6.死者の分隊3
熱っぽい目で自分たちを見つめるゾンビのような集団の有様に、心底呆れた様子でシスが口を開いた。
「トロワ姉は宗教団体でも造るつもりなのか」
トロワが口元をとヒクヒクと引きつらせながら、後ろ頭を掻いている。
「いや、まさか。アハハハハ……」
誤魔化しともよべないトロワの空疎な笑いに、シスが長いため息をつく。
「はぁ~~~、あいつらとずっと付き合うんだよな?」
もう、ため息しか出ない気分だ。
「も、もちろんですよ! 性能は折り紙付きですから! ニンゲンの兵隊なんか目じゃありませんって!!」
「それなら良いのだが……」
シスは、誰の折り紙付きだよ、と言いたいところをぐっと飲み込んで、思案気にトロワの顔をのぞき込む。そんなシスの気持ちも知らぬ気にトロワの言葉が続く。
「え~、あそこで恍惚としている小柄なメスが分隊長のアルファ曹長。その隣のでかくてマチズモっぽいのがベータ上等兵。あ、こっちはオスですね。で、その右斜め後ろでゆらゆらしているスキニー君がガンマ一等兵……」
シスが首を傾げる。
「ん? もっとこう違う名前ではなかったか? 名だけでなく姓も付いていた筈だが」
「それはですね、新生したわけですから、ナマエも新しい方が良いかということで、私の方で新機に付けてみました」
「だがそれにしても、もう少し普通の名前にしたらどうだ。いささか適当に過ぎるのではないか?」
「もうイイんですよ、あんなモノで。どうせ私たちの名前も適当じゃないですか。私たちは製造順、あちらは専任順ということで」
「それなら仕方が無いか……」
先ほどから頷いてばかりだ。製造順からいえばトロワの方が姉のようなものだが、精神が外見に引っ張られているのか、保護者的な気分を抱くシスがついつい譲ってしまうのだ。
「はい!」
と邪気のないトロワだが、シスとしても言っておくべきことはある。
「名前はそれで構わないが、仮にも俺達の仲間になるのなら、動物のようにオス、メスというのは頂けないな。彼らも、もうニンゲンとは違うのだろう?」
はっしと、トロワが手を打つ。
「おお! たしかに、シスの言うとおりですね。私が迂闊でした」
「仲間は大切にせねばな」
「ですね。反省しますから、許してください」
トロワは背後のシスへと振り返り、片手で拝むふりをする。
「了解だ。では、先ずは仲間になった連中の身なりを整えさせたらどうだ。アレでは酷すぎるぞ」
トロワが流れるような動作でシスに敬礼する。
「了解しました、少佐殿!」
「たしかに表立っての階級はそうなのだが、トロワからそう呼ばれると違和感があるな」
「まあ、そう言わずに。私もいちおう中尉を拝命していますので」
「俺の記憶では、トロワの方が活躍していたような気がするのだが……」
「私の活動は主に暗躍系ですから、軍としても隠しておきたかったのでしょう。現場のオペレータと共同作業をするのに、支障の無い程度の階級と言うことですね。その点シスはブリキの兵隊相手にあれだけの活躍をしたわけですから、それに見合った階級を付与しないわけには行かなかったのでしょう」
「俺としては不本意なのだがな」
「有名税みたいにものですから、この際アキラメましょう」
「だが連合皇国軍を抜けるのに、そこの階級のままというのは変ではないか?」
「それでは、私たちも新興勢力になったということで、それらしい階級で行きますか? 例えば大佐殿とか」
トロワがウインクしながらシスに敬礼をして見せた。
「だが、なぜ大佐なんだ?」
「え? 将軍でも全然構わないんですが、そういうカクメイ的なリーダーは、自称大佐なのでは?」
「いや、そういうのは止めておこう。そもそも俺には階級など不要だ」
「ですが兵を指揮するのに、階級はあった方が便利ですよ? シスは立っているだけでも威厳がありますから大丈夫かも知れませんが、彼等は兵士として再生しましたので、上官からの命令という形を取った方が、より抵抗なく従える筈ですし」
「そういう事なら、しかたがないか。そうであれば、トロワも新しい部下の面倒を見てやったらどうなんだ」
