能力者・1
新しく書き直しました。
「隊長が戦死!だめだ、撤退しよう!」
「馬鹿野郎、どうやって逃げんだ!」
「落ち着け!ひとまず、ここを抜けないと…後ろに一人!」
男は冷静に、引き金を引く。
仲間の後ろから近づいてきた敵兵を撃ち倒し残り少ない仲間と撤退せんと走り出す。
「一人やられた、目ぇ覚ませ!まだここで死ぬんじゃねぇ!」
「だめだ、心臓を抜かれてる………」
「敵機上空!!!!伏せろ!!」
「間に合わない………嫌だ、死にたくない!!」
男たちが居たところは敵飛行機の銃弾になぎ払われ、さらに爆弾が降り注いだ。
砂煙が舞う。
「はァ………はァ………」
どれだけ経ったかわからない。
気づけば銃声は遠くなっており、まばらな砲声が響いていた。
「い、生きてるのか……ははっ……みんなは!」
男はよろけながら立ち上がり周りを見渡す。
男は仲間に呼びかけるも誰も返事をしない。
「先に逃げたのか?……ひっ!?」
足元でグチャっと音がし、下を見たらちぎれた手足やらが散らばっていた。
よく見ると、敵だけでなく仲間のものが混じっていた。
「そ、そんな……うそだろ…みんな……うァァァァァッ!!!」
「再編、でありますか。」
「そうだ。中隊は残った人員で再編成される。もうすぐ新しいやつが来るはずなんだが……」
先の戦闘から36時間が経過した。
敵は散発的な砲撃のみでこちらへの具体的な攻撃は無かったため、警戒態勢は維持しつつも緊張感は解かれつつあった。
大規模な戦闘だったにも関わらずこちらの損害は軽微だった。
どうやら、敵は全体で攻勢作戦に出たらしく、ここよりも右翼にいる部隊が酷いと聞く。
「なぁアーリ、知ってるか?右翼には能力者部隊が配備されてたんだけど、ほぼ全滅したって話。」
「能力者部隊?」
「あぁ、まずそこからだったか…」
「いや、部隊のことは知ってるけど、全滅ってどこから仕入れたんだよそんな情報………」
「それはだなぁ?」
「お、来たぞ!こっちだ!」
どうやら新しい人員が到着したらしく、会話が軍曹の声で分断される。
見ると、3人ほどこちらに向かってきていた。
「待ってたぞ。俺はここの小隊を受け持つケニーだ。こいつ等はアーリとノエル、二人とも上等兵だ。」
「丁寧にありがとうございます。私はジョージ・フレット伍長、隣はナッツ上等兵であります。我々は機関銃中隊からの移動であります。そして、こいつは…」
「アレン・ルナン上等兵…右翼、能力者中隊からの移動であります。」
「能力者中隊って!あの……っ!」
「ノエル!私語はあとにしろ。…まぁ、よろしく頼むぞ。」
アレン………そう名乗った男は他の誰よりも重く暗い雰囲気を纏っていた。
いまにも、そう、消えてしまいそうな様子だった。
「ひとまず、そうだな……ノエルとナッツの2名は全員分の弁当を取ってきてくれ。その間アーリとアレンは陣地にて警戒、俺と伍長は中隊本部へ着任報告を済ませるぞ。各自、行動開始!」
「了解!!!」
その場にはアーリとアレンが取り残された。
怒られる前に持ち場へ戻るべく、準備をする。
「まぁ、何だ。慣れないことはたくさんあるだろうがよろしくな。」
「……あぁ。」
「……?よし、ついたばっかで悪いがそこの弾薬を一緒に持ってきてくれ。先の戦いのせいで色々足りてなくてな………」
「お前は…」
「ん?」
「仲間が死んでも、平気なやつなのか?」
よく見ると、アレンの顔は悲しみと憤怒の表情をしていた。仲間を守れなかった、後悔の顔だ。
ここ最近よく見かける顔だ。
「平気ではないぞ。目の前で何人もやられたよ。でも、引きづってたら自分まで死んじまう。悲しむのは生き残ってからだな……おっと、早く行くぞ!怒られちまう。」
辺りは冷え込み、暗闇が辺りを覆う。
一日の終わり、夜が訪れた。
夜晩と警戒を交代し、アーリとアレンは少しばかり後ろに下がる。
定期的に届く手紙の確認、支給品など交換は前線より少し離れた場所の前線司令部で行われる。
今回はアレンを案内するという名目で連れてきた。
「あそこが作戦司令部、まぁ、だいたい右翼と一緒か。」
「まぁ、なんとなくはな。それよりここの連中はなんて能天気な奴らしかいないんだ。」
「それは………」
見渡すと酒に酔っ払い大声で歌い出すもの、酔い潰れるもの、どこから連れてきたのか、若い女性を囲みながら踊りだす兵士たち。
緊張感のない、はっきり言ってしまえばバカ共の集まりだ。
「これが左翼の実態さ……前線の下士官や兵士は寝る間も惜しみながら監視してるというのに……っ!」
つい、怒りでアーリは手に力を込める。
ここにいるのは幹部といった前線とは程遠い人物が騒いでいるのだ。
「……胸糞悪い、戻ろうアーリ。」
「そうだな……」
「戦場の女神様のお通りだぞぅーぎゃははは!」
「魔女様だー!!!崇めたまへ崇めたまへ!」
帰ろうと踵を返した途端、後ろで騒ぎ出す。
