないんで。」

「お前ら………しかし…」

「救える奴は救いたいんです……」

「……ふっ、どうやらうちの部隊はバカがいたようだな。」

「ぐ、軍曹…!」

「死にたくねぇが、任務なら仕方ないか……とりあえず、武器とか良いのは回してもらえるんですよね大尉殿。」

「ノエル………クッ!俺も行きますよ!ナッツの敵討ちだ!」





作戦会議が終わり、誰もいなくなった天幕で一人、作成した指令書を眺めていた。


「くそっ………たかだか一人の将校を捕まえただけで2階級だと?生意気な………」


小刻みに足を揺らしながら、吸っていたタバコを放り捨てる。


自分は選ばれた人間なのだ。

なのに現状はどうか?

ろくに戦火も挙げられず、いたずらに消耗しているだけ………

なのに……なのに…ッ!


「クソがっ!」

「どっちがクソ野郎だ………」


付近には誰も近づけ無いように警備をはっていたはずの天幕に自分とは別の声が聞こえた。

思わず立ち上がり、声の主である男へ拳銃を向ける………も、相手が味方で、自分よりも階級が高いことを確認するとすぐに銃を下げた。


「失礼しました!まさか……ここにいらっしゃるとは……」 

「語卓はいらん。単刀直入に言おう、君は本作線から外れてもらう。」

「な、なぜですか!?これから攻勢作戦が始まるというのに!」


わけがわからない。

俺の実力はこれからなんだ、なぜ外される。


頭には何故、という単語であふれる。

男はそんな様子を気にせずに話をすすめる。


「君の後任にはルイン大佐をつけておく。君は後方で支援部隊の指揮へ回ってもらう。」

「ル、ルイン大佐……ですか??」 

「あぁ、君よりも優秀な人物だ。これからの反抗作戦に必要な人物だ。そろそろ来るはずなんだが……」


その人物はよく知っている。

自分と同期であまり目立った成績も経歴も持ってない平凡な士官………

しかし、気づけば自分と同等の地位にいた人物だ。


「お、きたきた。」

「ルイン・オルタナティブ大佐、入ります。」


天幕に、自分よりも長身でスラッとした体躯に美しい黒髪をした女性が入ってきた。

男物の軍服に身を包み軍刀を下げ、眼はまるで自分を値踏みするかのごとく見つめていた。


「俺は認めないぞ……大体女にこの責務がつとまるか!!」

「そうだな、実力のない男は同じようなことを言う。お前もな。」

「なんだと??士官学校もろくな成績でしか出てないくせに!」

「人を功績だけで判断するようでは指揮官失格だな。」

「まぁいい。ルイン大佐現時刻をもって部隊指揮を執ってもらう。…貴官は速やかに引き継ぎを行った後に後方へ行ってもらう。以上だ。」

「くっ……………そおおおおおおおお!!!!!」

 

激情に駆られ思わずホルスターから拳銃を抜く。

同時に、首元に冷たい感触がはしる。

視線を向けると先ほどと変わらぬ表情でルインは軍刀を押し付けていた。


「ァ………」

「ここまで無能だったのか……」

「やりやすくなりましたね、跳ねていいですか?」


こんなところで!

俺はまだ!選ばれた人間なんだ!

どうして……


視界がぐるりと周り、そして何も見えなくなった。






翌朝、新しく装備を新調したアーリたちは今晩行われる作戦について話していた。


「部隊を2つに分ける。少人数を更に分ける危険性はわかっている。しかし、対象が離れている以上仕方あるまい。」

「どちらかの対象が死亡またはいない場合は速やかに片方の部隊と合流、ですか。」

「そうだ。編成はアーリとアレンで比較的近い地点Bを担当してくれ。俺と伍長は片方を担当する。ノエル、お前はここでもしもの場合に支援してくれ。」


決行は深夜に決まった。

なお、アーリたちの作戦が行われてから成功、不成功関係なく3時間後にすべての戦線で反攻作戦が行われる手はずになった。


「お前ら、差し入れだってよ。」


作戦を話しているところへ違う部隊の男がやってきた。手にはチョコレートが人数分あった。


「補給班から貰ってきた。お前らの話は聞いてる。まぁ、頑張ってくれや。」

「あぁ、ありがとう。」

「これは後で食べようかな、成功したあとにな!」

「いきなり楽観視か、ノエル。」

「いいじゃねぇかよ。」

「作戦時間になるまで、諸君、英気をやしなってくれ。」


軍曹はそれだけを言うと、この場をあとにした。

これからのことを思うと怖くてたまらないが、アレンや軍曹、周りのメンバーを見ているとどこからか安心感が湧いてくる。

きっとみんな無事に帰ってこれると……


そう、思ってしまった。

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