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ヘクセンクリーク  作者: カルカン
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能力者・2

辺りに激しい振動と爆音が響く。

ビリビリと空気が震えるが、土煙が巻き上がっていない。

というよりも自分が何故生きているのかすらわからなかった。


「死の恐怖を乗り切った感想はどうだい?」


周りを見渡すと自分とアレン、その周りを囲むように青白い膜のようなものがあった。


「これ…は?」

「俺の能力だ。正直ここまでうまく行くとは思わなんだが……。」


フッ、と笑って余裕を見せるアレン。

その様子を見て、張り詰めていた気が緩んだのか目眩が、起き足元がふらつき地面に座り込む。


「なんだよ………早く言ってくれよそういうのは!!」

「どうせ言っても信じないだろうが。」

「そりゃ、話には聞くけど…実際に身近に能力者がいるとは……」

「ん……!敵だ!」


アレンが叫ぶと同時に膜が消える。

機関銃を構えるが先程の爆弾の被害だろうか、フレームが大きく変形して壊れて使えなくなっていた。自分の小銃が無事なのを確認すると構え、発砲する。


「くそ、こんなときに!!アレン、お前も手伝って……お、おい!」


気付くとアレンは膝をついてうずくまり、鼻を抑えていた。

指の隙間から血がこぼれていた。


「しっかりしろ、大丈夫か?」

「大丈夫だ……ただ、あんなでかいやつを防いだのは初めてでな……俺のことは良い、早く敵を!」

「危なくなったらお前だけでも逃げろよ!!!」


目を離した隙に敵は鉄条網近くまで殺到していた。

鉄条網を越えようとしてきたときに、最前列にいた敵兵は突然悲鳴を上げて倒れ込む。

同時に味方陣地から発砲音が聞こえはじめた。

どうやら、運良く砲撃や爆弾から逃れられた兵士たちが迫りくる敵を見て、反撃を開始したらしい。続々と味方の反撃が開始された。


「アーリ!アレン!大丈夫か!!!」

「伍長!!」


伍長が陣地へ飛び込んでくる。腕には新しい機関銃を抱えていた。


「新しい機関銃だ!…よく生きてたな……!」

「伍長、アレンを後ろに頼みます!」

「アーリ、大丈夫だ!伍長、俺はいけます。」

「………わかった、無理だけはするなよ。アレンは機関銃に、アーリはそのまま撃ちそびれたやつの始末をたのむぞ!」

「「了解!」」


機関銃はすでに越えられつつある鉄条網を進む敵兵の集団をなぎ倒していった。

運良く銃弾から逃れた敵兵を小銃でトドメをさす。

どれくらい時間が経ったかわからないが、敵兵が徐々に撤退を始めた。

そこからははやく、散発的な銃声が響くだけでしばらくしたら辺りは再び静寂が訪れた。


「敵兵の撤退を確認……ふぅ……」

「機関銃撃ち方やめ、警戒を緩めるなよ。」

「ちょうどいいタイミングだったな…」


機関銃の弾薬が既にわずかとなっており、小銃の弾薬は無くなっていた。

これ以上来られたら危うかっただろう。

アーリは小銃を立て掛け、座り込む。

撃ち続けた余韻がまだ手に残っていた。


「被害報告を頼む。」

「軍曹!」

「はっ!ジョージ伍長始めアレン、アーリ3名無事であります。」


被害の確認に来た軍曹の腕には男が一人抱えられていた。

顔は布で覆われ見えなかったが、首から下げたプレートが誰なのか知らせていた。


「ナッツが………」

「ん、あぁ……砲撃が直撃したんだ。ノエルは幸い離れていて免れた。」

「ナッツ………ぐっ……うぐ……」


伍長は目に涙を溜め嗚咽を我慢していた。

聞くところによると、ナッツ上等兵は伍長が入隊直後から面倒を見てきた兵士の一人らしい。

この場は伍長とあとから合流したノエルに任せ、アーリとアレンは軍曹に連れられ作戦本部へと案内された。

作戦本部のテントをくぐると、中には軍団長を始めとした各連隊長、参謀などが集まっていた。


「アーリ上等兵とアレン上等兵入ります。」

「おぉ、来たか!」


髭をはやした老年の男、左翼に展開している部隊の軍団長アデルト少将がむかえた。


「君たちが呼ばれた理由だが、これはわかるか?」

「その紙は…捕えた将校が持っていた暗号ですか?」

「そうだ。実はこいつのおかげで敵全体の攻勢計画などがわかったのだよ。実に大手柄だ!」

「マヌケというかなんというか……ともかくこいつのおかげで戦況は我々の有利になりそうだ。」


そう話すのは第7師団長のユーリ大佐。


暗号を解読するための重要な物を手に入れただけでここに呼ばれる理由がよくわからない。

考え事をしているとそれに気づいたのかアデルトは口を開く。


「君たちの行動を鑑みて、上層部へ報奨を打診しておいたのだ。これから行われる作戦…おっとこれは極秘だから言えぬが、成功した暁には2階級特進………英雄勲章ものだろうな……」

「にっ!?2階級ですか!?」

「それは、だいぶ奮発しましたね………」


よっぽどのこと……戦死でない限り2階級特進はまずありえない。

しかもただの一兵卒が、だ。


「まぁ…これは士気を上げる一つの戦略だと思ってくれ。アレン君、君ならわかるだろう?あそこでの出来事は聞かせてもらったよ。」

「……」

「と…ともかく、この話は嬉しく思います。自分は、陣地の整備がありますので復帰してもよろしいでしょうか。」


話を終わらせようとアーリは話題をそらす。

しかし大佐はまだ、話すことがあると退出を許さなかった。


「ケニー軍曹の小隊は本日を持ってパリストン大隊への異動を命じる。」

「異動でありますか?しかし…我が隊は」

「人員の補充は無しだ。現状人数で対処してくれ。あぁ…あとパリストンには話を通してあるから明日中に準備を頼む。以上、退出していいぞ。」

「………失礼します。」


質問するまもなく命じられ、軍曹は早足にテントを出る。その後に続いて自分たちもテントから出る。


「くそ……パリストン大隊といえば攻撃専門の大隊だ……」

「軍曹、ひとまず戻りましょう。」

「ん、あぁ…すまんな。」


ぶつぶつと独り言を繰り返す軍曹とともに胸騒ぎを抱えながら陣地へ戻っていった。


陣地に戻ると、伍長はおらずノエルしか居なかった。


「伍長はどうした?」

「それが、ナッツ上等兵の遺体を供養すると言って後方へ行ってしまいました。止めたんですが、きかずにそのまま…」

「あのバカ……わかった、あいつを呼んでくる。あと荷物はまとめておけよ。」

「え?どういう……」

  

ノエルの質問を無視して軍曹は陣地をあとにした。

残された3人は荷物をまとめ始める。


「急になんだってんだよ。」

「異動だとさ。パリストン大隊とかいう部隊に。」

「パ、パリストン!?なんでまたそんな部隊に…」

「知ってるのか?」

「アレン、知ってるも何もその部隊は攻撃専門の部隊だぞ。損耗率も左翼中じゃあ、一番多い。」

「ふーん……」

「ふーんじゃないぞ!今度こそ死ぬかもしれないな……」



そんな嫌な予感を後押しするかのように雨がしとしとと降り始めた。

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