どうやら、魔女が姿を現したらしい。
ふと振り返ると、先の戦闘で出会った少女、セドナが周りの護衛に囲まれながらうつむいて歩いていた。
周りはというとただひたすらに騒いでいた。
「ここには、魔女がいるのか??」
「ん…あぁ、最近までわからなかったけど……あ、おい!」
アレンはセドナの姿を見つけると、つかつかと歩み寄った。
周りの護衛が制止に入るも、歩くのをやめなかった。
そして、セドナの前に立つと一言、言い放った。
「なぜ、こんな弛みきった、平和ボケした場所にいるんだ?」
「……なに?」
「…ッ!なぜ、俺たちのことは見捨てたッ!!」
あたりの喧騒が止むほど、アレンの声は周りに響き渡った。
気づけばすべての視線は彼に集まっていた。
「俺は元右翼第1能力者中隊にいた者だ。」
「おい、第一といやぁ……」
「あぁ、あの……」
「全滅したとかいう……」
周りはヒソヒソ声とどよめきが起こる。
とうのセドナは興味なさそうに視線をそらし、歩き始める。
「あ、おい!」
「アレン!やめるんだ……」
「ん、あんたは………あ、あんときの……」
セドナはアーリの存在に気づき振り返る
まじまじと見つめ、やがて興味なさそうに歩き去っていった。
「アレン、もう戻ろう。」
「………ここの奴らはみんなクソだ…」
二人は自分たちの持ち場に戻るべく、来た道を戻り始めた。
次の日、敵は昼頃に襲い掛かってきた。
ちょうど、昼の交代に向けて警戒網が薄くなっているときだった。
「アレン!2時方向だ!!」
「わかってる!次の弾薬をくれアーリ!」
雄叫びを上げ迫る敵兵を機関銃でなぎ倒して行く。
時々頬を敵の銃弾が掠めていく。
そして30分ぐらいたったであろうか、敵は引き始めた。
どうやら本攻めではなかったらしい。
戦闘が終わり、ほっとしているのもつかの間、すぐに警戒に戻る。
「今日も生き残れたな……」
「……そうだな。」
「もっと喜ぼうぜ。………ん?あ、おい!」
「どうした??」
「あれを見ろ!ほら、あそこの窪地!」
窪地で何やら動くものを見つけた。
よく見ると、穴から這い出ようとする人の動きだった。
「敵兵か、ちょっと行ってくる!」
「あ、アーリ!…ッチ!」
アレンは銃を構えアーリを援護する。
アーリが敵兵のもとへたどり着くと、襟首を掴み、塹壕へ引きずり込む。
「離してくれっ!やめろ!!」
「動くな!アレン、軍曹を呼んできてくれ!!」
「おいおい一人で大丈夫か?」
「いいから呼んでこいって!」
バタバタ暴れる男をなんとか地面に押し倒し、拘束する
「離せ!!くそっ!くそォ!」
「じっとしてろって!ん……なんだこれは?」
「!?…それに触るな!!」
暴れる男のポケットからはみ出るものに気づいたアーリはそれを取り出し、中身を見る。
書かれているものは、数字の羅列だった。
「これはなんだ?答えろ!」
「誰が………ッ!!」
「何かの暗号か?デジタルな時代にわざわざ紙に起こすとはアナログというかなんというか……」
「はなせぇええ!!」
「アーリ、何があった?」
「軍曹殿!」
ようやく軍曹が到着した。
後ろからは伍長とアレンも走ってきていた。
「こいつがアレンの言っていた捕虜か…何か持ってなかったか?」
「これを持ってました。」
「なんだこの紙…………まさか……」
「軍曹?」
「もしかしたら、とんでもない行動かもしれんぞアーリ、アレン。」
「それはどういう…」
突然、辺りに爆発音が響いた。
敵の砲撃が始まったのだ。
「クソッ、こんなときに!」
「アーリ、アレン!絶対に死ぬなよ!こいつは先に後ろへ連れて行く!」
「了解!」
軍曹は、男を連れて後ろへ下がっていった。
砲声に紛れてジェット音も聞こえる。
「空襲だ!」
「アレン、ここは危険だ!一旦防空壕へ下がろう!」
アーリは必要なものだけまとめて陣地から出ようとしたがアレンに腕を掴まれる。
「なんだ!」
「きっと固まっているところを狙われる。ここで待機している方がまだ安全だ!」
「くっ………わかったよ!!死んだら許さんからな!!!」
アレンは上空を見張りつつ身をかがめた。
ふと、アーリたちの陣地のすぐ横を砲弾が炸裂した。
「アーリ…」
「なんだ!今更逃げるってか!!」
「俺に……命を預けれるか??」
「なんだよ急に…怖いな…」
「どうなんだ!!」
あまりの剣幕に少しばかり怖じけついてしまった。
こんなときに何を言い出すのかと思えば……
「まぁ、ここでは生きてくためには仲間を信頼するしかないしな。そうだろ?」
「……そうか、ならいいんだ。………直上!爆弾接近!!!!」
「!?」
黒い塊が高い風切り音を鳴らしながら落ちてくる。
もう離れても、直撃は避けれても爆風や破片までも避けられないだろう。
「うそだろ…………アレ……ン?」
迫る死に今までの思い出が頭で再生される横でアレンは笑っていた。
「俺を信じろ…!」