「そうですね、私としたことがウッカリしていました」
そう言ったトロワは姿勢を正し、兵士達に向けて声を張り上げる。
「分隊、整列!」
それまで、てんでばらばらに立っていた兵士達が一列横隊となって整列する。
「総員傾注せよ! 私が小隊指揮官のトロワ中尉だ。以後、こちらのシス少佐どのが我々の指揮を執られる。先ずは、貴様たちのみすぼらしいなりを少佐どのが気に掛けておられる。これより各員の判断にて付近の使用可能な設備を用い、身なりを整えるように。共和国軍が化学兵器を散布したことから、現在この付近は無人地帯となっていが、トラップ等の残置も予想されるので、各員留意せよ。なお、諸君に対して化学兵器は生物兵器と共にその効力を持たないので、今後、現在着用中の防護服は不要となる。防護服はまとめて廃棄するのでこの場に持ち帰れ。再集合は30分後。では諸君、少佐どのお情けを存分に甘受せよ! 以上!」
話の終わりを待って一斉に敬礼した分隊員たちへ、トロワが答礼を返す。
血糊で汚れた顔を輝かせながら、兵士達は路面に擱座してた2台の軌道車へ駆け寄り、車内から各自のダッフルバッグを引っ張り出した。後部ハッチを開いてライフルラックから0.308吋自動小銃を抜き出してスリングで肩から斜め掛けにする。6個のポケットに2本ずつ、計12本の30連弾倉を入れたマガジンベルトを腰に巻くと、こんどは0.35吋短機関銃を手に取る。0.35口径自動拳銃弾を使用する、全長16インチほどの玩具のような外見の銃だが、狭い建物の中などではライフルよりもこちらの方が使い勝手が良い。短機関銃用の細長い30連弾倉も、タクティカルベストのポケットに突っ込む。
爛々と目を輝かせた兵士達は、短機関銃を腰だめにして、通りに面したビジネスホテルへと向かった。勢いに任せて、ホテルを攻め落としにでも行こうかという風情だが、彼等は単に客室に備え付けられたシャワーを使って身体の洗浄と着替えを行おうとしているだけなのだ。
復活した兵士達の様子を見ながらシスがぼそっと零す。
「少し元気が出すぎているようだが、本当にアレで良かったのか?」
「いや、まあ……元気がないよりは、良かったかなあと。なにせ、さっきまで死んでたわけですし……いやハハハ」
トロワの広角がピクピクと引きつっている。精悍な美貌に影が差して、瞳もどんよりと濁っているようだ。
「たしかに死んでいるよりは、好ましい状態だ。せっかくトロワが丹精したのだ、役に立ってくれると思いたいな」
それを聞いてトロワの目に光が戻った。
「そう! そうなんですよ! 神経伝導速度は一桁以上はアップしていますし、筋組織や骨格も強化済みなんですよ。弾よりも速くは動けませんが、銃の射線を避けるなんてのは朝飯前ですし、子象だって持ち上げられます!」
「象?」
「いえ、幾ら何でも大人の象はムリですって。3歳ぐらいまでですから」
「だから、なんで子象なんだ」
「え? だって可愛いでしょう、子象」
機能的には有り得ないのだが、シスは頭痛が起こりそうな気分だった。片手で額を押さえながらトロワに続きを促す。
「そうかも知れないな。力があるというのはわかった。それで、他の機能はどうなんだ」「そういえば、大事なことを説明していませんでしたね。彼等の能力の中で、もっとも素晴らしいことは、防弾装備無しでも小銃弾の効果がないということです。眼球に当たっても平気ですよ。敵が分隊支援火器で弾幕を張っている間にも、頭を下げずに活動を継続できますから、歩兵戦術が根本的に覆ります。強襲も思うが侭ですね」
「それは素晴らしいな。随分と頼もしい兵士になりそうだ」
「お任せください。なかでもアルファ曹長は、私の補佐が出来るレベルで潜入系の能力を強化していますから、私たちの活動の助けになると思います。獲物なしでも一個小隊ぐらいなら素手で殺し尽くせますし、インストールしたスニーキングスキルは伝説のニンジャマスターに匹敵するのではないかと……」
言葉を続けるトロワに、シスがうながした。
「そのアルファ曹長がこちらに来るようだぞ」