前哨戦・1
俺が戦争に出掛けてから一ヶ月、母さん、父さん、元気ですか?
俺は元気です。
こっちは昼も夜も弾が飛んできて落ち着いて寝れません。こんなことになるならばあの時、喧嘩しないで商店を継ぐべきでした。
最近はこちらは冷えてきています。お体には気をつけて……
手紙を書いているときに、突然肩を叩かれた。振り返ると、ここに派遣されてから知り合った男がいた。
「アーリ、なんだお前遺書でも書いてんのか?」
「るせーな、手紙だよ手紙。良いだろ別に。」
「まぁ、お前が遺書なんか書くわけないか。すまんすまん。」
「お前は手紙は書かないのか?」
「ん……そーゆの柄じゃねぇからさ。まぁ、でもそのうち書くとするよ。」
そういうと彼はどこかへいってしまった。
遺書といわれ、再び手紙を書く気がなくなってしまい、紙とペンを乱雑にしまって自分の持ち場の塹壕へと向かった。
過去の大戦から半世紀過ぎたこの時代、長い平和のより戻しのように世界は揺り動いていた。
多発するテロ、宗教戦争、各種紛争。
そして、俺たちが今経験している戦争もそうだ。
魔女、能力者、そういった存在をめぐっては対立し長い間険悪であったが問題はなかったはずのカルパニア連邦との突然の開戦、兵士達にとっては寝耳に水であったであろう。ちょうど兵役更新期間であった兵士たちは特に驚いたと思う。
アーリもその1人であった。
本当であったら今頃、兵役更新を期に除隊、実家に戻って親の店を継いでいたはずだった。戦争が始まってしまって除隊のタイミングを逃してしまったのだ。
「ついてないなぁ…」
愚痴をこぼしながら持ち場へ向かう。
元々望んで軍隊へ入隊したわけではない。大学を出た直後、不景気の影響で軍人以外の職が見つからなかったからだ。
ボーッとしながら歩いていると名前を呼ばれる。
「アーリ上等兵ッ!何をしている?」
「ぐ、軍曹殿!」
目の前には、持ち場の上官であるケリー軍曹が不服そうに待っている。
「機関銃の整備を怠っているぞ!この状態で敵が来たらどうするんだ!」
「す、すみません!」
「周りの奴もちゃんと注意しろ!いつ死んでもおかしくないんだからな!」
「「「はっ!」」」
その場にいた自分の班の連中にも注意がされる。
「いいか、こういうときにこ………そ……」
軍曹の言葉が途中で詰まる。塹壕側の向こうを見つめたままで動かなくなったので、自分も気になってみてみる。
しかし、向こう側が見える前に怒号と共に頭を叩きつけられる。
「ばか野郎!頭を下げろッ!」
さっと身を隠すと同時に爆発音が聞こえた。
「撃ってきたぞ!」
「くそぉ、ほんとに攻めてきやがったぞ」
「戦闘配置につけ!アーリ、お前は機関銃につけ!」
「りょ、了解です!」
塹壕から頭を覗かせる。
敵はおよそ1㎞先の所から地響きと共に現れた。
戦車を戦闘に歩兵が随伴する機甲師団だ。
この場合、対戦車兵器で十分に対処が可能だ。あくまで対戦車兵器が充実していたらの話ではあるが……
周りを見渡すが、対戦車砲はおろかロケットランチャーすらない。正確にはあるにはあるが、それは今向かってきている戦車の数と比べると圧倒的に足りない。
司令部は何を考えていたのだろうか……
歩兵による突撃を想定?いいや、流石に前時代的発想過ぎるか。
アーリはそうぼやつく。ふと、右頬を何かが掠めていくのを感じすぐに塹壕へ身を伏せる。頬に手を当てると血が出ていた。
「上等兵、早く持ち場につけ!」
座り込んでいたところを上官に叱咤され、急いで持ち場である機関銃陣地へ向かった。
「アーリ、急げ!もうそこまで来てる!」
そう叫ぶのはアーリの同僚である、カイネ・ライト上等兵だ。機関銃を構え、向かってくる敵兵に向けて撃っている。
すぐとなりの機関銃を構え、弾を装填し同じく撃ち始める。
「歩兵の連中!戦車の後ろに隠れて倒せねぇ!」
「ロケランとかは無いのか!?」
機関銃は歩兵相手には絶大な威力を誇るものの、戦車などの強固な装甲を持ったものにはなすすべがない。
「とにかく撃たないとッ………!?」
ガッ、という音がすると自分が撃っている機関銃が止まった。
弾詰まりを起こしたのだ。
装填レバーを何度も引いてみるが、ガッチリと固まって動かない。
「こんなときにッ!」
「小銃があるだろ!………アーリ伏せろぉ!!」
カイネが叫ぶもそれより早く、辺りが赤い光に包まれた。
そして、強い衝撃と共にアーリは意識を失った。